2022年4月4日

「つくる」「つたえる」を聞くインタビュー:東京国立博物館 三笠景子さん(前編)

日本でもっとも長い歴史をもつ博物館・東京国立博物館の使命とは。文化財を守り伝えていくこととは

スフマートでは、「つくる」「つたえる」という2つの視点をもとに、ミュージアムを支えるさまざまな人へのインタビューを隔週・前後編でお届けします。

今回お話をお聞きしたのは、東京国立博物館の学芸企画部企画課 特別展室で主任研究員を務める三笠景子さんです。沖縄復帰50年を記念して開催される特別展「琉球」(2022年5月3日〜6月26日)を担当されています。

※展覧会詳細はこちら

スフマート Sfumart インタビュー 東京国立博物館 三笠景子 特別展「琉球」
東京国立博物館 主任研究員 三笠景子さん

沖縄は、かつて尚家(しょうけ)が治める「琉球王国」として独自の歴史と文化を有しました。アジア諸国を結ぶ中継貿易の拠点として栄え、独自の文化を育んでいたものの、第二次世界大戦での激しい地上戦や近代化を経て、多くの文化財や伝統的な手わざが失われてしまいました。

三笠さんが担当する特別展「琉球」は、そうした琉球・沖縄の豊かな文化を復興と継承の歩みも含めて今に伝える展覧会です。

前編では、保存修復事業にも携わった経験がある三笠さんに、東京国立博物館の保存修復課の仕事や琉球王国文化遺産集積・再興事業のこと、琉球・沖縄文化を展覧会を通して伝えていくことの意義についてお聞きしました。

前編:文化財を守り「つたえる」こと

──三笠さんは5年ほど保存修復課に在籍されていたそうですね。そこではどんな仕事をしていましたか。

東京国立博物館の保存修復課は、環境保存室、保存修復室、調査分析室の3つにわかれています。私が5年間在籍していた保存修復室では、収蔵品のなかから修理が必要なものをリストアップし、それぞれの作品の状態に応じた修理を行っています。修理には対症的なものから、解体を含む本格的なものまでさまざまな工程があります。

──収蔵品は専門スタッフが日々ケアしながら保管しているからこそ、展覧会で目にすることもできるし、後世に残していけるのですね。
文化財を守り、未来に伝えていくために、専門家ではない私たちでもできることはありますか。

 博物館・美術館が収蔵する文化財に関心を持っていただくということが第一だと思います。私が保存修復課に配属されて痛感したのは、研究員の目に触れなくなったものは劣化があっという間に進むということでした。

当館には現在、およそ12万件の収蔵品があります。日々点検するのは、ひとつの分野といえどもかなりのボリュームで大変な作業になります。例えば、私の専門である陶磁器の収蔵品数は1万件近くあります。

スフマート Sfumart インタビュー 東京国立博物館 三笠景子 特別展「琉球」
本館18室 展示風景

国宝や重要文化財の作品は展示頻度が高く、特別展などでご覧いただける機会も多いかと思います。しかし、ふだんなかなか光が当たらない文化財も未来に良好な状態で受け継いでいかないといけません。

そこで私たち研究員は、それらの作品が活きるテーマを考えて展覧会を企画し、修理に出すタイミングや皆さんの目に触れる機会を増やしていくことを常に考えています。展覧会に出品される機会が増え皆さんから良い反応があると、作品自体の存在感も増しますし、認知も広がっていきます。

