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2024年12月17日
生誕120 年 人間国宝 黒田辰秋―木と漆と螺鈿の旅―/京都国立近代美術館
黒田辰秋 拭漆文欟木飾棚 昭和41年(1966) 京都国立近代美術館
重要無形文化財「木工芸」保持者(人間国宝) 木漆工芸家の黒田辰秋の生涯をたどる大回顧展が開催中です。
京都の祇園の塗師屋(ぬしや)に生まれ育ち、京都を拠点に活躍した黒田辰秋(1904-1982)は、昭和45年(1970)に木工芸の技術としては初めて重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された木漆工芸家です。
当時、漆工芸で一般的に行われていた分業制に疑問を持ち、図案制作、素地作りから加飾まで一貫して自分で行う独自のスタイルを独学で確立しました。
創作に対する焦点が明確で、生涯を通じて仕事の振れ幅が少ない作家でした。「この作品ひとつが、地球と代えられるか」と自分の作品への責任を考えていました。
『黒田辰秋 人と作品』昭和47年(1972) 白洲正子編集
写真監修:土門拳、写真撮影:牧直視、装本:芹沢銈介、表紙裂:柳悦孝による豪華本です
昭和47年(1972)に刊行された白洲正子編集による黒田の作品集『黒田辰秋 人と作品』に掲載された作品と類器を通して、黒田の創作活動の軌跡をたどります。
黒田自身、この作品集について『工藝を志す一人の人間の生活記録』と語っています。
本作は黒田の現存するもっとも古い作品です。
黒田辰秋《朱蒔粉塗鹿花文文庫》大正14(1925) 京都国立近代美術館
黒田辰秋《朱漆三面鏡》昭和3年(1928) 日本民藝館
妖しくも美しいハッと息をのむ朱色の三面鏡。本展には3点の三面鏡が出品されています。
黒田辰秋《螺鈿総貼小棚》昭和16年(1941) 個人蔵
隣同士の螺鈿の小片が共鳴する如き初期の螺鈿の代表作で、京都会場だけの展示です。
黒田辰秋《彩漆群蝶図手筐》昭和23年(1948) 豊田市美術館
色漆で緻密に描かれた蝶が舞い黒田の色彩感覚が反映されています。
黒田辰秋《竹張小棚》昭和37年(1962) 豊田市美術館
黒田辰秋 拭漆楢家具セット 昭和39年(1964) 豊田市美術館
映画監督・黒沢明からの依頼で制作した御殿場山荘の家具セットです。
真ん中の《拭漆楢彫花文椅子》は、「王様の椅子」と呼ばれ、世界の黒沢が本作に座ってウイスキーのコマーシャルに出演したそうです。
黒田辰秋《溜漆椀(白洲家家紋入)》昭和39年(1964) 旧白洲邸 武相荘
何代も大事に使い継がれていきそうな椀です。
黒田の仕事の特徴を4つの点から読み解きます。黒田は、美しさが備わった実用品としての工芸を重要視しました。
民藝運動に深くかかわった協同生活をしながら制作した最初期の2年ほどのこの時期は、後の創作活動の技術や思考的な基礎を形成する時間でした。
「人間国宝 黒田辰秋展」会場風景
「木」の特性を見極め、美しさを引き出す黒田の「拭漆(ふきうるし)」の手法を紹介します。
黒田辰秋《拭漆栃葡萄杢飾筺》昭和42年(1967)頃 豊田市美術館
拭漆は漆を塗っては拭き取る工程を繰り返して木地に漆を吸わせることで木理(もくり)の美しさを際立たせます。
黒田の拭漆は、現代の木工芸のスタンダードとなりました。
黒田は、「最も美しい線は、削り進んでいく間に一度しか訪れない」と語っています。
器形の造形そのものの特質を漆の塗膜でより見える形に仕上げました。
黒田辰秋《白檀塗四稜茶器》昭和50年(1975)頃 国立工芸館
銀箔の上から透漆を塗った螺旋の稜線が際立つ造形の美しさ。
同じ形状の流稜文で漆の膜と質感の違いを見比べてみましょう。
黒田辰秋《拭漆流稜文手筥》昭和33年(1958) KANEGAE
黒田辰秋《赤漆流稜文飾箱》昭和32年(1957)頃 国立工芸館
貝を用いて漆器の表面を装飾する螺鈿を、黒田は一般的な象嵌ではなく器物の表面に貝片を貼り付け、漆を塗ってすり出す技法を使いました。
黒田辰秋《朱漆螺鈿花文手筥》昭和45年(1970)頃 ギャラリーおくむら
棟方志功が「輝貝」と名付けた、メキシコ鮑と白蝶貝を使った作品も有名です。
黒田辰秋《耀貝白蝶貝螺鈿流卍文飾箱》昭和45年(1970) 佐川美術館
貝片の特質を見ながら、モザイクの様に人為的に組み合わせることで、螺鈿の持っている力そのものを感じさせる作品となっています。
黒田辰秋《螺鈿白蝶縞中次》昭和49年(1974)頃 国立工芸館
黒田は、木工も漆芸も螺鈿も等価であると考え、素材が本来もっている特性を活かすという信念を貫きました。
黒田辰秋《神代欅彫文飾棚》昭和49年(1974) 北海道立旭川美術館
黒田晩年の代表作です。今回北海道立旭川美術館所蔵の黒田作品が、美術館収蔵後初めて京都へ里帰りしました。
初期から晩年までの作品、総件数202件に図案などの参考資料を加えた質量ともに充実した木漆芸家 黒田辰秋の技と美を堪能する大回顧展です。
(京の街で今も使われている京大北門前進々堂のテーブルセットや祇園の老舗菓子舗「鍵善良房」の大飾棚にも会いに出かけたい。)