これから開催
ユアサエボシ|でいかい
ユアサエボシ(1983-)は、大学卒業後に就職した金融関係の会社が入社半年で倒産し、その後画家になることを決意して美術学校に進学したという異色の経歴を持ちます。フランス文学者・澁澤龍彦の著作などを通じてシュルレアリスムの世界に出会い、憧れの芸術家たちと同じ時代に生きたいという欲求から、やがて自らを「大正生まれの三流画家・ユアサヱボシ」として位置づけ、当時の画風を模した絵画制作に取り組むようになりました。
ユアサが擬態する架空の画家・ユアサヱボシ(1924-1987)は戦争を生きた世代に属しますが、重度のヘルニアのため出征はせず、疎開先で物資の欠乏に耐えながら日々を過ごしたという設定です。直接的な従軍経験こそなかったものの、ヱボシは時代の只中で「戦争」という現実に晒されていました。当時の多くの人々と同じように、時に勝利の報に安堵し、時に敵国を憎む感情を抱いたことでしょう。そうして時代の空気に流されながらも、ただ絵筆を握り続けました。その絵には、個人の思想や信条を超えて、「時代の感情」が静かに刻まれています。
本展では、そんなヱボシが残したとされる「戦争」にまつわる絵画を10 点展示いたします。うち3点は、2025年に金沢21世紀美術館で開催されたグループ展「積層する時間:この世界を描くこと」で発表したもので、ほか7 点は本展のために描き下ろした新作です。
《少年》に表されたのは、荒野に立つ一人の若い男の姿です。そのどこか虚ろな表情は、特攻服を着た若者を待ち受ける運命を暗示しているのでしょうか。茶色く濁った海の向こうには工場のような建物が霞み、ユアサは「少年が立つ側が彼岸(あの世)で、海の向こうが此岸(この世)だ」と語ります。実はこの少年のモデルは、ユアサが所有する戦時中に作られた土人形の玩具で、背景の草花や建物も、同時代あるいはそれ以前の絵画資料を参考に、組み合わせて描かれたものです。
実際の日本美術史を振り返れば、1950 年代頃には戦争の痛ましい記憶をとどめようと、傷つき、変形した身体を捉えた絵画が数多く残されています。この《少年》は、銃後の立場にあったヱボシがようやく描くことができた「死者のいる風景」なのかもしれません。敗戦後の時間を生きる人々の内側に沈む痛みや重い沈黙が伝わってくるようです。
展覧会のタイトル「でいかい」は、この《少年》に描かれた土人形と濁った海に由来します。「泥の塊」と「泥の海」という二重の意味を持つこの言葉は、戦争に“行かなかった者”が見た時代の濁流と、そこから掬い上げられた記憶を象徴するものです。
このほか、胸元にたくさんの勲章を輝かせながらも滑稽な顔を見せる《似非元帥》や、戦後の日本における健康至上主義を風刺的に表した《健康第一》など、多様な角度から「戦争の残響」を描いた作品を展覧します。
展覧会初日12月20日(土)の午後5時から7時までは、作家本人が在廊し、レセプションを開催いたします。また会期中には、ゲストを迎えたトークイベントも実施予定です。詳細は決まり次第、公式サイトにて改めてお知らせいたします。
さらに12月25日(木)から4月2日(木)には、東京都現代美術館で開催される「開館30周年記念 MOTコレクション マルチプル_セルフ・ポートレイト」展にて、同館が所蔵するユアサエボシの作品が展示されます。本展では、ユアサの新作絵画や彼自身が蒐集してきた明治~昭和期の戦争資料なども紹介される予定です。
Event Information
- 展覧会名
- ユアサエボシ|でいかい
- 開催期間
- 2025年12月20日~2026年3月7日
- 開館時間
- 12:00~19:00
- 休館日
-
月曜日、日曜日、祝日
※2025年12月28日~2026年1月12日は冬季休廊
- 入館料
無料
- お問い合わせ
-
メールでのお問い合わせはこちら
Venue Information
- 会場
- ギャラリー小柳