2022年4月18日

「つくる」「つたえる」を聞くインタビュー:東京国立博物館 三笠景子さん(後編)

東京国立博物館で、琉球・沖縄文化を伝える展覧会が開催。担当研究員の三笠さんに本展の見どころを聞いてみた

スフマートでは、「つくる」「つたえる」という2つの視点をもとに、ミュージアムを支えるさまざまな人へのインタビューを隔週・前後編でお届けします。

今回お話をお聞きしたのは、東京国立博物館の学芸企画部企画課 特別展室で主任研究員を務める三笠景子さんです。沖縄復帰50年を記念して開催される、特別展「琉球」(2022年5月3日〜6月26日)を担当されています。

※展覧会詳細はこちら


東京国立博物館 主任研究員 三笠景子さん

かつて琉球王国として独自の歴史と文化を有した沖縄にスポットを当てた本展。尚家(しょうけ)が築いた琉球王国の成り立ちやアジア諸国との交易を通して育まれた豊かな文化を中心に、近代化や戦争で失われた文化財や手わざの復興の歩みも含めて紹介する展覧会です。

前編では、文化財の修理・保存の大切さ、戦争で失われた琉球・沖縄文化を展覧会を通して伝えていくことの意義について教えてもらいました。

続く後編では、特別展「琉球」の見どころや東京国立博物館の琉球コレクションのこと、琉球・沖縄文化を未来へとつなげていくために必要なことについてお聞きします。

後編:琉球・沖縄文化の未来を「つくる」こと

──5月3日から特別展「琉球」が開幕しますが、見どころを教えてください。

展示すべてが見どころですね。尚家宝物や紅型(びんがた)など琉球王国の美をテーマとした展覧会というのは、これまでさまざまな美術館・博物館でも開催されてきたと思います。

本展では美術品だけでなく、考古資料や歴史資料も交えて琉球・沖縄文化を網羅的に観ることができます。琉球・沖縄にゆかりのある文化財がこれほど幅広く一堂に会する機会というのは、この先しばらくはないのではないかというくらい、とても見応えのある内容になっています。

──それはもう必見ですね! 本展は7月から九州国立博物館へと巡回予定ですが、会場による展示の違いはありますか。

当館は、各分野の研究員を総動員して幅広いテーマで琉球・沖縄文化に触れられるものになっています展示会場の広さを生かして、絵画や工芸品をたっぷりと並べる予定です。

とくに、絵画と染織品は想像以上のものが揃います。バラエティーに富んだ琉球絵画のほか、冊封使や琉球士族による墨跡(ぼくせき)の作品群は見どころです。染織品に関して言えば、紅型をはじめとする染めに加え、織りや刺しゅうのすばらしさも伝わる内容になっています。

九州国立博物館では、2006年に開館記念特別展「うるま ちゅら島 琉球」という沖縄に関する展覧会をすでに開催しているということもあり、皆さんが想像する琉球の美術品に限らず、たくさんの歴史資料を交えて深く掘り下げた、奥行きのある展覧会になると思います。

──東京国立博物館には日本有数の琉球コレクションがあるとのことで、今回の展示でも出品されますね。その中で特に三笠さんのおすすめはありますか。

「ノロの図」という風俗画です。「ノロ」は村の祭祀を司る女性のことで、女性が祭祀の中心的役割を担っているという点は、琉球文化の特徴のひとつと考えられています。

本作には、ノロが身につけている染織品や装飾品、手に施した入れ墨(ハジチ)などがとてもていねいに描かれていますので、ぜひ間近でご覧いただければと思います。


ノロの図 第二尚氏時代・19世紀 東京国立博物館蔵
展示期間:2022年5月3日(火・祝)~5月29日(日)※東京会場のみ

巡回先の九州国立博物館では、当館の琉球コレクションから高い身分の人びとや、庶民の男女を描いた風俗画も展示する予定です。とくに女性を描いたものは太い帯で腰を締め付けない、琉球独特の着付けをしていることなど、当時の風俗がよくわかる貴重な資料となっています。

──豊富な琉球や沖縄に関する資料を持っているのですね。なぜ東京国立博物館にそういった資料がまとまって保管されているのでしょうか。

当館の琉球関連資料のコレクションは、明治17(1884)年と明治18(1885)年に、当時の博物館省が沖縄から購入したものがベースになっています。

当時、欧州でアジアの異文化に対する関心が高く、明治15(1882)年にドイツのベルリン民族博物館(現・新美術館)からの依頼で明治政府が琉球の民俗資料を収集することになったと聞いています。その際、東京の博物館用に別途集められたものだそうです。

──沖縄の地上戦でたくさんの文化財や歴史資料が失われたことを考えると、この琉球コレクションはとても貴重なものですね。

そうですね。琉球・沖縄に関する資料は先の大戦でいろいろなものが失われてしまっているので、東京に残っている手がかりとして当館の琉球コレクションはとても重要なものだと思います。

ただ、当時は美術工芸の概念が明確でなかったこともあり、植物や工芸見本のようなものが含まれていた一方、染織品が少ないなど集められた作品の偏りも目立ちます。この、明治期に購入したコレクションはリスト化されておらず、全容はいまだにはっきりとはわかっていません。

当館では、沖縄復帰20年となる1992年に「海上の道」という特別展を開催しました。この展覧会がきっかけとなって、復帰30年の2002年に当館の琉球コレクションの図版目録を作成しました。沖縄の研究者の方々の協力を得て、明治期に沖縄から購入したものだとようやくわかったものもあります。

