特別展「非常の常」/国立国際美術館

「非常の時代」をどう生きる?8作家の写真と映像インスタレーションに注目【国立国際美術館】

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2025年7月16日

「非常の時代」をどう生きる?8作家の写真と映像インスタレーションに注目【国立国際美術館】

特別展「非常の常」が国立国際美術館にて開催中です。

本展は、国内外の現代アーティストによる作品を通して、世界中で起こっている危機や社会問題について考えるグループ展。

8人の作家が、写真と映像インスタレーションを通じて多彩な表現を展開しています。

「非常の常」の時代を生きる私たち


「非常の常」展示風景(国立国際美術館、2025年)

世界的に大きなインパクトを与えたコロナ禍を始め、ロシアのウクライナ侵攻、中東情勢の悪化、そして加速する気候変動・・・。

私たちが生きるのは、まさに「常態化した非常事態」であり、“非常の常(Prolonged Emergencies)”の時代です。

出身国もバックグラウンドも異なる8作家の作品は、直接的に何かを訴えるものではなく、あくまでも示唆的。


「非常の常」展示風景(国立国際美術館、2025年)

たとえば、兵庫県出身の写真家・米田知子の作品群は、一見すると静かで美しい風景の写真です。

しかし、それらが撮影されたのは「阪神・淡路大震災(1995年)で甚大な被害を受けた地域」や「韓国と北朝鮮の間にある非武装地帯(DMZ)付近」。

これらの場所が持つ意味を知れば、穏やかに見えていた景色が、一瞬で別の意味を帯びてくることに気づかされます。

映像作品が映し出す「非常の常」


「非常の常」展示風景(国立国際美術館、2025年)より
シプリアン・ガイヤール《Artefacts》2011年

現代美術家のシプリアン・ガイヤールは、2010年にイラクを訪れた際の映像を《Artefacts》と題して作品化。

iPhoneで撮影した映像を、あえて35mmフィルムに変換する“アナクロニズム(時代錯誤)”な手法で制作しています。


「非常の常」展示風景(国立国際美術館、2025年)より
シプリアン・ガイヤール《Artefacts》2011年

古代メソポタミアの都市バビロンがあったとされるのは、イラクの首都・バグダッドの南に位置する場所。

2003年のイラク戦争で廃墟となったこの地と本作の制作過程は、文明の変容や崩壊と重ね合わせることができます。


「非常の常」展示風景(国立国際美術館、2025年)より
クゥワイ・サムナン《Das Pralung(目覚める精霊たち)》2024年、《Untitled》2024年

クゥワイ・サムナンは、母国カンボジアの社会問題や環境問題をテーマに作品を展開。

《Das Pralung》は、作家自身が真鍮製の円盤を叩き、その鋭い音で「自然界の精霊(スピリット)」を目覚めさせようとするもの。無言のパフォーマンスを通して、自然破壊への静かな抗議を表現しています。

グローバルに活躍する作家たちの話題作・新作が登場


「非常の常」展示風景(国立国際美術館、2025年)より
袁廣鳴(ユェン・グァンミン)《日常戦争》2024年

台湾の袁廣鳴(ユェン・グァンミン)の《日常戦争》は、何の変哲もない部屋の映像で始まります。

カメラがゆっくりと前後移動する間に、部屋の中の物が突然攻撃を受けたかのように破壊されていきます。荒廃した住空間は、やがて元の状態に戻り、そして再び壊されていく――。

目の前に繰り返し映し出される情景が、リアルな「戦争と背中合わせにある日常」を物語っています。


「非常の常」展示風景(国立国際美術館、2025年)より
キム・アヨン《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》2022年

キム・アヨンによる近未来のソウルが舞台の《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》は、3Dアニメーションと実写を組み合わせた作品。

ギグエコノミーやプラットフォーム労働の問題を、疾走感に満ちた近未来的な映像で表現しています。

そして、台湾を拠点に世界的に活躍するリー・キットの新作インスタレーションも登場。


「非常の常」展示風景(国立国際美術館、2025年)より
リー・キット《僕らはもっと分別があった》2025年

イギリス領時代の香港で生まれたリーは、中国への「返還」プロセスや、その後のさまざまな出来事を目の当たりにしてきました。

プロジェクターの映像を絵画やドローイングに投影する詩的な作品には、繊細な美しさと静かな緊張感が同居しています。

同時開催のコレクション展示も注目


「コレクション1」展示風景(国立国際美術館、2025年)

同館では、特集展示「戦後美術の円・環」と通年展示「コレクション・ハイライト」の二部構成となる「コレクション1」も開催中です。

前者の「戦後美術の円・環」のテーマは、「まるい形」。何かの形に見立てやすい「まる」は、とくに戦後の日本美術においてどのような機能・役割を担ってきたのか。

さまざまな丸い形の作品を通して、そのような問いに向き合う構成となっています。


「コレクション1」展示風景(国立国際美術館、2025年)

後者の「コレクション・ハイライト」では、国立国際美術館の代表的な所蔵品から新たに収蔵された作品まで、近代美術の幅広い作品群を観ることができますよ。

まとめ

地震や山火事などの自然災害、深刻化する気候変動。世界各地で今なお続く不条理な侵攻やクーデター、戦争――日本で暮らしていると、そうした現実をどこか遠い国の出来事のように捉えてしまうかもしれません。

8名の作家によるユニークな表現を通して、この「非常の常」の時代を生きるヒントと明日への希望を、ぜひこの機会に会場で探ってみてはいかがでしょうか。

Exhibition Information

展覧会名
特別展「非常の常」
開催期間
2025年6月28日~10月5日
会場
国立国際美術館
公式サイト
https://www.nmao.go.jp/events/event/20250628_hijou-no-jou/