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2024年11月1日
スフマートでは、「つくる」「つたえる」という2つの視点をもとに、ミュージアムを支えるさまざまな人へのインタビューを隔週・前後編でお届けします。
今回お話をお聞きしたのは、日本科学未来館の科学コミュニケーター(以下、SC)・綾塚達郎さん。
日本科学未来館・科学コミュニケーター綾塚達郎さん ※撮影時、マスクを外していただきました。
ゆりかもめ線「テレコムセンター駅」から徒歩約4分と駅近くに建つ日本科学未来館は、最先端の科学技術やその研究内容を知ることができる科学館です。
3階「未来をつくる」や5階「世界をさぐる」の常設展示ゾーンをはじめ、お台場から東京タワーまで見渡せる7階のレストラン「Miraikan Kitchen」など、1階から7階までさまざまな施設があります。
日本科学未来館は今年開館20周年を迎え、館長のバトンが宇宙飛行士の毛利衛さんから、障害者支援技術を研究している全盲の研究者、浅川智恵子さんへと渡されました。
前編では、日本科学未来館がどんな場所なのか、綾塚さんおすすめの展示をご紹介いただきながらお聞きしました。
──日本科学未来館はどのような理念を持つ館なのか、設立経緯も交えてお聞かせください。
日本科学未来館が設立の理念として掲げているフレーズがあります。それは、「科学技術を文化として捉え、社会に対する役割と未来の可能性について考え、語り合うための、すべての人びとにひらかれた場」です。
1995年に科学技術基本法ができて、科学技術の振興を国が促すことになりました。その取り組みの一つとして、国民の皆さんも一緒になって科学技術の在り方について考えていくため、科学技術についてコミュニケーションが取れる場として2001年に日本科学未来館が誕生しました。
提供:日本科学未来館
──ひとくちに科学館といってもさまざまな施設がありますが、日本科学未来館の特徴は何でしょうか。
よくご紹介するのは、次の3点です。まず1点目は、私のようなSCがいることです。2点目は、展示の監修を通してその分野の研究者が来館者とのコミュニケーションに参加していること。そして3点目が研究エリアで、展示室のすぐ近くで研究者が研究できるスペースを設けています。研究者の活動のようすを、来館者に見える形にするのが狙いです。
──展示だけでなく、研究者を身近に感じられる珍しい科学館なのですね。
はい。実際に研究者の方が館内で実験を行いながら、来館者の反応をお聞きすることもあります。楽しそうに見ている方がいれば、SCが「今、この実験をどう思いましたか?」と聞いて、来館者と研究者を交えてお話することもあります。
このように、未来館は研究者の方と一般の来場者の方をつなぐ場になっています。そしてその機会を「つくる」のも、私たちSCの仕事です。
──今年の4月に新しい館長が就任されましたが、その変化は今後の展示やイベントに反映されていくのでしょうか。
それについては、浅川館長とスタッフで、着任の約1年前から議論をしています。その一環として導き出したのが「Miraikanビジョン 2030」 です。
日本科学未来館は、一般の人たちの声や行動が世界を変えて、未来をつくっていけるよう、あらゆる人びとが立場や場所を越えて、つながっていくプラットフォームを目指しています。その足がかりとして「Miraikanビジョン 2030」を打ち出しました。
なのでまずは、あらゆる人たちに日本科学未来館へ来ていただきたいと考えています。日本科学未来館は、来館者とのコミュニケーションの中でアップデートされていく科学館なので、年齢も性別も、また国籍なども関係なく、さまざまな人たちが立場を超えて協働するきっかけの場になればと思います。
その後も話し合いは続けているので、今後の展示や企画にぜひご期待ください。
──近年、世間ではSDGsへの関心が高まっていますが、日本科学未来館は何か取り組みを行っていますか。
SDGsについては、毛利前館長の在任時から注目しています。
