【夏の特別インタビュー】昭和館・吉葉愛さんインタビュー

2023年8月11日

8月15日は終戦記念日です。終戦からまもなく78年ですが、現在もこの世界で戦争は起こり続けています。

今夏、スフマートでは戦争や平和に関するテーマを取り扱う4つの館にインタビューしました。1か月の集中連載で毎週お届けします。

昭和館で戦前・戦中・戦後の国民の生活に触れる

戦争について考えるシリーズの最後となる今回は、東京・九段下にある昭和館の吉葉愛さんにお話を伺いました。

昭和館は主に、戦中・戦後の国民の暮らしを紹介する博物館です。

館の取り組みや展示品にまつわるエピソードについて、吉葉さんにお話いただきました。


昭和館 吉葉愛さん

──昭和館では、昭和10年~昭和30年代にスポットを当てているのですね。

戦中・戦後を通じて、「戦争が国内の人々の生活にどのような変化を与えたのか、その労苦を後世代の人びとに伝えること」を大きなテーマとしています。

戦争といえば、どうしても戦史が大きく取り上げられることが多いですが、戦争が人びとの日々の暮らしにどのような影響を与えたのかというところに、焦点をあてて実物資料や写真・映像で紹介しています。

国民の暮らしという点で、同じ時代を扱う施設のなかでは特色となるのではないでしょうか。

──確かに、当時の国民の生活のようすが分かる資料が多いですね。どのように資料収集をされているのでしょうか。

当館は、1999年に厚生省(現・厚生労働省)が設置した施設で、戦没者のご遺族などから寄贈を受け、資料を収集してきました。

近年でも、資料寄贈の問合せをいただきますが、その所有者や、使われていた当時の状況が分からない資料の問合せが多くなりました。

収蔵スペースに限りがあるので、資料の収集では何を残して、そして残された資料でいかに当時の生活を伝えられるか、常に見極める必要があります。

──展示品にまつわるエピソードを知るだけで、印象ががらりと変わりますね。

当館は昭和の時代のなかでも、限られた年代の資料を扱っています。

しかし、この年代の資料を集中的に収集することで、同じジャンルの資料でもバリエーションは豊富で、別々の背景を持つものがたくさんあります。

そうした違いや生活の痕跡など小さな部分から、戦争や昭和の時代という大きな存在を捉えられるのも当館ならではとも言えます。

──当時の人びとのようすが目に浮かぶようです。これらの資料を戦争を知らない世代へこの時代を伝えるために、工夫されている点はありますか?

当館は、よく社会科見学で小学生が団体見学に来るのですが、近くにある国会議事堂と併せて見学されることが多いです。

そのため、展示の導入部分にトリックアートを用いて、昭和20年の空襲後の国会議事堂前のようすを描きました。

常設展示室では、昭和10年代の家庭のようすから始まり、戦争の影響で徐々に衣服や食事など生活が変化していくようすを観ることができます。

戦中の子どものくらしを紹介するブースでは、武者ではなく兵隊の格好をした五月人形や、戦中に編さんされた「愛国百人一首」などを紹介しています。

戦争の影響で子どもたちの遊びも変わっていくようすが、遊び道具などの資料を通じて読み取ることが出来ます。

また、戦況が激しくなるにつれ、物資不足により登場した代用品も紹介しています。

こちらは竹製のランドセルです。

戦争が長期化するにつれて、金属や革などが不足しはじめ、これらを確保するために代用品が作られました。

たとえば、竹製のヘルメット、陶器で作られたアイロンなどがありました。

展示では、戦中の竹製のランドセルのほか、戦後は布でできたランドセルを展示しています。

戦中・戦後のくらしの移り変わりが、生活道具の変化を通じて見ることができます。

──現代でもお馴染みの品が戦時仕様になっているのは新鮮です。防空壕体験や、玉音放送が聴ける体験コーナーも豊富ですね。

フロアをつなぐ階段では、区切りとなる8月15日の「終戦の日」の玉音放送が聴けるコーナーがあります。

続く6階は、戦後の日本を紹介するほかに、体験コーナーや展示資料を調べるパソコンなども設けています。

当館はポスターの所蔵品も多く、このパソコンでは、展示室に出ていない資料の画像もたくさんご覧いただけます。

また、インターネットでもデジタルアーカイブを通じて資料の一部を公開していて、今後も徐々に公開数を増やしていく予定です。

自宅にいながら当時の資料を見ることができるので、「昭和館に行きたい」と思うきっかけになれば嬉しいです。

昭和館デジタルアーカイブ:https://search.showakan.go.jp/

──戦争を知らない世代へこの時代を伝えるために、工夫されている点はありますか?

当館では、多くの人びとの関心をひくテーマを考えながら、さまざまな切り口で昭和10年~30年代のくらしを紹介するようにしています。

企画展をきっかけに来館された方には、ぜひ館内の6・7階の常設展示も観ていただきたいです。

──ほかにも、館外へ向けたアプローチは何かされていますか?

はい。当館では、年に2回ほど地方の巡回展を開催しています。

全国からの資料を所蔵しているので、巡回展では現地に関連したものを織り交ぜて、その土地ならではの資料も紹介しています。

ほかにも、学校や公共施設でも資料を展示できる貸出キットがあります。

──最後に、戦争のない平和な世の中を築くために私たちにできることは何か 、お聞かせいただけますか?

私たちは戦争があった時代の資料を通じて、その経験・歴史を後世へつなぐことを目的にしています。

展示されている資料や写真・映像資料を通して、多くの方々に戦中・戦後の時代を感じ取っていただきたいです。

当館の展示が、皆さんにとってこの時代を考えるきっかけになるよう願っています。

4回にわたってお送りしてきた、戦争について考えるインタビューはいかがでしたか。

皆さんも、戦争を知る人びとが残した資料を通して、今生きている世界や平和について考えてみませんか?