アートな街歩き(銀座〜日本橋編) ヴェルサイユ宮殿の写真展から没入型のアートイベントそして現代作家の超絶技巧の工芸展まで

2023年10月18日

アートな街歩き(銀座〜日本橋編) ヴェルサイユ宮殿の写真展から没入型のアートイベントそして現代作家の超絶技巧の工芸展まで

今回のアート街歩きは、有楽町駅を起点に、中央(銀座)通りを進み、日本橋を抜け、三越前までを巡るコースです。

ヴェルサイユ宮殿の写真展や、現代アーティスト山口晃の展示、新感覚の没入型アートイベント、そして話題の現代作家による超絶技巧の工芸展を楽しめます。

このルートは、秋の爽やかな風を楽しみながらの散策にぴったりだと思います。

〈有楽町〉
テクノロジーとアートが交差する、未来への扉を開く

SusHi Tech Squareは、JR有楽町駅の京橋口の近くにある、以前は東京オリンピックの情報発信、その前は無印良品の店舗などが入っていた建物にあります。

現在開催されているのは、「わたしのからだは心になる?展」。アートとテクノロジーを掛け合わせ、今後の身体のありようを問いかけていく展示となっています。


SusHi Tech Squareで開催されている「わたしのからだは心になる?展」

展示のテーマは「わたしのからだは「・・・」になる」と題されています。

「あの子」のセクションでは、「やわらかい分身ロボット」が子供やペットとして登場し、これが「あの子」の代わりとなって接してくれます。「誰か」のセクションでは、Uber Eatsから着想を得た「Uber Existence」という新しいコンセプトの「存在代行」サービスが展示されています。このサービスでは、代行者が「お祭り」のような特定のイベントを体験し、ユーザーはモニターを通じてそれを体感することができます。

展示に関する詳しい説明は、常駐しているアートコミュニケーターが丁寧に教えてくれます。また、平日の夜7時からはビジネスパーソン、休日の昼2時からは家族連れ向けの鑑賞ツアーも行われています。


いろいろなセクションでアートとテクノロジーの可能性を探ります

さらに、東京2020オリンピック・パラリンピックに関連するレガシー展示も行われています。

この展示では、実際に使用された聖火、各種メダル、表彰台、そして開会式でMISIAが「君が代」を歌う際に着用した衣装なども見ることができ、その歴史的なイベントを再び思い起こすことができます。

展覧会名:わたしのからだは心になる?展
開催期間:2023年8月30日~11月19日
会場:SusHi Tech Square 1F
公式サイト:https://sushitech-real.metro.tokyo.lg.jp/first/

〈銀座〉
ヴェルサイユの美の宮殿をモノクロの視点で再訪

松屋銀座の向かいのシャネル銀座ビルディングの4階にあるシャネル・ネクサス・ホールは、コーポレート・ギャラリーとして2004年にオープンしました。

芸術を愛し、支援していたガブリエル・シャネルの精神を受け継ぎ、年に数回、若手音楽家のコンサート、国内外のアーティストによるクオリティの高い展覧会が開催されています。また毎回、同じ会場とは思えないほど展示構成には凝っています。

ギャラリーの入口は正面でなく、建物横から入場できます。ギャラリーに行きたい旨を伝えると直通のエレベーターを案内してくれます。


モノクロの写真がマッチしたモノトーンベースの会場

今回の展示は、ブルボン朝の絶対王政時代の栄華を伝える貴重な世界遺産でもあるヴェルサイユ宮殿。フランス革命が勃発するまで、国王の居城とされ、優雅な宮廷文化の舞台となりました。

インテリアデザイナーで、写真家としても活動している森田恭通が、黄金と光の煌めきに満ちたバロック建築の傑作をあえてモノクロ写真に収めました。注目すべきは、真夜中を除いてほぼ自然光のみで撮影されている点。これにより、照明を使用せず、ヴェルサイユ宮殿の真実の姿を感じさせてくれます。


写真が映える展示構成も見どころのひとつ

展覧会名:In Praise of Shadows ヴェルサイユ宮殿 森田恭通 写真展
開催期間:2023年9月27日~11月5日
会場:CHANEL NEXUS HALL
公式サイト:https://nexushall.chanel.com/program/2023/versailles/

〈京橋〉
現代美術家がセザンヌや雪舟を新たな視点で解釈

1952年、ブリヂストンの創業者石橋正二郎は、ブリヂストンビルの2階に美術館を開館し、自らのコレクションを展示しました。

2020年、アーティゾン美術館として再オープンしたこの美術館は、「ミュージアムタワー京橋」23階のビルの低層部に位置しており、1階がエントランス、4~6階が展示エリアとなりました。展示面積は旧美術館の2倍に拡大しています。ちなみに、美術館のデザインを手掛けたのはTONERICO: INC.で、彼らは東京都内の銀座の蔦屋書店や新宿の北村写真機店のデザインも行って、この美術館も、現代的なセンスでホワイトキューブのインテリアで整えられています。

「ARTIZON」という名前は、「ART」(アート)と「HORIZON」(地平線)の2つの言葉を組み合わせたもので、この名前には、新しいアートの展望を多くの人々に体験してもらいたいという思いが込められています。


