風刺画/10分でわかるアート
2023年3月29日
ル・コルビュジエ―諸芸術の綜合 1930-1965/パナソニック汐留美術館
こんにちは! 美術館巡りが趣味のかおりです。
現代建築の巨匠といわれる建築家、ル・コルビュジエ。
彼には建築家として以外の顔があることをご存じですか?
建築という領域を超えて活動する、芸術家としてのル・コルビュジエの円熟期といわれる後半期の活動にせまる「ル・コルビュジエ―諸芸術の綜合 1930-1965」が、パナソニック汐留美術館で開幕しました。
ル・コルビュジエは、フランク・ロイド・ライト、ミース・ファン・デル・ローエとともに近代建築の三大巨匠として位置づけられ、モダニズム建築の巨匠と言われる人物です。
それまで石積みやレンガ積みが主流だった西洋建築界に、今では当たり前となった鉄筋コンクリートを利用したモダニズム建築を提唱したのです。
建築家として名高いル・コルビュジエですが、美術学校では彫刻や彫金を学び、画家としても活動していました。そこから建築の才能を見出され、建築家として知られるようになりますが、ル・コルビュジエには建築の枠を超えた「芸術家」としての姿があります。
私はこれまで、ル・コルビュジエに対して、モノトーンでシンプルなコンクリート建築のイメージを強く持っていました。しかし、本展を通して、建築の他にも絵画をはじめとする作品が数多くあること、色彩豊かな表現がなされていること、さらに現代を予見するような考察をしていたことを知り、とても驚きました。
それではここから展覧会のようすを見ていきましょう!
まず最初に目にするのは、貝。・・・貝?
そう、ル・コルビュジエ自身が集めたりした貝です。
ル・コルビュジエは、これらを「詩的反応を喚起するオブジェ」と呼び、自然のなかで偶然見つけたもの、特に貝殻、小石、流木などの海に関わるものを熱心に収集していたそうです。
時は1930年代。1929年の世界大恐慌の影響もあり、それまで興隆していた機械的なものや工業的なものへの興味関心が、だんだんと自然物へ移ってきた時代でした。
ル・コルビュジエも、1918年に「ピュリスム」という幾何学的で明快な構成を重視する主張をしていましたが、そこから次第に、自然物へも目が向けられ始めたのです。
下の写真の絵(左が《マッチ箱と二人の女》、右が《長椅子》。いずれもル・コルビュジエによるもの)も、描く対象が静物ではなく、女性という人物になっているのも、変化のひとつです。
第一章 展示風景
午前中に自宅で絵を描き、午後に建築事務所に出勤するというライフスタイルをとっていた時期もあるというル・コルビュジエは、建築と絵画にそれぞれ別の役割を見出していたようです。
このようにル・コルビュジエは、建築の仕事で手腕を発揮しながらも、領域にとらわれずに創作活動を行っていきます。
こちらはなんと、タペストリー! 3つ並んで展示されているタペストリーのうち、左はル・コルビュジエの友人で画家のフェルナン・レジェの作品。真ん中と右はル・コルビュジエの作品です。
大きなタペストリーに描かれる、鮮やかな色彩、なんだかたのしげな線!
見ているだけで気分が明るくなります。
真ん中の作品は《奇妙な鳥と牡牛》というタイトルなのですが、素人目にはどこが鳥でどこが牡牛なのかわかりません・・・!ここかな?と想像しながら見るのもたのしいです。
こんな大きなサイズのタペストリーをみていると、建築と絵画の境界線があいまいになるような感覚を抱きます。そしてタペストリーは絵画なのか?家具なのか?
第二章 展示風景
さらに彫刻作品もあります。
上の写真の右にあるのは、《イコン》という作品です。
彩色した木とスチール軸でできた彫刻なのですが、はっきりしていながらも温かみのある色合いであったり、角がとれた加工がされていたり、丸い部分も多かったりして、なんだか子ども向けのおもちゃみたいで、わくわくと遊び心がわきます。
ル・コルビュジエの建築は、シンプルで無機質、無彩色なイメージがあったので、建築以外の作品がこんなにも色鮮やかなのが意外でした。
さらに同時代の画家、抽象絵画の創始者といわれるカンディンスキーと並べて展示されます。
下の写真は、左がル・コルビュジエの《アコーディオンに合わせて踊る女性》、右がカンディンスキーの《全体》です。
どちらもはっきりとした色彩で、見ていると音楽が鳴っているように感じられるような絵画です。
そして絵画の集大成としてル・コルビュジエが制作した、連作《牡牛》シリーズのなかから3作品を、長椅子に座りながらじっくり見ることができます。
長椅子は、ル・コルビュジエとも協業してきたデザイナー、シャルロット・ペリアンによる《レフォロ》。私も座ってみたところ、ちょうどよい固さで座り心地のよいソファーでした!
本展の最後は、「やがてすべては海へと至る」と題し、最晩年にチャンディガール都市計画で構想された「知のミュージアム」の紹介や、ブリュッセル万博のフィリップス館で発表した映像インスタレーション《電子の詩》で締めくくられました。
1954年にインドから帰る飛行機の中で書かれたという論考「やがてすべては海へと至る」では、技術の発達によるグローバル化、情報化社会を予見する文章があります。
技術進歩が目覚ましく、2度の世界大戦を経験するなど、激動の時代を生きたル・コルビュジエ。そんな情勢のなかでも、変化にあわせて先見性を発揮しながら、建築と芸術に向き合い制作をする姿に、現代の私たちは、どう時代と芸術に向き合っていくかを考えさせられました。
現在、AIを始めとする技術の発展は、ル・コルビュジエの時代以上の変化をもたらしているようにも思えます。けれど、変化に臆せず自分の仕事をしていこうと、勇気をもらえる展覧会でした。
変化の目まぐるしい時代を生きたル・コルビュジエの芸術作品を目の前にして、これからの自分の生き方に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
それでは愉しいアートライフを!
* 本展は、ル・コルビュジエ財団の協力のもと開催されます