2022年1月17日

「つくる」「つたえる」を聞くインタビュー:弥生美術館・外舘惠子さん(後編)

美しくも繊細なカラー原画!出版美術をつたえるための工夫や課題とは?

スフマートでは、「つくる」「つたえる」という2つの視点をもとに、ミュージアムを支えるさまざまな人へのインタビューを隔週・前後編でお届けします。

明治から昭和にかけての印刷美術の収集・展示を行っている、弥生美術館・竹久夢二美術館

東京大学や上野公園にもほど近い美術館の館内では、大正ロマン薫る竹久夢二や高畠華宵(たかばたけ かしょう)の作品を常時展示。雑誌ふろくや少女漫画にスポットをあてた企画展にも注目が集まっています。

インタビュー/外舘惠子学芸員/弥生美術館竹久夢二美術館/スフマート
弥生美術館・外舘惠子学芸員 ※撮影時、マスクを外していただきました。

今回お話をお聞きしたのは、弥生美術館の外舘惠子学芸員です。

前編では、出版美術の収集や展示についてインタビューしました。つづく後編では、劣化しやすい出版美術の保存や展示にまつわるエピソード、デジタル化のすすむ漫画原画の展示についてお話いただきました。

後編:弥生美術館を「つたえる」こと

──出版美術の保存や展示をするにあたって、心がけていることはありますか。

出版物の退色を防ぐために、紫外線カットの美術館博物館向けのLED照明を導入し、極力、光を当てないように気をつけています。

少女漫画のカラー原画によく使われているコピックやカラーインクは、紫外線にとても弱く、退色しやすい画材です。少女漫画の原画は特に繊細なことが多いので、展示室の照度を落としたり、展示作品をこまめに入れ替えたりと、展示や保存にも細かい注意を払っています。

「保存しながら展示する」ことは学芸員の使命だと思っていますので、できるだけ作品への負担を減らしながら展示していくことは、常に意識していますね。

雑誌を収蔵している書架には、カーテンをつけてできるだけ光を遮断しています。雑誌の口絵や表紙といった紙ものの収蔵品が多いので、中性紙ボックスや無酸紙といった専用の紙を使って保存しています。

──最近の漫画や挿絵は、デジタルが主流になってきていますよね。デジタル原稿は劣化しにくい一方で、筆跡を感じにくかったり、紙に刷り出したものが原画なんだろうか?ということも気になります。

デジタルの場合でも下絵や色見本などがあるときは、お借りして刷り出した絵といっしょに展示をすることで、制作工程を見ていただいたりしています。

以前、イラストレーターのマツオヒロミ先生の展覧会を開催したときも、A1やB1サイズに大きく引き伸ばしたものを展示しました。大正ロマンを感じさせるとても素敵なイラストで、「改めて先生の絵が見られてよかった」と言ってくださる若い方もいらっしゃいました。

「フルデジタルの場合はどう展示するのがよいか?」と、他館の学芸員と話したりもします。この先も漫画文化はどんどん変化していくと思いますので、今後の課題ですね。

今は「くらもちふさこ展」の準備中ですが、くらもち先生も近年は手描きとデジタルを併用して描いています。ペン画で描かれた下絵をスキャンして、デジタルで色をつけていたり、前景と背景が別々になっている絵も多くあります。

インタビュー/外舘惠子学芸員/弥生美術館竹久夢二美術館/スフマート
くらもちふさこ展チラシ

コピックでとても綺麗に着色された原画が、実際に掲載された雑誌の扉を見ると、デジタル加工で全く違う色になっていることもあり驚きました。

──作画のどの段階をどうやって展示しようか迷いそうですね。下絵なのか、完成作なのか、両方なのか。元の原画とデジタル加工後の完成作が並べて展示されているのも面白そうです。

展示も画集もスペースに限りがあるので、ものすごく迷いますよ。「前景と背景、2枚だったイラストの配置をどうしたらよいか・・・」って(笑)。

デジタル原画を紙に刷り出すとき、印刷会社さんによって色味も変わってきますので、作家さんが想定している色味にどこまで近づけられるのかも課題だと感じます。

──出版美術の展示をされる意義については、どのようにお考えでしょうか。

子どもの頃、身近にあった雑誌やふろくと再会することで、懐かしいと思っていただくのももちろんですが、身近なものから、明治から令和へとつづく出版美術の歴史を感じていただけるとうれしいです。

子ども時代に読んでいた思い入れのある作品の原画などは、やはり実際に見ると感動しますよね。原画の前でお友だちと盛り上がっていたり、涙ぐんでいる方もたくさんいらっしゃいます。そんな姿を目にすると、展示を企画してよかったなと思います。

また、陸奥A子先生や田渕由美子先生などの展示には若い方も注目してくださいました。「今まで知らなかったけれど、かわいいですね!」と言ってくださる方が多くて嬉しかったです。

1970年代の少女漫画展のときは、男性もたくさん来館されました。この頃は、少女漫画が男性にも浸透していった時代で、男性の『りぼん』ファンも多かったんですよ。

創刊65周年の節目に開催した「なかよし展」のときは、『セーラームーン』のグッズも大人気で、開幕直後は朝から長蛇の列でした。

インタビュー/外舘惠子学芸員/弥生美術館竹久夢二美術館/スフマート

当館では漫画文化の源流にいる高畠華宵や竹久夢二の作品も展示していますから、幅広い切り口の展示を楽しんでいただきつつ、出版美術の歴史を感じていただけるといいなと思います。

──展示されている竹久夢二の絵も、来るたびに変わっていますよね。楽譜やパッケージ、絵本などもありました。

そうなんです。夢二は多彩な仕事をしていますので、いろいろな切り口から展示をしています。年間を通して来ていただけると、夢二がどんな人物だったのか分かるような展示を企画していますので、こちらもあわせて楽しんでいただければと思います。

──これから企画してみたい出版美術の展示はありますか。

歴史や文化を感じられて、かつその時代に少女の間で流行っていたものや、ヒットしていた漫画もあわせて紹介するような展示を企画してみたいです。戦前からのつながりを感じられるような展示だとなお良いですね。

例えば、戦前の少女雑誌の相談コーナーや読者投稿コーナーは、今見ても共感できるところがあります。自分の体型のことや美容、恋愛・・・など現代の私たちと同じようなことで悩んでいます。また、女学生たちが先生に「消防自動車」なんてニックネームをつけていたり(笑)。読んでいると面白いです。

2017年の「はいからさんが通る」展のときにも試みたのですが、遠い存在だった昔の女学生のことを、身近に感じられる展示もまた開催してみたいです。

いつもお友達同士で来館してくださって、帰りに「夢二カフェ 港や」に立ち寄って思い出話をされている方も多くいらっしゃいます。今はこんなご時世ですが、またそんな日が来るといいなと思います。

夢二や華宵の絵に囲まれて大正ロマンの世界に浸るのも、懐かしの漫画原画やふろくを見ながら子ども時代に思いを馳せるのも楽しい、弥生美術館・竹久夢二美術館。着物姿で来館される方も多くいらっしゃるそうです。

ふろく文化や少女漫画への愛にあふれる外舘さんとお話していると、自分が子ども時代に読んでいた少女漫画や流行っていたもののことを久しぶりに思い出して、甘ずっぱい気持ちになりました。

出版美術の歴史をたどるなかで、過去に夢中になっていたものを再発見したり、新たに惹かれる絵や作品に出会ってみてはいかがでしょうか。

 

次回のインタビューは、アールブリュットをテーマにしたスペシャルコラムです。お楽しみに。

次回:2022年2月7日 更新