また、私の専門である陶磁器の収蔵品には、皆さんがよく知る沖縄のやきもの、壺屋焼(つぼややきもあります。しかし土や絵付けが現在のイメージと違う異色の作品群です。研究途中ではっきりと分かっていないのですが、明治時代の一時期に生産されたものだと考えられます。

どんな分野でも興味を持つことで、その貴重な資料を活かすきっかけになるのです。

*壺屋焼:沖縄を代表する陶器のひとつ。「やちむん」とも呼ばれています。

──収蔵庫にまだまだ貴重な資料が眠っている可能性があるのですね。特別展「琉球」で、三笠さんの専門である陶磁器で注目してほしいポイントがありましたら教えていただけますか。

壺屋焼というと、民藝のイメージにより民間のやきものという印象が強いですが、茶の湯など上流階級の人びとのあいだで使われていたものでもあるのです。一見すると素朴でゆるいイメージの壺屋焼は、とても高度な技術によってでできています。


特別企画 沖縄県立博物館・美術館 琉球王国文化遺産集積・再興事業 巡回展 「手わざ -琉球王国の文化-」(2022年1月15日~3月13日)より
(左)原資料 面取網代文三彩抱瓶 制作年:琉球王国時代 19世紀 製作者:不明 沖縄県立博物館・美術館蔵 ※特別展「琉球」に展示します。
(右)模造復元品 面取網代文三彩抱瓶 令和元年度 製作者:田里博・山田聡・島袋克史・金城宙矛(沖縄陶磁器研究会)沖縄県立博物館・美術館蔵 ※特別展「琉球」に展示しません。

その証拠に復元事業のなかでもやきものの復元はほかの分野よりも難しいのが現状です。例えば、「面取網代文三彩抱瓶(めんとりあじろもんさんさいだちびん)」の原資料は模造復元品に比べてとても薄く軽いものです。しかし、この形を保って薄く軽く焼き上げるのは極めて難しいのです。かつての琉球王国時代の材料や焼成環境とは異なるということも大きく影響しているはずですが、やはり技術的にまだ分からないことが多く残されているのです。

──その失われた技術が今によみがえって未来へとつなげていけたら、すばらしい成果になりますね。
そういう意味でも沖縄県立博物館・美術館が取り組む「琉球王国文化遺産集積・再興事業」には大きな意義があると感じました。

はい。琉球・沖縄の手仕事の技術を継承していくための核となる事業だと思います。しかし、やきもののように発展途中という分野もあるので、この事業が沖縄でしっかりと根付いてほしいですね。それと同時に、さまざまな分野の修復の担い手を育てていく必要もあると考えています。

原資料を安全に解体して修復できる人材がいれば、復元に必要な新しい手がかりが見つかります。そのためには沖縄だけに限らず、日本各地の博物館・美術館でも保存修復に力を注ぐべきかと。そうすれば沖縄の復元事業と保存修復事業が両輪で回っていくことでしょう。

──その両輪が回っていくためにも、保存修復や復元事業の大切さを私たちがもっと認識しないといけないですね。

特別展「琉球」では、琉球王国文化遺産集積・再興事業の成果もお見せできるので、皆さんに興味・関心を持っていただける展覧会になればと。


模造復元 御玉貫(うたまぬち)
上原俊展[金細工まつ]、高田明[公益財団法人 美術院]
平成30年度 沖縄県立博物館・美術館蔵
展示期間:2022年5月3日(火・祝)~5月29日(日)

琉球・沖縄文化を伝える展覧会も、その復元事業も続けていくことが大事なんですよね。ありがたいことに本展には、幅広い世代の沖縄の美術関係者の方々が協力してくださいました。今回の展覧会を通じて広がったつながりを大切にしたいと思っています。

──この先、沖縄復帰60年、70年と節目を迎えるたびに、新たな広がりが期待できそうです。

そうですね。実は琉球・沖縄の美術品は海外に多く遺されているので、それらを集めて展示することも今後やってみたいことの一つでもあります。この先やるべきことはまだまだたくさんあると思っているので、琉球・沖縄文化を伝える展覧会をまたいつか開催することができれば嬉しいです。

 

特別展「琉球」は、5月3日に開幕します。煌びやかな尚家宝物から伝統的な手わざをよみがえらせた模造復元作品まで、過去最大規模で琉球・沖縄の文化財が紹介されるまたとない機会です。

この豊かな文化を未来へとつなげていくために私たちにできることは、展覧会へ足を運ぶこと! 三笠さんに教えてもらったことを胸に、これまでとはひと味違う視点から琉球・沖縄文化を見つめ直してみてください。

次回のインタビューは、アドミュージアム東京の三浦善太郎さんにお話をお伺いします。お楽しみに!

(次回:2022年5月7日 更新

Exhibition Information

展覧会名
沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」
開催期間
2022年5月3日~6月26日 終了しました
会場
東京国立博物館 平成館
公式サイト
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/ryukyu2022/
注意事項

※会期中、一部作品の展示替えを行います。
※展示作品、会期、展示期間等については、今後の諸事情により変更する場合があります。最新情報は展覧会公式サイトなどでご確認ください。
※九州会場でも展示期間が限定される作品があります。詳細は、展覧会公式サイトでご確認ください。