PROMOTION
クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
TOPコレクション 見ることの重奏/東京都写真美術館
東京の恵比寿にある東京都写真美術館で「TOPコレクション 見ることの重奏」展が開催されています。
同館の約3万7千点を超えるコレクションから、19世紀の作品から現代まで、世界各国の14名の作家による100点の写真作品で構成された展覧会です。
日々、数え切れないほどのイメージに触れる私たちですが、この展覧会では、1点ずつの作品にじっくりと向き合い、1枚の写真が持つさまざまな意味を味わうことができます。
本展の特徴のひとつは、写真家が撮影した写真プリントとともに、他のアーティストや批評家らがその写真家や写真を評した言葉が添えられている点です。
これらの言葉は、時に作家自身の糸とは異なる視点も提供してくれます。
ウジェーヌ ・ アジェの写真とワルター・ベンヤミンによる批評(「TOPコレクション 見ることの重奏」 展示風景)
例えば、19世紀末から20世紀初頭にかけてパリの街並みや風景を撮影してきた写真家ウジェーヌ ・ アジェは、「芸術家のための資料」として写真を販売しており、芸術表現としての写真の発表は行っていませんでした。
しかしその写真は、アーティストのマン・レイや、マン・レイのアシスタントも務めた写真家ベレニス ・ アボットらによって高く評価され、シュルレアリスム運動のアーティストたちに大きな影響を与えていきました。
ウジェーヌ ・ アジェ 作品(「TOPコレクション 見ることの重奏」 展示風景)
会場では、アジェの写真に、批評家 ワルター・ベンヤミンの「犯行現場を撮影するように街路を撮影した」といった評も添えられており、鑑賞者に新たな視点を提示します。
また、植物学者アンナ・アトキンスは、植物標本に挿絵ではなく「サイアノタイプ」(青写真、日光写真)という方法を採用しました。
アンナ・アトキンス《ギンシダ(ジャマイカ)》 1851-1854年 東京都写真美術館蔵
彼女の作品も、当初は芸術表現を意図したものではありませんでしたが、結果として植物写真のパイオニアとして知られるようになりました。作家本人の意図とは異なる形で、写真に新たな意味が加えられていくようすが伺えます。
本展のもうひとつの特徴は、展示の構成です。展示室には二重の円環状に壁が配置されており、章立てや順路もなく、鑑賞者は自由な順序で作品を鑑賞できます。
観る順序によって、作家同士や作品同士のつながりも見えてきます。
円環状に壁が配置された会場(「TOPコレクション 見ることの重奏」 展示風景)
例えば、アジェの作品はマン・レイやベレニス ・ アボットによって評価されましたが、この3名の作品を順に鑑賞すると、それぞれの作家からの影響も感じられます。
ベレニス ・ アボット <変わりゆくニューヨーク>シリーズより 東京都写真美術館蔵(「TOPコレクション 見ることの重奏」 展示風景)
また、作品のモチーフや技法のつながりも見どころのひとつ。
マン・レイの展示作品のひとつ《埃の培養》は、マルセル・デュシャンの作品《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》(通称「大ガラス」)を撮影したもの。
デュシャンのアトリエで長い間ほこりを被っていた作品を撮影した本作は、考古学者のような目でデュシャンの作品を捉えたといいます。
奈良原一高 <デュシャン / 大ガラス>より 1973年 東京都写真美術館蔵(「TOPコレクション 見ることの重奏」 展示風景)
その作品の向かいには、奈良原一高が同じく「大ガラス」を撮影した「《デュシャン/大ガラス》より」の連作が展示されています。
奈良原は、他のアーティストが制作した作品を自身の写真作品として撮影することに抵抗を示していましたが、美術評論家の滝口修造からの依頼を受け、「単なるガラス」としてこの作品を撮影することを決意したのだそう。
同じモチーフを前にしても、作家によって全く異なるまなざしで写真が撮影されています。
東京都写真美術館にコレクションされた後、本展が初公開となる作品も。
そのひとつは、中国のアーティスト チェン ・ ウェイの作品で、2023年に収蔵され、今回初めて公開されます。
チェン ・ ウェイ作品 (「TOPコレクション 見ることの重奏」 展示風景)
一見、身近な街の風景を撮影したスナップショットのようにも見えますが、これらは彼のスタジオでシーンを再現して撮影したもの。
中国での現実社会で感じる「リアルな感触」を見直し、翻訳して表現しています。
彼の制作スタイルは、日常の中で「観ているようで観ていないもの」をどのように再現するかを考えながら創作するもので、本展のタイトル「観ることの重奏」と共鳴するようです。
また、日本のアーティスト 寺田真由美の作品も収蔵後、初めて展示されます。
寺田真由美作品 (「TOPコレクション 見ることの重奏」 展示風景)
日差しの差し込む部屋や、窓辺で風に揺れるカーテンなど、人影のない美しい光に満たされた空間を描き出していますが、これらは、寺田が制作したミニチュア模型を日光の下で撮影したもの。
静かで美しい空間には、不思議な違和感が漂う作品です。
特定の時代や場所を表さず、また、タイトルにも特定の事象を表現していないその写真は、観る人の想像力をかき立てます。
なお、本展の終盤には、日本の写真家 杉浦邦恵による「フォトグラム」の手法を用いた作品も展示されています。
植物などを感光紙の上に直接置き、光を当てて撮影したそれらの作品は、展示序盤のアンナ・アトキンスの植物写真ともつながりを見せ、円環状の展示室を通じてさまざまな写真のつながりを楽しめます。
杉浦邦恵作品 (「TOPコレクション 見ることの重奏」 展示風景)
展示室をさまざまな動線で行き来し、作品同士が重なり響き合う「重奏」のような体験を通じて、観ることの楽しさを味わえる展覧会です。
本展では、ひとつひとつの写真作品をじっくりと鑑賞しながら、作家・批評家・鑑賞者のそれぞれの立場のまなざしを感じ取ることができ、また、同じモチーフに対しても作家によってまったく異なるまなざしが向けられたりすることにも気づかされます。
作品を鑑賞する際、「正解」の見方を求めてしまうこともありますが、必ずしも作家本人の意図や、規定の見方にとらわれる必要はなく、自分の視点で見ることの楽しさも感じられる展覧会でした。