佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)/横浜美術館

CMから教育番組まで!時代を超えたヒット作の「作り方」に迫る【横浜美術館】

NEW!
2025年8月18日

記者会見のようす。左から、蔵屋美香(横浜美術館 館長)、佐藤雅彦、松永真太郎(横浜美術館主席学芸員)

現在、横浜美術館では「佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)」が開催されています。

佐藤雅彦さんといえば教育番組「ピタゴラスイッチ」の生みの親ですが、懐かしき「湖池屋スコーン」や「バザールでござーる」などのテレビCMも実は佐藤さんが手がけたものなんですね。

ガラス張りの明るいグランドギャラリーに設けられた《計算の庭》

本展は「おかえり、ヨコハマ」展に続くリニューアルオープン記念展第二弾となり、リニューアル後の横浜美術館が標榜する「テーマとジャンルの多様性」を象徴する展覧会ということです。

展示室には「アート」という言葉で括りがたい多様なジャンルの創作が並べられ、佐藤雅彦というひとりの表現者の「作家性」に焦点を当てた野心的な回顧展です。

見どころ①
CMプランナーとして

《どんぶり3兄弟》1997年NEC・バザールでござーるの

展覧会前半では、主に佐藤雅彦さんが電通のプランナー時代に創作したCMなど広告に関する作品が紹介されています。

特にシアター1で上映される約70本ものCMは、世代にもよりますが在りし日を思うこと必至です。

個人的には「ピコー」と「モルツ」のCMにテンションが上がりました。

また隣のシアター2ではそれらCMの「作り方」が解説されておりセットで必見のコーナーです。

他にも、当時のノベルティグッズなどが展示されており、多くの方が声を上げて懐かしんでいるようすが印象的でした。

こうして今なお我々の記憶に残っているのも佐藤さんが作った「作り方」によるものだということがよくわかる展示構成になっています。

見どころ②
教育者として

第4章の冒頭に展示されている黒板

佐藤さんは電通を退社後、1999年に慶應義塾大学に招聘され教育者の視点からの表現を追求し始めます。

展覧会の後半はその活動拠点である「佐藤研究室」で実践してきた活動が紹介されています。

展示風景より

佐藤さんは慶應義塾大学の教授となった時、次のような言葉が自然と出てきたと言います。

「どうしたら あることを 伝えることができるか どうしたら あることを 分かってもらえるか」

展覧会後半はそのためのアプローチの研究成果といってもよいかもしれません。

TV番組『ピタゴラスイッチ』の人気コーナー「アルゴリズム体操」の元ネタともいえるゼミ生との実験映像も紹介されていました。

見どころ③
ピタゴラスイッチの現物装置も

展示風景より

佐藤さんの取り組みの中でも語らずにいられないのは、やはり『ピタゴラスイッチ』でしょう。

本展ではなんとその現物装置が数台設置されています。

現物は動きませんが、壁面のスクリーンにその動きが映し出されますので、見比べながら楽しむことができます。

子どもたちも実物のピタゴラスイッチの装置に大喜びでした。

同時開催のコレクション展へ

展示風景より

「佐藤雅彦展」と同時開催のコレクション展では、戦後80年特集展示「平和であることへの、控えななにごとかを」が開催されています。

また横浜美術館の「名品」を紹介するハイライトのコーナーがはじめて設けられ同館を代表するダリ、セザンヌ、奈良美智らの作品が展示されていました。

ルネ・マグリット『王様の美術館』と面と向かう

ハイライトのコーナーでは、それらの作品を親子で楽しむための「子ども解説」が絵の脇に設置されていました。

解説といっても内容は、絵を見るヒントとなる問いかけになっており、子どもたちは答えを考えるためにじっと絵に目を向けていました。

まとめ

展覧会の冒頭、佐藤さんが29歳の時に自宅の机の前に貼った一枚のメモが公開されています。

そこには「別のルールで物をつくろうと考えている。」と。

40年以上前のメモにすでに「作り方を作る」という思考の萌芽を見て取れることも驚きですが、その後の理論の構築と表現への転化には感嘆せずにはいられません。

若き日の精神性をそのまま体現してきた佐藤雅彦さんの大規模回顧展。

表現することの大切さ、面白さをきっと味わえることでしょう。

巡回はありません。是非この機会をお見逃し無く!