少しでも興味があると感じる展覧会が開催されていたら、ぜひ足を運んでもらえればと思います。

──後世に文化財を継承していくという点では、特別展「琉球」で紹介される模造復元品の取り組みにも通じるものがあります。

そうですね。沖縄県立博物館・美術館が行った「琉球王国文化遺産集積・再興事業」は、原資料を科学的に分析しながら、模造復元作品を作るという意義深い取り組みです。

近代化や、第二次世界大戦での激しい地上戦により、ものも技術も失われた沖縄だからこそ、緊急性を伴う切実な課題なんだと思います。

──沖縄ならではの取り組みなのですね。特別展「琉球」では、どのような模造復元品が見られるのでしょうか。

絵画、木彫、石彫、漆芸、染織、陶芸、金工、三線の8分野から網羅して紹介する予定です。

網羅的に紹介するのには実は理由があります。日本では大学教育の段階から専門分野について学び、多くの美術館・博物館で「○○の分野の専門研究員」として職務につきます。しかし、琉球王国文化遺産集積・再興事業の取り組みを見て、そもそも日本文化や伝統技術は分野ごとに切り離して考えるものではない、と気付かされたんです。スフマート Sfumart インタビュー 東京国立博物館 三笠景子 特別展「琉球」
(右)模造復元 聞得大君御殿雲龍黄金簪(きこえおおぎみうどぅんうんりゅうおうごんかんざし)制作風景
(左)模造復元 美御前御揃(ぬーめーうすりー)(御玉貫(うたまぬち))制作風景

琉球王国文化遺産集積・再興事業では技法や道具、材料のアイデアを分野を超えて共有することで新たな発見や作業の進展につなげることできたそうです。

この話を聞いた時に、書画や工芸という枠を超えてアイデアを共有して工夫するという作業体制は、琉球王国の貝摺奉行所で、また、かつての日本でも日常的に行われていたことではないかと改めて気づかされました。そうした日本文化の魅力を今一度、多くの皆さまに伝えることができたらと考えています。
*貝摺奉行所(かいずりぶぎょうしょ)・・・首里城の王府からの命で、漆器や三線、絵画などを製作する部署

そうした思いもあり、特別展「琉球」のなかでも最終章は「未来へ」というテーマで、首里城の再建や失われた文化財の復元についても盛り込みました。本展にお越しになる方は、染織や漆器、絵画などそれぞれのお目当てがあるとは思うのですが、それらの手わざは実はそれぞれにつながり、共有されたすばらしい土壌をもっていることをぜひ知ってもらいたいです。

本展をきっかけに、お目当て以外の分野の作品や博物館・美術館にも関心を持ってもらえたらいいなと思っています。

──三笠さんが考える、琉球・沖縄文化を東京の国立博物館が展覧会を通して伝えていくことの意義について、教えていただけますか。

東京の国立博物館という、より多くの人の目に触れる場で沖縄の展覧会を開催することは、広く琉球・沖縄文化を知ってもらう機会にもなりますし、新たな発見につながる可能性もあると考えています。

琉球・沖縄文化というと、色彩豊かな紅型(びんがた)や漆器などの尚家宝物の印象から、明るくてキラキラしたイメージを抱いている方も多いと思います。そういった華やかな文化財もあれば、紹介される機会の少なかった文化財ものもあることを知ってもらえる展覧会になればと思っています。化財は人の目に触れなくなってしまったら、そのまま朽ちていくばかりですので、より多くの人の関心を集められる場になればいいなと。

スフマート Sfumart インタビュー 東京国立博物館 三笠景子 特別展「琉球」
国宝 玉冠(付簪)(たまんちゃーぶい(つけたりかんざし))
(琉球国王尚家関連資料)第二尚氏時代・18~19世紀 沖縄・那覇市歴史博物館蔵
展示期間:2022年5月3日(火・祝)~5月15日(日)

研究途中の琉球・沖縄文化をさらに探っていく足掛かりとして、本展がきっかけになればと考えています。

琉球文化といえば、紅型ややちむんなどに目が行きがちでしたが、三笠さんのお話を聞いてこれまで触れたことのない分野の作品も、5月3日から始まる特別展「琉球」で観てみたくなりました。

後編では、特別展「琉球」の見どころや東京国立博物館の琉球コレクションについて詳しくお聞きします。次回もお楽しみに。

(次回後編:2022年4月18日 更新予定)

Exhibition Information

展覧会名
沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」
開催期間
2022年5月3日~6月26日 終了しました
会場
東京国立博物館 平成館
公式サイト
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/ryukyu2022/
注意事項

※会期中、一部作品の展示替えを行います。
※展示作品、会期、展示期間等については、今後の諸事情により変更する場合があります。最新情報は展覧会公式サイトなどでご確認ください。
※九州会場でも展示期間が限定される作品があります。詳細は、展覧会公式サイトでご確認ください。