日本科学未来館は2017年に、世界中の科学館のトップが集まるイベント「サイエンスセンターワールドサミット(SCWS)」のホスト科学館になりました。このとき、東京プロトコールという宣言が採択され、「どの地域の科学館もSDGsの達成に向けて市民の理解と創造的な活動を生み出すために、科学館が行動を起こしましょう」と方針が出ました。
また、日本と海外の研究者が共同で地球規模の課題に取り組む活動を、日本科学未来館のSDGsリレーブログとして紹介しています。館内の展示ですと、3階の「未来逆算思考」はSDGsに関連する部分があるかと思います。
「未来逆算思考」は、バックキャスティングという思考方法をゲームを通して紹介する展示です。50年後の子孫へ届けたい理想の地球を設定し、そこから逆算して、私たちが今からするべきことを考えてみましょう。
「理想の地球」は最初に来館者に8つある中から選んでいただくのですが、「地球温暖化がストップした地球」「エネルギーで豊かな暮らしができる地球」などSDGsに通じるテーマがあります。ゲーム自体はクリアが難しくて、思わず熱中してしまう方も多いです。特に子ども連れの来館者に人気の展示となっています。
──ゲーム形式で「持続可能な地球」について学べると、心に残りやすそうですね。他にも、日本科学未来館の展示でおすすめのものはありますか。
3階の入口の壁にある「ノーベルQ」です。こちらは、ノーベル賞受賞者の方々からいただいた「問い」を展示しています。私が好きなのは、ティモシー・ハントさんの問いです。
「『お父さん、どうして天井は透明じゃないの?』娘が眠りにつく前に聞きました。」
当たり前のものに疑問に持つことは、新しい開発や研究につながることを教えてくれるメッセージだと思います。
提供:日本科学未来館
同じく3階にある「計算機と自然、計算機の自然」は、計算機科学者の落合陽一さんが総合監修をしていて、アートに興味のある方から注目されています。未来では自然の中に人工物が溶け込んでいくのではないか、と考えが膨らむ展示です。
もし100年以上誰も入っていない森にやってきたとします。そこでは、人工物であるロボットが自然の中でひとりでに動いています。この場合、そのロボットは野生の生き物と言えるのか? こうした例え話を、来館者へ展示を説明するときに使います。
また、この展示には人工的な蝶もいます。機械らしさも残っていますが、羽の表面は本物のモルフォチョウを参考にしています。いずれ、技術がもっと進化すれば、本物と機械の蝶の見分けもつかなくなっていくかもしれませんね。
モニターにたくさんの人物や動物、風景などが映し出されているこちらの展示は「計算機の自然」です。
映像を見ると、どこにでもありそうな自動車や風景が映っていますが、実はすべてAIが学習して作り出したものなんです。つまり、現実には存在していません。コンピュータの中にも新しい世界、自然があると教えてくれる展示になっています。
──映像を効果的に利用した展示が多いですね。
言葉で伝えるより、映像で伝えるほうがわかりやすいこともありますので映像展示を大切にしています。
アート関連で言えば、日本科学未来館には球体映像表現が2つあります。ここのシンボル展示でもあるジオ・コスモス(※)と、6階にあるドームシアターです。ドームシアターの上映作品のひとつ「9次元からきた男」では、難しい物理の理論を視覚的に伝えようとしています。
ジオ・コスモス 提供:日本科学未来館 ※メンテナンス工事のため公開を一時休止。2022年3月末に再開予定。
映像や体験を通じて、専門的なトピックについてわかりやすく説明されているのが魅力的ですね。あらゆる人びとに開かれている日本科学未来館は、専門知識を持っている人はもちろん、そうでない人も楽しめる場となっています。
公式サイトでは、初めて来館されてどこから回るか分からないという方や、団体旅行などで時間が限られている方などに向けた、おすすめコースも紹介されています。
後編では、綾塚さんたちSCのお仕事のお話しを中心にお聞きします。
難しい研究内容をどう伝えるのか?その工夫ややりがいについて語っていただきます。
どうぞお楽しみに!