村松英俊｜Return to Stone

村松英俊は大学院生時代より「ものに宿る気配」を主題に制作を続けてきました。誰かが使っていた形跡や、時間の痕跡をとどめる物体を石化することで、失われつつある記憶や関係を未来へと延命させる。石という素材が持つ悠久の時間性と、人が作り出した道具の儚い時間性。それらの掛け合わせの中に、新たな存在のかたちを見出しています。

作品の出発点は、古道具屋での偶然の出会いや、手元で時間をともに過ごす中で訪れる「そろそろ石にしよう」という直感にあります。作家自身が“石で残したい”と感じたモチーフだけが選ばれ、バイク、スケートボード、ギター、ヘッドホンなど、自身の記憶や憧れと結びついた対象が彫刻へと変容していきます。そこには、ものと人との関係を見つめ直す眼差しが通底しています。

『Return to Stone』というタイトルには、「すべての起源は石にある」という作家の思考が込められています。人がつくる鉄もガラスも、もとは鉱石から生まれ、やがてまた石へと還っていく。その循環を可視化する作品群は、過去・現在・未来を横断する時間の流れを映し出し、見る者に“存在とは何か”を静かに問いかけます。