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2024年11月21日
スフマートでは、「つくる」「つたえる」という2つの視点をもとに、ミュージアムを支えるさまざまな人へのインタビューを隔週・前後編でお届けします。
記念すべき初回にお話をお聞きしたのは、東京都庭園美術館の副館長・牟田行秀(むた ゆきひで)さん。
東京都庭園美術館は、1910年から30年代にかけてフランス・パリを中心に栄えた装飾様式「アール・デコ」の美しい建築が楽しめる美術館です。
エレガントでおしゃれなエリアで知られる白金台の緑豊かな庭園を眺めながら、ドリンクとスイーツを楽しめるカフェやレストランなどが併設され、日々幅広い層が訪れ賑わいを見せています。
前編では、牟田副館長に東京都庭園美術館の魅力や、美術館運営の裏側を聞いてみました。
東京都庭園美術館副館長・牟田行秀さん ※撮影時、マスクを外していただきました。
──もともと旧朝香宮邸だった東京都庭園美術館ですが、どのような場を目指してつくられた美術館なのでしょうか。
東京都庭園美術館は1983年に開館しました。当初は、本館である旧朝香宮邸のアール・デコ様式の建物と緑豊かな庭園、そして展覧会が一体となった、ユニークな空間での美術鑑賞体験を提供することをコンセプトにしていました。
そして開館から40年近く経った今、ミッションも変化して、美術鑑賞だけではなく多岐に渡るものになりました。現在は「ダイバーシティ」や「クリエイティブ・ウェル・プロジェクト(*)」といった言葉をキーワードに、さまざまな人びとが集い交流する拠点としての役割も担っています。
*クリエィティブ・ウェル・プロジェクト:芸術文化の力や都立文化施設の資源を活用し、高齢化や共生社会など、東京の社会課題解決への貢献を目指し、高齢者、障がい者、外国人、乳幼児等を対象者に「アクセシビリティ向上」と「鑑賞・創作・発表機会の拡大」に取り組む、公益財団法人東京都歴史文化財団のプロジェクトのこと。
──本館の旧朝香宮邸は、重要文化財でもありますよね。文化財建造物を美術館として活用することの意義について、牟田副館長のお考えをお聞かせください。
これについては語りますよ(笑)。
歴史的な建築物や個人の邸宅を文化施設として活用するのは、欧米ではわりとポピュラーで、例としてパリのマルモッタン美術館やニューヨークのフリック・コレクションなどが挙げられます。そういった施設は、文化財としての現状維持を目指すというより、時代や使い勝手に合わせて必要な要素を加えて変化させている印象があります。
一方で東京都庭園美術館の建物は、宮邸だった当時の姿がほぼそのまま保たれています。美術館にしたからといって美術館に必要とされるものを足していくのではなく、当時の姿をとどめながら建物の良いところを積極的に引き出していくのが当館の特徴であり、最も苦労している点です。
日本美術の研究者であり当館の初代館長だった鈴木進さんは、旧朝香宮邸という建物の空間とそこに展示される作品との調和にとてもこだわっていました。鈴木館長は、建物が持つ魅力と作品の魅力を等しく見ていたのだと思います。
皆さん、展示室をご覧になると「なるほど」と感じると思うのですが、宮邸のお部屋にはマントルピースという暖房器具を納めている暖炉のようなものがあります。マントルピースの上に柱で区切られたくぼみがあるのですが、鈴木館長はそれを床の間に見立てていたんです。
画像提供:東京都庭園美術館
当時まだ若かった僕は作品中心に展示構成を考えてしまいがちでしたが、鈴木館長の言葉を意識して作品を並べると作品も空間も不思議と生きてくるんですよ。
鈴木館長が「空間にピタッとはまる作品を選んでください」といつも言っていたことが、とても印象に残っています。
──魅力ある建物と美術作品で相乗効果が生まれる空間になっているんですね。
この宮邸は施主である朝香宮ご夫妻が、パリに滞在された経験をもとに建てられたこだわりが詰まったアール・デコ様式の建物です。
建物自体に大きな魅力がある旧朝香宮邸は、とても優れた展示空間でもありますから、歴史的建築物として通年公開するよりも、展覧会などを定期的に開催する文化施設として活用した方が建物がより活きるように感じます。
特に妃殿下は芸術に人一倍関心をお持ちだったそうです。美術館となり、さまざまな展覧会を通してより多くの人びとに来館してもらえることを、きっと喜ばれていることでしょう。
──牟田副館長は、もともと「アール・デコ」を研究されていたのでしょうか?
