塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
感覚する構造/WHAT MUSEUM
東京・天王洲で、600点以上もの建築模型を保管する「建築倉庫」を併設しているWHAT MUSEUM。
こちらで、「感覚する構造 ‐ 力の流れをデザインする建築構造の世界 -」が開催されています。「構造」の視点から、建築の魅力と、新しい建築の可能性に触れる本展覧会をご紹介します。
建築を観るのが好きでも、「構造」と聞くと難しく感じますよね。でも、建築家たちによる独創的なデザインの建築を重力のある空間で実現するためにも、また、わたしたちがその建築の中で安心して過ごすためにも重要な分野です。
今回の展覧会では、関東大震災から100年となる今年、地震の多い日本で発達した「構造」の分野に注目し、4つのテーマで紹介しています。
「感覚する構造 – 力の流れをデザインする建築構造の世界 -」展示風景
今回の展覧会では、古代から現代までの名建築の構造模型を30点以上展示し、「構造」の魅力を紹介しています。
「建築家と構造家の協働」のコーナーでは、「建築家」と「構造家」とのシナジーによって生まれてきた独創的な建築が、模型とともに展示されています。
構造家・佐々木睦朗の手掛けた建築の模型が展示される 「建築家と構造家の協働」展示室
「建築家」の名前はよく耳にするものの、「構造家」という職業の方の名前はあまり耳にしませんよね。でも、地震が多く、構造の分野が発達している日本では、必ず建築家と構造家がコラボレーションして建築を作っていくという特徴的なスタイルで設計が行われます。
「多摩美術大学図書館 (八王子キャンバス)」
建築設計:伊東豊雄建築設計事務所
構造設計:佐々木睦朗構造設計研究所
このコーナーでは、建築のノーベル賞とも呼ばれる「プリツカー賞」を受賞した、世界的にも有名な建築家・磯崎新、伊東豊雄、妹島和代+西沢立衛/SANAAという 4名と、彼らとともに構造設計を行ってきた構造家・佐々木睦朗との協働による建築作品を中心にピックアップ。
「瞑想の森 市営斎場」
建築設計:伊東豊雄建築設計事務所
構造設計:佐々木睦朗構造設計研究所
例えば、宮城にある「せんだいメディアテーク」を着想した際の伊東豊雄のスケッチと、それを具現化することを検討した佐々木睦朗のスケッチを並べ、建築模型とともに紹介しています。
「せんだいメディアテーク」
建築設計:伊東豊雄建築設計事務所
構造設計:佐々木睦朗構造設計研究所
柱が1本もなく、7枚の床とそれを支える13本のチューブだけで構成された建築は繊細に見えますが、2011年の東日本大震災でも免震構造の本建築は本当にそのまま安全に維持され、構造の役割が改めて注目されました。
構造の仕組みを、模型などを使って体験できるのも本展示の特徴です。
「枕型多面体と高床が同時展開する滞在モジュール / 月の縦孔のベースキャンプ」
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 佐藤淳研究室、佐藤淳構造設計事務所
例えば、「宇宙空間へ」のコーナーでは、東京大学の佐藤淳研究室とJAXAが共同開発している月面の滞在モジュールの1/10模型をはじめて展示していますが、実際に触れる模型もあわせて複数展示されています。
滞在モジュールスタディ模型が多数展示された「宇宙空間へ」コーナー
宇宙で建物をつくるには、コンパクトにロケットに積みこみ、月面で簡単に展開して、広い空間を作る機構が必要です。収納時はコンパクトで、展開すると大きな空間になる構造や、ボルトなどを使わず組み上げられる構造など、手に取って試すことで、より理解が深まります。
実際に手に取って体験できる模型も用意されています
また、「素材と構造」のコーナーでは、構造デザインを考える上で重要な「素材」に着目しています。本展では特に、滋賀県立大学の陶器浩一研究室が手掛けている竹という素材にクローズアップ。釘などを使わずに強固な構造をつくり、解体・再組み立ても容易な木組み技術も触って体験できます。
「素材と構造」のコーナーでは 竹を使った木組みの模型を手に取って体験できます
「力の流れと建築」のコーナーでは、「膜構造」や「吊り構造」といったいくつかの基本的な構造の仕組みを、様々な建築模型をつかって紹介。それらの構造が、どう建築に活かされているのかを観ることができます。
「力の流れと建築」コーナー 展示風景
奈良や江戸の時代の建造物を再現した模型もあり、古くから、そうした合理的な構造を組み合わせ、美しい建築が作られている様子を観ることができます。
”吊り”の構造が美しい 「国立代々木競技場」の建築模型
また、伝統的な構造だけでなく、新しい構造デザインが、いままでにない建築の意匠をつくりだすことも。
ガウディはかつて「逆さ吊り模型」を使って、実験的に教会の設計を行いましたが、建築家が形を決めて構造家がそれをフォローするのではなく、実験で理想的な構造形態を求めてから総合的にフォローしていくという逆転の発想は、建築家 磯崎新にも影響を与えました。
「感覚する構造 – 力の流れをデザインする建築構造の世界 -」展示風景
「建築家と構造家の協働」コーナーに展示されている「フィレンツェ新駅(コンペ案)」は、この考え方を応用し、コンピュータアルゴリズムによって力学的に安定する形を見つけ出し、それを建築の設計に落とし込んだもの。
「フィレンツェ新駅 (コンペ案)」
建築設計:磯崎新アトリエ
構造設計:佐々木睦朗構造設計研究所
独創的な意匠を構造で具現化するだけでなく、構造計算から新しいデザインを生み出すなど、「構造」から新たな可能性が広がることを感じられます。
展示室壁面に描かれた「全国構造マップ」
あまり耳慣れない「構造デザイン」という分野に注目したこの展覧会。基本的な構造は昔から変わらない部分がありつつも、新しい構造の設計手法や、新しい材料、加工方法などが加わることで、独創的な建築が生まれることを体感できる展覧会です。
会場の最後には、構造的に興味深い47都道府県の建築をピックアップした「全国構造マップ」も展示されており、実際の建築を観に行きたくなります。構造にも着目することで、建築を観る楽しみが一段増えるかもしれませんね。