ジャム・セッションは、アーティストと学芸員が一緒に作り上げる企画展

「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃」は、アーティストと学芸員が一緒になって展示を作り上げる企画展で、過去の作品を参照し、新しい視野や刺激を元に新しい作品を生むプロジェクトです。2020年のリニューアルオープン以降、毎年1回開催され、歴史と現在をつなぐ取り組みを展開しています。
メインアーティストの山口晃は雪舟の《四季山水図》とセザンヌの《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》を選び取りました。特にセザンヌの作品に関しては、展示のために美術館を7回訪れて模写を実施しています。この模写のプロセスを通じて、絵に深く向き合い、新たな発見や描画のテクニックをまとめた「自由研究」の手書きノートがあり、それを元の絵と並べて読むことが可能です。

東京2020オリンピック・パラリンピックで公開されていた20の公式ポスターの中で、山口が手がけた東京パラリンピック用の《馬からやヲ射る》。この作品の原画や、依頼を受けて実際に描くまでの葛藤をコミックの形で見ることができます。


今回、ジャム・セッションで山口晃が選んだのはセザンヌ

展覧会名:ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン
開催期間:2023年9月9日~11月19日
会場:アーティゾン美術館
公式サイト:https://www.artizon.museum/exhibition/detail/558

〈日本橋駅〉
再構築された日本橋の鳥瞰図のパブリックアート

東京メトロのパブリックアートを1点ご紹介します。

先ほどのアーティゾン美術館でも展示があった《日本橋南詰盛況乃圖》は、東京メトロ銀座線の日本橋駅にステンドグラスとして飾られています。この作品のデザインおよび原画は、山口晃が手掛けました。

アーティゾン美術館での展示では、フレームで覆われている部分も含めた完全な原画を鑑賞することができます。山口晃の展示と合わせて、訪れてみてはいかがでしょうか。


日本橋高島屋前のステンドグラス《日本橋南詰盛況乃圖》原画・監修:山口晃

作品名:ステンドグラス《日本橋南詰盛況乃圖》原画・監修:山口晃
場所:東京メトロ銀座線日本橋駅B1出口付近 パブリック・アート
公式サイト:https://jptca.org/publicart549/

〈三越前〉
後期印象派の魅力を没入型アートで体験

”Immersive Museum”の意味は”没入”で、上映された絵画に360度囲まれながら、絵に没入できる展覧会です。昨年は印象派の作品のイベントが開催されましたが、今年はその後のポスト印象派の作品をフィーチャーし、少し時代が進んだ展示内容となっています。

メイン展示は、スーラ、セザンヌ、ゴーガン、そしてゴッホの4名です。点描技法で新印象派の先駆けとなったスーラ、モチーフの形を基にしながらも後のキュビズムへの道を開いたセザンヌ、自らの想像を加えて視覚化したゴーガン、直感的な感覚をキャンバスに表現したゴッホといった、それぞれ独特な技法とキャラクターを体感することができます。


没入型のアートイベントで後期印象派を振り返ります

展示スペースには、ゆっくりと体を沈められるローソファがあり、各演目は約20分間ほどで、2度楽しむことも選択肢の一つです。さらに、音声ガイドアプリで、音声を聞きながら鑑賞した方が理解は深まると思います。

ただ、音声ガイドは操作が少し複雑なので、余裕を持った時間配分が必要かもしれません。


壁面いっぱいに広がるゴッホのひまわりのインスタレーション

展覧会名:Immersive Museum TOKYO 2023“ポスト 印象派” POST-IMPRESSIONISM
開催期間:2023年7月7日~10月29日
会場:日本橋三井ホール
公式サイト:https://www.immersive-museum.jp

〈三越前〉
驚きの技巧!素材感から感じるアートの深み

三井記念美術館は、2005年10月に日本橋という三井家や三井グループとのつながりが深い場所に移転し、新たに開館しました。

こちらの美術館には、《志野茶碗 銘卯花墻》をはじめとする6点の国宝や、《黒楽茶碗 銘俊寛》、《唐物肩衝茶入(北野肩衝)》を含む75点の重要文化財、さらに4点の重要美術品があり、中核は茶道具となっています。また絵画も、円山応挙の名作である国宝《雪松図屏風》をはじめ、円山派の作品が数多く収蔵されており、これは三井家が応挙を支援していた歴史が背景にあります。美術品のコレクションは、約4000点を有します。


過去に2度開催された超絶技巧の工芸展の第3弾

現在、特別展「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」が開かれています。

過去に2度開催されたシリーズ展の第3弾で、全国7ヶ所での巡回が計画されています。今回の展示では、現代の作家たちがどのように技術を極めているのかが注目点です。例えば、水を飲む蝶やプチプチで覆われた荷物、スパナや工具箱、グローブとボールを一見すると、材質からは想像もつかない作品となっています。伝統的な技法をベースにした現代的な漆工や陶磁、ガラス作品にも驚かされます。さらに、明治時代からの並河靖之や濤川惣助の七宝作品とともに、他の工芸品も鑑賞できます。これにより、明治時代と現代の技術の極みを比較して楽しむことができます。


木彫で制作したアゲハ蝶が水を吸っている作品、福田亨《給水》2022

展覧会名:超絶技巧、未来へ!明治工芸とそのDNA
開催期間:2023年9月12日~11月26日
会場:三井記念美術館
公式サイト:https://www.mitsui-museum.jp/exhibition/

さいごに

今回のルートは、有楽町から中央通りで三越前まで歩く約3km弱の距離となります。

銀座の華やかな街並みから京橋あたりからオフィス街にその様相を変えていきます。高島屋やコレド日本橋、老舗のお食事処などに立ち寄るのもよいお散歩になりそうです。