今でこそ研究分野になりましたが、実は最初からアール・デコに深い関心があったわけではなかったんです。ここまで研究したいと思えたのは、東京都庭園美術館の学芸員として採用後、初めて自分で手がけた展覧会がきっかけです。
学芸員という仕事は、まず最初は収蔵品の管理などの経験を積み、一通りのことを学んでから自分で展覧会を作ることが一般的です。しかし当時の東京都庭園美術館は、必要最小限度の学芸員だけで運営を任されていました。
本当に右も左もわからない新米学芸員だったのですが、ある日先輩から建物公開展の担当を任されたんです。年に一度、旧朝香宮邸の建築の魅力を存分にご紹介する当館恒例の展覧会ですが、当時の僕は「建物公開展って何ですか?」というところから始まり、とても大変だった記憶があります。
過去に開催された建物公開展の記録写真を参考に、どんな展覧会なのかを調べていくと、宮邸時代の家具らしきものが展示されていることに気が付きました。
それで「この家具はどこに収蔵されているのですか?」と尋ねると、先輩は「すべて借用品ですよ」と言うのです。「何をどこで借りたらいいのでしょうか?」と聞いたら、「それを牟田さんが考えるんですよ」と(笑)。
そこから「アール・デコ」の研究が始まりました。
──旧朝香宮邸に出会ったことで、アール・デコの研究が始まったのですね。
学芸員を志望し、東京都庭園美術館の管理・運営元である東京都歴史文化財団に入ったきっかけはなんですか?
学芸員は自然な流れで志望していましたね。中学生の夏休みに港区の郷土資料館の講座に参加し、そこで初めて学芸員という職業を知ったことがきっかけです。その時以来、学校が終わるとほとんど毎日のように資料館に通っていました。
高校の頃からは区内の遺跡発掘の現場にも顔を出すようになり、ますます学芸員や美術館・博物館というものに対して関心を持つようになっていました。
旧朝香宮邸についても、子どもの頃から「白金の森」と呼ばれており、近くに住んでいたので知っていました。ただ、僕が小学生の頃は旧朝香宮邸は迎賓館として使われていて一般公開はされていなかったので、とても気になっていましたね。それが東京ディズニーランド開園と同じ1983年、美術館として一般公開されたんです。
「幻の館」と言われる美術館って一体どんなところなんだろうと、展覧会にも足を運びました。
画像提供:東京都庭園美術館
そして大学卒業後、学芸員を目指していたところタイミングよく東京都庭園美術館の求人を見つけました。
ここなら小さい頃から慣れ親しんだ地域でもあるし、興味関心のある美術館だということもあり応募して、縁あって採用していただけました。
──2021年4月から東京都庭園美術館の副館長に就任されましたが、副館長として今後どんなことに取り組んでいきたいですか。
東京都庭園美術館が持つ潜在的な可能性をもっと引き出していきたいと考えています。
当館ホームページにある「たてもの文様帖」など、「装飾」をテーマにしたワークショップのような取り組みを引き続き充実させ、当館の魅力をこれまで以上に発信していきたいです。
それと同時に、庭園をもっと活用していきたいと考えています。例えば、庭園でのコンサートや演劇の開催など、東京都歴史文化財団という組織の特性を活かした連帯事業にも積極的に取り組んでいきたいですね。
そして何よりこの東京都庭園美術館を、来館していただくことで、笑顔で「明日も頑張ろう」と思ってもらい、心が豊かになれるような場所にしていきたいです。
いまの時代に求められる美術館は、単なる鑑賞体験だけではなく、いろんなものを得ることができる場所なんだと思います。そういった部分をもっと大切にしながら一つひとつ具体化していきたいと考えています。
重要文化財である旧朝香宮邸を、美術館として活用する東京都庭園美術館。貴重な空間で美術鑑賞体験だけではなく、さまざまな人に開けた文化施設を目指す牟田副館長の今後の活躍に注目です。
続く後編では、「つたえる」の展覧会づくりの醍醐味や工夫、大切にしていることについて詳しく伺います。