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2024年11月21日
真冬の冷たい空気のなかで咲く花々は、どこか健気に思えませんか?
今回のテーマは、ガーデニングの定番・パンジーです。寒さに強いパンジーは、秋から春までの長い期間楽しめることから、冬の花壇によく使われます。
とてもポピュラーな花ですが、詳しいことは知らない人も多いのではないでしょうか。
このコラムでは、この花に関連した美術品やミュージアムもご紹介します。読めば、パンジーにもっと親しみを感じられるようになるかもしれません。
パンジーは、19世紀初頭のヨーロッパで、品種改良されて生まれた園芸種です。特に小さな花を咲かせるものは、「ヴィオラ」と呼ばれています。
スミレの仲間ですが、日本に昔からあったスミレとは少し種類が違う花です。
パンジーの名前は、フランス語で「思想」を意味する”pensée” から来ています。
メアリー・ヴォー・ウォルコット《無題(パンジー)》
スミソニアン・アメリカ美術館 https://www.si.edu/object/untitled-pansies:saam_1970.355.788
考えごとをしている人の顔にも見えるせいか、「人面草」と言われることもあります。
また、蝶がひらひらと遊ぶように舞う姿に似ているからか、「遊蝶花(ゆうちょうか)」「蝶々花」「胡蝶菫(こちょうすみれ)」といった雅な異称も持っています。
ときには「三色スミレ」とも言われますが、正確に言うと「サンシキスミレ」はパンジーの原種のひとつで、別の花を指します。
パンジーもヴィオラも、エディブルフラワーによく使われます。花壇や庭だけでなく、食卓も華やかにしてくれる花なのです。
パンジーは近代に誕生した品種ですが、時折ギリシャ神話やシェイクスピア作品に登場すると語られることがあります。
たとえば、『ハムレット』のヒロインを描いたジョン・エヴァレット・ミレイの傑作《オフィーリア》 には、パンジーらしき花が描かれています。
ジョン・エヴァレット・ミレー《オフィーリア》テート・ブリテン美術館(撮影:スフマート編集部)
劇中、オフィーリアは以下のセリフを口にします。
“And there’s pansies, that’s for thoughts”(訳:そしてこれはパンジー、物思いの花です)
ただし、この「pansies」は、私たちがよく知るパンジーではないようです。当時は、野生種のサンシキスミレがこう呼ばれていたと思われます。
同じくシェイクスピア作品の『夏の夜の夢』 でも、惚れ薬に使う花がパンジーとされることがあります(原文では” Love-in-idleness”)。
妖精王オベロンはこの花を「キューピッドの放った矢が白い花に当たり、そのときの傷で紫色に染まった」 と説明します。キューピッドはローマ神話のクピドのことで、ギリシャ神話のエロスと同一視される神です。
もちろん、シェイクスピアの時代にも神話の時代にも、現代のパンジーはありません。これも、サンシキスミレなどの別の花でしょう。
サミュエル・カズンズ(原画:エドウィン・ランドシーア) 《真夏の夜の夢の一場面》
ナショナル・ギャラリー・オブ・アート https://www.nga.gov/collection/art-object-page.119693.html
19世紀半ばにはすっかり人気者になったパンジー。もちろん、芸術家たちも放っておきませんでした。
アンリ・マティス やフィンセント・ファン・ゴッホ 、オディロン・ルドンといった、有名画家たちが、パンジーを描いた作品を残しています。
オディロン・ルドン《パンジー》
ナショナル・ギャラリー・オブ・アート https://www.nga.gov/collection/art-object-page.46301.html
特に、花の静物画で人気を博したアンリ・ファンタン=ラトゥールは、パンジーの絵を何作も描きました。
アンリ・ファンタン=ラトゥール《パンジーの静物画》
メトロポリタン美術館 https://www.metmuseum.org/art/collection/search/436294
絵画だけでなく工芸品でも、パンジーの名作がいくつも生み出されています。
ルネ・ラリック《パンジーのブローチ》
ウォルターズ美術館 https://art.thewalters.org/detail/14327/pansy-brooch/
ティファニー 社《パンジーのブローチ/ペンダント》
クーパー・ヒューイット国立デザイン博物館 https://collection.cooperhewitt.org/objects/18497621/
日本では、特に洋画家の岡鹿之助が、パンジー(三色スミレ)をモチーフとして好んでいました。彼にとって、パンジーの形や色はどんな花より親しみを感じるものだったようです。
いわさきちひろは、色彩豊かで優しい雰囲気の画風が人気の絵本作家・画家です。特にこどもや花をよく描き、その作品は今でも色褪せることなく、多くの人々に愛され続けています。
東京都練馬区にも彼女の美術館がありますが、安曇野ちひろ美術館のある松川村では、毎年春の初めに「まつかわ花咲きまつり」が開催されます。
このイベントで注目したいのは、パンジーでいわさきちひろの作品を再現した地上絵。
パンジーの販売も行われており、まさにこの花を楽しむのにぴったりのスポットです。
住友グループの創業者・住友家のコレクションを所蔵しているのが泉屋博古館東京です。京都と東京の2か所に美術館があります。
中国の古代青銅器が特に有名な住友コレクションですが、他にも西洋美術、茶道具、日本画、洋画など多岐にわたるジャンルの美術品が名を連ねています。
そのなかには、岡鹿之助のパンジー作品《三色スミレ》や《捧げもの》も含まれています。
特に泉屋博古館東京は、2022年にリニューアルオープンしたばかりで、「HARIO」直営のカフェが併設されています。
素敵な美術品が見られるのはもちろん、大都会のなかでほっと息をつけるような雰囲気も魅力の美術館です。
ポーラ美術館の豊富なコレクションのなかには、同じく岡鹿之助の作品も含まれており、《三色菫》や《献花》など複数のパンジー作品が所蔵されています。
また、彼の師である藤田嗣治のほか、点描技法の参考にしたとされるジョルジュ・スーラをはじめ、近代フランスの画家たちの作品も多数あります。
フランス美術へ想いを馳せながら鑑賞する楽しさを味わえます。
ニューヨークランプミュージアム&フラワーガーデンは、四季折々の花々や伊豆の海の景色と一緒に、ティファニーのガラス工芸品を楽しめるミュージアムです。
さまざまなティファニー製のステンドグラスやランプが展示されており、そのなかにはパンジーのデザインのランプもあります 。
別館に併設された、オーシャンビューのカフェでは、エディブルフラワーを使ったデザートが食べられます。
幻想的で温かなランプの光を見つめていると、冬の寒さも忘れられそうですね。
寂しくなりがちな冬の景色を彩るパンジー。ヨーロッパでは、「愛の花」としてバレンタインデーのプレゼントになるそうです。
本来の開花時期は春ですが、冬の間も人々にそっと寄り添ってくれるような存在です。
意外と文学や美術と関わりが深いので、皆さんもこれからミュージアムへ行ったときは、パンジーの美術品がないか探してみてください!
【主な参考文献】
・春山行夫/著『花の文化史:花の歴史をつくった人々』 講談社 1980年
・木村陽二郎/監 植物文化研究会/編『図説 花と樹の大事典』 柏書房 1996年
・安部薫/著『シェイクスピアの花』 八坂書房 1997年
・ガブリエル・ターギット/著 遠山茂樹/訳『図説 花と庭園の文化史事典』 八坂書房 2014年