風刺画/10分でわかるアート

10分でわかるアートとは?

10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。

作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。

今回は、ユニークな「風刺画」について詳しくご紹介。

「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。

風刺画とは?

風刺画の風刺とは、社会や人物の欠点や罪悪を遠回しに批判することです。

そのことから風刺画も世の中の政治的事件などを批判したような内容が描かれていることが多いです。

ほかにも、描く対象物の特徴を誇張して描いているのが特徴とされています。

西洋では、カリカチュアとも呼ばれています。


「魚釣り遊び」(Une partie de pêche)『トバエ』1号(1887.2.15)

魚(朝鮮)を釣り上げようとする日本と中国(清)、横どりをたくらむロシア。

西洋では歴史の教科書でおなじみの「魚釣り遊び」を描いたジョルジュ・ビゴーや、あの有名なクロード・モネも描いていました。

東洋では、《鳥獣人物戯画》を描いたとされる鳥羽僧正覚猷(とばそうじょうかくゆう)や歌川国芳が描いていたことで有名です。


甲巻より、泥棒の猿を追いかける兎と蛙たち。

西洋の風刺画代表作

クロード・モネが描いたカリカチュア

クロード・モネ(1840₋1926)は19世紀を代表する印象派の画家です。

彼は印象派の画家として、柔らかい光や明るい色で描かれた作品が多く《睡連》や《印象・日の出》が有名ですが、初期はカリカチュアを描いていました。

人物の特徴を誇張して描いたモネのカリカチュアは、現在でも65点ほど現存しているのだそう。

彼の描いたカリカチュアは人気で、文具・額縁屋で販売したといいます。モネにとってはお小遣い稼ぎにもなり、また新聞に掲載されたりもしました。

クロード・モネについてもっと詳しく知りたい方はこちら。

 

魚釣り遊び


「魚釣り遊び」(Une partie de pêche)『トバエ』1号(1887.2.15)

教科書でもおなじみのフランス人画家ジョルジュ・ビゴー(1860-1927)。歴史的出来事などを風刺画として面白おかしく描いています。

川の中にいる魚の体には「CORÉE」と書かれており、こちらは朝鮮半島を表しています。 それを釣ろうとして左側の着物を着ているのは日本を表し、右の中華服を着ているのは清(現在の中国)を表しています。

また、それを橋の上から「RUSSIE」と書いてある帽子をかぶったロシアが眺めており、朝鮮半島をめぐり、日本と清が激しく対立しているようすを魚釣りに例えられて描かれています。

1882年に来日したビゴー。来日中の1887年に横浜居留地で風刺漫画雑誌『トバエ』を創刊しています。

『トバエ』は日本の居留地に住んでいた外国人向けが主な読者で、日本の政治を中心に描かれていました。

東洋の風刺画代表作

荷宝蔵壁のむだ書


歌川国芳《荷宝蔵壁のむだ書》

《荷宝蔵壁のむだ書》が描かれたこの時代は、「天保の改革」により江戸庶民たちは贅沢を禁止されていました。

浮世絵も贅沢品の対象となり、歌舞伎役者絵や芸者を描いてはいけないという役者絵禁止令が出てしまい、役者浮世絵の出版はできないようになっていました。

禁止令が出たため、役者絵は描けないのですが・・・そこで黙っていないのが国芳。そんな禁止令に反発するようにあくまで「らくがきだ」という体で本作は描かれました。

歌川国芳についてもっと詳しく知りたい方はこちら。

鳥獣人物戯画

 


《鳥獣人物戯画》12-13世紀 紙本墨画

《鳥獣人物戯画》は甲・乙・丙・丁の4巻で構成された日本最古の風刺画と言われています。

風刺画の一つの戯画は「おどけ絵」と言われており、動物たちを擬人化し、面白おかしく描かれた本作は現在でいう漫画のよう。

平安時代後期に描かれたとされる「甲」は動物が擬人化されて描かれ、よく目にする場面のうさぎやサルが描かれており、「乙」は実在する動物と想像の動物が描かれています。

鎌倉時代に描かれたとされる「丙」は人物、動物ともに描かれ、「丁」は人物のみが描かれています。

本作は多くの文化財を所蔵し、世界遺産にも登録されている京都の高山寺が所蔵しています。

高山寺公式サイト

おわりに

西洋、東洋問わず描かれた風刺画。

画家たちは面白おかしく工夫しながらさまざまな情勢や禁止令などに反論するように風刺画を描いていたのだと感じました。

本記事をきっかけに、風刺画を楽しんでもらえたらと思います。

【参考書籍】
・安村敏信『絵師別 江戸絵画入門』株式会社東京美術  2005年
・山下裕二『やさしい日本絵画』株式会社朝日新聞出版 2020年