アートな街歩き(早稲田〜飯田橋編)隈研吾設計の文学館から、昭和初期の名家の建物、丹下健三の代表建築の教会を経て、印刷のお勉強まで

2024年3月18日

アートな街歩き(早稲田〜飯田橋編)隈研吾設計の文学館から、昭和初期の名家の建物、丹下健三の代表建築の教会を経て、印刷のお勉強まで

今回のアートな街歩きは、早稲田から飯田橋を目指します。

早稲田大学キャンパス内の村上春樹ライブラリーでは、村上春樹の書籍の装丁を多く手がけた安西水丸の個展を楽しめます。

永青文庫では、室町時代から続く細川家が伝える中国の陶磁器展、昭和を代表する名建築家・丹下健三が設計した東京カテドラル聖マリア大聖堂の建築美を堪能し、最後にTOPPAN印刷のビル内にある印刷博物館で印刷の歴史や技術について学べる、約50分の街歩きコースです。

<早稲田>
村上春樹と長年にわたり共作を行ってきたイラストレーター・安西水丸の個展

早稲田大学の国際文学館(通称・村上春樹ライブラリー)は、村上春樹の文学世界を深く掘り下げる施設として設立されました。

この建物の設計は隈研吾が手がけ、村上作品にしばしば登場する異次元への「トンネル」を、実際の木製トンネルの形状で独特に表現しています。このトンネル形状の木製の屋根が、まるで別世界への入口を暗示しているかのようです。


トンネルを模した木製のエントランス

館内には、村上春樹の全作品を含め、3,000冊以上の書籍や資料が収蔵されています。

これには珍しい初版や、村上自身から提供された資料、彼が収集した音楽レコードなどが含まれ、訪れる人々は、ギャラリーや閲覧スペースでこれらを自由に観覧することができます。


レコードを聴きながらリラックスできる空間も設けられています

30年以上にわたり村上の本の装幀などを担当していたイラストレーター、安西水丸の展覧会『安西水丸展 村上春樹との仕事から』が、現在開催されています。

シンプルながらも表現豊かな線と色使い、ユーモラスで温かなタッチで知られています。


貴重な原画を中心にした展示で、村上春樹と安西水丸の共作を楽しむことができます

展示では、安西家族から寄贈された700点以上の原画の中から厳選された『象工場のハッピーエンド』や『村上朝日堂』シリーズなど約100点が初公開されます。さらに、彼の創作に影響を与えたフォークアートや民芸品も展示され、訪問者は手に取れる本を通して絵がどのように使用されていたかを体験することができます。

本展を通じて伝わってくるのは、村上春樹と安西水丸の強い信頼関係です。これは単に原画を見る以上の、二人の関係性が感じられる展示となっています。

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展覧会名:収蔵企画「安西水丸展 村上春樹との仕事から」
開催期間:2023年11月17日~4月9日
会場:早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)
公式サイト:https://www.waseda.jp/culture/wihl/other/5366
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<早稲田>
室町時代から継承されてきた細川家の美術品や文化遺産

目白台に位置し、かつての武蔵野の自然に囲まれた細川家の屋敷跡の一角にある永青文庫は、細川家が代々受け継いできた歴史資料や美術品などの文化財を管理・保存し、研究しながら一般に公開しています。

この施設に使われている建物は、昭和初期に細川家の家政所として建設されたもので、現在は永青文庫として活用されています。


昭和初期に建設された建物が永青文庫として活用されています

細川家は室町幕府三管領の一つであり、戦国時代には藤孝(幽斎)を始祖とする武門の家系として名を馳せました。藤孝は歌人や国文学者としても知られ、その子・忠興(三斎)は信長の雑賀征伐で初陣を果たし、千利休の高弟としても著名です。忠興の妻であるガラシャは明智光秀の娘で、キリスト教徒としても名を残しています。文武両道に優れた細川家は、幕末まで強力な外様大名として続きました。

現在開催されている『中国陶磁の色彩』では、細川護立による蒐集品から選ばれた逸品、重要文化財3点を含む展示があり、唐三彩、白磁、青磁、青花、五彩などの色彩をテーマにした中国陶磁の歴史を紹介しています。

また、梅原龍三郎や河井寬次郎など近代の画家や陶芸家が中国陶磁を題材にした作品も展示し、紀元前から近代までの多彩なコレクションを通じて、中国陶磁の鮮やかな世界を探求します。

