未来のかけら: 科学とデザインの実験室/21_21 DESIGN SIGHT

科学とデザインのコラボレーションから生まれる「未来のかけら」【21_21 DESIGN SIGHT】

2024年4月18日

21_21 DESIGN SIGHT「未来のかけら: 科学とデザインの実験室 」

21_21 DESIGN SIGHT外観

六本木にある21_21 DESIGN SIGHTで「未来のかけら: 科学とデザインの実験室 」展がはじまりました。

ディレクターは、幅広い工業製品のデザインや、先端技術を具現化するプロトタイプの研究を行うデザインエンジニアの山中俊治が手掛けます。

「プロトタイプ」から未来をみつめる展覧会。

山中俊治は、東京大学の工学部を卒業後、日産のカーデザイナー、自身のデザイン事務所などを経て、慶応大学、東京大学の教授を務めたデザイナー。

展示は山中が2000年代前後につくった2つの「プロトタイプ」からはじまります。ひとつは、1つの眼で動くものを見つめるロボット《cyclops》、もうひとつは日本語入力のための親指キーボード《tagtype》です。


山中俊治+田川欣也・本間淳《cyclops》《tagtype》

プロトタイプとは、新しい製品を開発する際、デザインや機能性をテストするために作られる試作品のこと。こうした試作品を個人がつくって発信していくムーブメントは、2000年代初頭から広がり始めました。

本展では、さまざまなクリエイターが手掛けたこのようなプロトタイプが並びます。

科学とデザインが織りなす可能性。

展示は、さまざまな分野の科学者とデザイナー、7組がコラボレーションしてつくりだした作品へと続きます。

ギャラリー1では、多様なロボットやモビリティが大スクリーンの映像と合わせて紹介されています。


千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)+山中俊治《Robotic World》展示風景

これは、千葉工業大学未来ロボット技術研究センター所長の古田貴之と山中俊治が「美しいロボットをつくりたい」と意気投合し、2001年からスタートしたプロジェクトから生まれたロボットたち。


千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)+山中俊治《Robotic World》展示風景

8つの脚と車輪を持ち、車両、昆虫、動物といった複数のモードで移動するロボットビークル《Halluc IIχ》や、バイクに変形するロボット《CanguRo》など、独創的なロボットが並びます。


千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)+山中俊治 《Hallucigenia 01》《Halluc IIχ》《CanguR》

また、東洋大学生命科学部助教で解剖学・形態学を専門とする郡司芽久と、エンジニア集団で東京2020オリンピックの聖火台の機構設計にも参画したnomenaは、自分の手で組み立てて動かす、動物の関節に注目した骨格模型を制作。

鑑賞者は、その模型を組み立て、関節を動かすこともできます。


郡司芽久+nomena《関節する》展示風景

バラバラの骨格が磁石でピタリと組み上がる感触が心地良く、関節を動かしながら、生物の身体の形や機構の面白さも体感できます。


郡司芽久+nomena《アビシニアコロブスの頭蓋骨》組み上げて動きを体験することができます。

このほか、細胞工学や、計算幾何学など、さまざまな分野の技術とデザインをかけあわせた作品が並びます。


A-POC ABLE ISSEY MIYAKE+Nature Architects《TYPE-V Nature Architects project》
熱を加えるだけで立体的に組み上がる新しい服を展示

日用品から宇宙まで。研究室から生まれた「未来のかけら」

山中研究室がさまざまな分野の研究者たちとコラボレーションして生み出してきたスケッチやプロトタイプも展示されています。


ギャラリー2 展示風景

2013年に東京大学生産研究所に研究室を持った山中は、当時のことを「東京大学に来て、本当にここは宝の山だなと思いました。最先端のテクノロジーが形を欲しがっていると感じたんです。」と語りました。

そんな研究室から生まれてきたのは、まだ世の中には似た製品がない、まさに「未来のかけら」ともいえるプロトタイプです。


山中俊治のスケッチ

例えば、付加製造(3Dプリンティング)技術という新しい成形技術を活用してつくりだしたのは、「Ready to Crawl」という生物型機械のシリーズ。実際の生物とは全く異なる機構ながらも、生き物のような柔らかい動きをつくりだしています。


山中研究室+新野俊樹《Ready to Craw》

同技術を使って、同一の素材からさまざまな質感や触感をつくりだした多くのサンプルも。これらは、展示室外にあるコーナーで、実際に触って体験することもできます。


山中研究室+新野俊樹《触れるプロトタイプ》

また、2008年から現在まで続く「美しい義足プロジェクト」は、こうした成形技術に加え、義足装具士らとも協働。

個人にあわせて手作業で制作されてきた義足制作のデジタル化を目指します。


山中研究室+新野俊樹・臼井二美男《Rami:AM製競技用義足》

スポーツ用、日常用、子供用など、これまでになかった新しい義足のデザインの可能性が検討されています。

このほか、チタンという金属を活かした日常づかいの家具から、JAXAと協働したウェアラブルな飛行具《emblem》のコンセプトデザインまで、多岐にわたるスケッチとプロトタイプが展示されています。


山中研究室+野田篤司《有人小惑星探査機》

「役に立つ」だけではない。試作品が見せる「あるかもしれない未来」。

展示の後半で目を引くのは、背中に装着する着脱可能なロボットアーム《自在肢》。

東京大学教授の稲見昌彦が総括を務める「稲見自在化身体プロジェクト」が山中研究室とともに開発したものです。


山中研究室+稲見自在化身体プロジェクト《自在肢》

《自在肢》を装着してダンスをする映像からは、腕が増えることで作業の役に立つような「機能」だけでなく、身体を拡張することによって新しい表現や感覚が生まれてくる未来も予感させます。


山中研究室+稲見自在化身体プロジェクト《自在肢》映像

映画監督の遠藤麻衣子による短編映画「自在」の中では、この《自在肢》のように、身体や感覚を拡張する複数のプロトタイプが登場します。

今回の展覧会について、山中俊治は「(こうしたプロトタイプが)すぐに何かの役に立つのか?ということよりも、『今、科学はこんなに面白いんだよ、こんなに美しいんだよ』というのを、見て、触って、ちょっと先の未来を感じてほしい。」と語りました。


山中俊治

科学とデザインのコラボレーションから生まれる「あるかもしれない未来」を体感できる展覧会。

「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」展は、21_21 DESIGN SIGHTで、2024年8月12日まで開催されています。

まとめ

「未来を予想する最良の方法は発明することだ」。山中俊治は自身の書籍※の中で、計算機学者アラン・ケイの言葉を引用し、「予想を的中させることは難しいのだけれど、自分が最初に作ってしまえば、確実にその未来はやってくる」※と説明しています。

今回の展覧会はまさに、新しい技術の使い方を想像し、そこにかたちを与えることで、もっと面白い未来へとつながっていくことを予感させる展覧会でした。

「未来のかけら」たちと出会い、未来を想像してみませんか。

※だれでもデザイン 未来をつくる教室 / 山中俊治 より

Exhibition Information