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2024年11月1日
つくる・つながる・ポール・コックス展/板橋区立美術館
フランスを中心に世界的に活躍するポール・コックス(Paul Cox 1959-)の展覧会が、板橋区立美術館にて開催中です。
展示風景
ポール・コックスは、絵画、グラフィックデザイン、舞台美術をなどの幅広いジャンルで才能を発揮するアーティストです。親しみが感じられる鮮やかな色使いと軽やかなタッチの作品は、教養と、知的な遊び心に満ちています。
本展では、近年取り組んでいる風景画の連作、劇場ポスターなどのグラフィックデザイン、絵本の仕事、さらには本展のために制作された作品を紹介。ポール・コックスの創作を余すことなく体感できる展示となっています。
※展覧会情報はこちら
本展が開催されている板橋区立美術館は、絵本に関する展覧会を多く行っており、とくに毎年恒例の「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」のあいだに開催される「夏のアトリエ」は、海外からアーティストなどを招いて行われる本格的な講座として知られています。
同館とポール・コックスとの出会いもこの講座が始まりでした。以来、15年におよぶ交流がつづき、本展が開催されることとなったのです。
しかし、世界的なパンデミックで海外との行き来が難しくなった現在。作家のアトリエ調査も、対面での打ち合わせも無く、展示準備が進められたそうです。
制作中のポール・コックス(2021年)
両者の長年の信頼関係、そしてポール・コックスの「制限から創造が生まれる」という座右の銘に奮い立たされながら実現した本展。
多彩な才能を持つポール・コックスの活動を網羅的に紹介する、世界初の回顧展をお見逃しなく!
ポール・コックスは、1959年にパリの音楽家の家庭に生まれました。
文化的な家庭で、音楽、美術、文学、哲学などの教養を身に着けながら成長したポール。大学は美術史と英文学を専攻しましたが、絵画制作については独学で学びました。
ポールの軽やかでありながらも、その深い教養を感じさせる作品は世界的にも高く評価されています。
展示風景
グラフィックデザインの仕事を紹介するコーナーでは、初期から今年制作された最新作までの、膨大な仕事の一部を展示。
特に劇場のポスターやパンフレットなどの仕事は、音楽への素養が豊かなポールに最適の仕事でした。
展示風景
現在も進行中のナンテール・アマンディエ劇場の仕事では、アマンディエ(フランス語でアーモンドのこと)をモチーフにしています。シンプルな形のなかに、手書きの文字を入れたセンスが光るデザインです。
直接的な表現ではなく、人びとに想像する余白を与えること。イメージとテキストに偶然の出会いをつくり、そこから生まれる新しい意味を発見すること。
こうした考えにより生まれる作品は、ポール・コックスの唯一無二の表現と言えるでしょう。
また、文字も手書きでデザインするこだわりも見どころのひとつです。あたたかみのある文字にも注目してみてください。
自由に動かせることができ、舞台装置のようにも見える参加型のインスタレーションも展示されます。
※本展では、動かすことができません。
展示風景 ローラースケープ イルフ童画館蔵
本作は、2015年にマルセイユのギャラリーで「遊び場」というタイトルで制作されました。その後同じものが再制作され、現在は長野県のイルフ童画館の所蔵となっています。
ポールは、バレエの舞台や衣装の演出の仕事、そして来場者が参加できるようなインスタレーションも行ってきました。
色鮮やかで、演劇的。鑑賞者が参加することができる。このローラースケープは、ポールならではの作品となっていますよ。
本展のために制作された新作2点も必見です。
巨大な風景画
縦3.2m、横6.8mの大作「レ・ボー=ド=プロヴァンスの庭」は、ポールの個人的な思い出がテーマの大きな作品です。
展示風景より左「レ・ボー=ド=プロヴァンスの庭」
枝垂れ柳の美しい庭は、実際にプロヴァンスのとある別荘に実在しており、ポールにとって特別な場所だそうです。紫と白の色は藤の花を描いています。
本作をよく見ると縦と横の線で構成されていますが、こうした一種の「制約」を課しながら、手探りで制作を試みるポール作品は数多く存在します。
何かを明確に描くのではなく、暗示的に表現することに関心を寄せているポール。シリーズによっては、膨大な数のバリエーションを制作することもあるそうです。
本展のためのえひらがな
参加型インスタレーション「えひらがな」は、来場者が楽しく遊ぶことができる展示です。
展示風景
100以上のひらがなを表すイラストを用いて、自由に言葉を綴ることができる本インスタレーション。
1996年より取り組んでいる、アルファベットを別のものに置き換えて表現する作品の、日本語版と言えます。
スフマート編集部も、言葉を並べてみました。なんと読むか分かりますか?
句点「、」や、濁音「゛」などはもちろん、よく使われるひらがなが多めに用意されていたりと、本格的な言葉遊びが楽しめます!
展示風景
ポール・コックスは日本でもさまざまな仕事を手がけています。その中でも注目したいのが絵本です。
絵本は1989年より邦訳が出版され、2020年から21年にかけては5冊もの新刊絵本が刊行(うち1冊は予定)、多様なスタイルで読者を楽しませてくれます。
展示風景
古事記を題材にした4冊のシリーズ「日本の神話えほん」は、制作にあたり、日本美術について徹底的にリサーチしています。たとえば、フランス語と英語で読める古事記の文献を丁寧に読んだり、日本美術の作品を大量に模写したりしたそうです。
こうした作業から生まれた「日本の神話えほん」では、横長の画面が用いており、絵巻物や、横に広がる歌舞伎の舞台などを想像することができます。
また、あえて浮世絵のような版ズレを表現したり、時代や地域が分からないような表現にすることで、どんな人でも読むことができる絵本となっています。
こちらの4冊は、実際に手を取って読むことができますよ!
本展図録もポール・コックスの想いがつまったものとなっています。
その名も「ポール・コックス ボックス」。展覧会を丸っと持ち帰る、というコンセプトで制作されました。
かわいらしい箱の中を開けてみると・・・
ポスター、ゲーム、写真、さらにはポール・コックスの版画のプレゼントなどがぎっしり!
もちろん、これまでの作家の歩みを知ることができるテキストも満載です。
この特別なアートブックは数量限定ですので、気になる方はチェックしてみてくださいね。
ポール・コックスの自由で軽快な表現にふれることができる本展。デザインがお好きな方や、小さいお子さんなど、幅広い層が楽しめること間違いなしです。
また、本展は撮影が可能です。遊び心の森に迷い込んだような一枚が撮れるかも? ぜひ記念に撮影してみてください。
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