展示のもうひとつの見どころは、美術品を展示している建物そのものです。昭和初期の建築の特有の趣を味わうことができます。

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展覧会名:中国陶磁の色彩 ―2000 年のいろどり―
開催期間:2024年1月13日~4月14日
会場:永青文庫
公式サイト:https://www.eiseibunko.com/
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<護国寺>
近代建築と教会共同体の調和を実現した丹下健三の代表作

初代の大聖堂は、第二次世界大戦中の東京大空襲で失われてしまいました。1964年に丹下健三設計の二代目東京カテドラル聖マリア大聖堂が献堂されました。

初代から数え100年以上の歴史を持つこの大聖堂は、無原罪の聖母に捧げられており、近代建築の意匠と教会共同体の調和が、イエス・キリストの福音を伝えるシンボルとなっています。


周囲とは一線を画す独特の美しさを放つ『東京カテドラル聖マリア大聖堂』

教会内部には「荘厳」という言葉が最も相応しい印象。そのまま打ち出されたコンクリートの内壁は、静謐な印象を与えてくれます。

内部空間は最頂部で約40mもあり、残響時間は空席時で7秒にも達し、中世ヨーロッパの大聖堂をも超える音響特性が特徴。このような大空間は日本では珍しく、パイプオルガンやオラトリオ、グレゴリオ聖歌の演奏会では、コンサートホールでは得られない独特の響きを楽しむことができます。

パイプオルガンの演奏会は、主に毎月第2金曜日にオルガンメディテーション(コンサート)として開催されています。


フランスにあるカトリック信者の巡礼地、ルルドの洞窟の再現

大聖堂の構内の見どころとしては、サン・ピエトロ大聖堂にあるミケランジェロのピエタの精巧なレプリカや、フランシスコ・ザビエルの胸像などの貴重な収蔵品。

また、教会の敷地の奥には、フランスのルルドにある「無原罪の御宿り」の場面が再現された洞窟があり、その中には大きな聖マリア像が安置されています。

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建物:東京カテドラル聖マリア大聖堂
見学時間:午前9時〜午後5時
以下の時間帯は見学をお控えください。
・主日のミサ(日曜日:午前8時〜午後2時頃)
・平日の韓国語ミサ(水、木、金曜日:午前10時半〜午前11時頃)
・聖体礼拝(木曜日:午後1時~午後4時15分頃)
公式サイト:https://catholic-sekiguchi.jp/
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<江戸川橋>
本、活字、印刷機を通じて、印刷技術の歴史的変遷を辿ります

神田川沿いにある印刷博物館は、文京区のTOPPAN小石川本社ビル内に位置し、2000年に凸版印刷(現在のTOPPANホールディングス)の100周年記念事業として設立されました。

この博物館は、印刷文化に関する資料の収集・研究や、活版印刷を含む印刷技術の実体験・啓蒙活動を行っています。

TOPPAN小石川本社ビルの地下にある印刷博物館

印刷博物館の常設展では、書籍、活字、印刷機械など、館内に保管されている資料を展示しています。


各展示は年代順に丁寧に説明され、来訪者は印刷の歴史を詳細に理解できます

印刷の日本史、世界史、技術革新の展示を通じて、印刷が社会と文化に与えた影響やその進化を探ります。

日本では政治、宗教、娯楽、教育、報道など、多方面にわたる印刷の影響力を、所蔵資料と共に紹介。世界史では、印刷技術の発明から情報技術に至るまでの歩みを、社会変化と共に展開します。また、技術面では版の種類や材質、製版方法に焦点を当て、印刷の革新を紹介します。


活版印刷のワークショップは予約制ですが、実際に体験することが可能です

アート文脈から見ると、浮世絵制作の流れや銅版画技法であるエッチングやドライポイントの製法とそれらの作品の特徴を学ぶことは、展覧会の解説を補うだけでなく、より深い理解を助けてくれます。

動画を通じてこれらの知識をじっくりと復習することは、美術鑑賞においても非常に役立つ経験になるかと思います。

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会場:印刷博物館
公式サイト:https://www.printing-museum.org
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さいごに

『村上春樹ライブラリー』はかなり居心地がよいので、長居を覚悟しておいてください。

古い建物特有のぎしぎしする音さえ楽しめる『永青文庫』。『東京カテドラル聖マリア大聖堂』は日曜のミサに注意しつつ午後2時ごろに訪れる計画が良いでしょう。

早くついたら、先に野外にあるルルドの洞窟を。最後に『印刷博物館』も、じっくり見ていくとかなり時間を要しますので時間配分にご注意ください。また体験コーナーの予約を念頭に置いて訪問がおすすめです。

これから神田川の桜が美しい季節になりますので、花見をしながらの散策もおすすめです。


『安西水丸展 村上春樹との仕事から』から