塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。
作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。
今回は、19世紀のイギリスを代表する風景画家「ウィリアム・ターナー」について詳しくご紹介。
「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。
ロンドンの下町にある理髪店の息子として生まれたウィリアム・ターナー(1775-1851)。ロマン主義の画家で、19世紀に活躍した風景画家のなかでは、もっとも創造的な画家だといわれています。
ターナーは、ロイヤル・アカデミー附属の美術学校に通いながら、美術愛好家の医師のもとで絵を描くアルバイトをするなど、早くから画業で稼いでいました。
24歳でロイヤル・アカデミー準会員、27歳で正会員になり、そして32歳で教授に任命。順調に出世していきます。
生涯を通じて歴史や宗教など、さまざまなテーマを持つ風景画を描き続けたターナー。感情のおもむくままに、大気と光、水などの流動的な自然を描くことがターナーの作品の特徴です。
そうした独特な画風で《戦艦テメレール号》をはじめとする数多くの名作を生み出しました。
ウィリアム・ターナー《戦艦テメレール号》1839年
本作に描かれている「テレメール号」は、ナポレオンのイギリス上陸を阻止したトラファルガーの海戦で活躍した戦艦です。ターナーはこの輝かしい歴史を持つ戦艦が、解体のために蒸気船のタグボードにひかれていく姿を描きました。
画面左の青白い船と画面右の夕日の赤とのコントラストが美しい本作。ただの海洋画というだけではなく、歴史のある戦艦の最期の寂しさのある雰囲気までも描写した見事な作品です。
ターナーは展覧会会場でそのまま自身の作品を手直しをすることで有名だったそうです。
ターナーと並び、イギリスの風景画家を代表するジョン・コンスタブルと一緒の展覧会に参加した際のユニークなエピソードも残されています。
コンスタンブルの作品が、自分より明るい色調で描かれているのを見たターナーは、大胆にも絵の真ん中に赤い絵の具をチューブでそのまま出してポンと置きます。
コンスタンブルも、ターナーのあまりにも大胆な行動にびっくり! 翌日、乾いた絵の具は赤いブイとなって表現されていたといいます。
ウィリアム・ターナー《ヘレヴーツリュイスから出航するユトレヒトシティ64号》1832年
晩年に向かうにつれて作品に描かれる場所の特定性は薄れ、心の中の風景を描くようになったターナー。
1851年12月19日に「私は無に帰る」という言葉を残し、チェルシーの小さな家で20歳年下のブース夫人に看取られて、ひっそりと息をひきとりました。享年76歳でした。
自然をカンバスにそのまま再現するのではなく、自然を形作るエネルギーを表現することに力を注いでいたターナー。 その独特な画風は、後世の画家たちにも大きな影響を与えました。
こうした功績から、ターナーは19世紀の風景画のなかでもっとも創造的な画家と評価されています。
また、ターナーは光と色彩で自然を表現しようとした点で、印象派の先駆けとも呼ばれています。
テート・ギャラリーが所蔵する《ノラム城、日の出》は、印象派を代表する画家、クロード・モネに大きな影響を与えました。モネはこの絵を見て《印象、日の出》を描いたといいます。
《ノラム城、日の出》を描いたときターナーは、「ひとつの印象を呼び起こすことが肝心なのです」という言葉を残しています。これは、印象派が誕生する約30~40年前の発言なのだそう。彼が印象派登場の準備を整えた人物であることがうかがえますね。
ターナーは、イギリスのテート美術館による現代美術のアーティストに授与する賞「ターナー賞」にその名前を残しています。
本賞は、50歳以下のイギリス人およびイギリス在住アーティストのなかから、過去1年間にイギリス現代芸術にもっとも大きく貢献をしたアーティストに与えられるものです。
ノミネート・アーティストは毎年春に発表。そして、その年の冬にテート美術館にて展示を行い、会期中に受賞者を発表します。
その授賞式はテレビ中継されるほか、芸能人も招待されるなど、美術業界だけでなく一般のイギリス国民も注目しているイベントなのだとか。
ターナー賞が設立された1984年当初のイギリス現代美術は、認知度とそのレベルにおいて、アメリカや他のヨーロッパの国々よりも遅れていたといいます。
本賞はイギリス現代美術の活性化と、テート・ギャラリーのコレクションの充実を目的としています。
19世紀イギリスを代表する風景画家、ウィリアム・ターナーについて詳しく紹介しました。
印象派の画家たちに大きな影響を与え、現代にまで名前を残すターナー。
彼は31年間、ロイヤル・アカデミーに在職していましたが、担当した講義はたったの12回だったそう。
しかも何を言っているのかサッパリわからないほど、講義中のターナーの声は小さく、生徒たちは困っていた、という人見知りな一面が分かるエピソードも残しています。
人前に出て何かを発表するよりは、自然の中で絵を描くことを好んでいたのでしょう。輝かしい賞の名前になるターナーの性格は、実はかなりシャイだったみたいですね。
次回は、18世紀から19世紀にかけて、ヨーロッパを中心に興った芸術上の思想である「ロマン主義」について詳しくご紹介します。お楽しみに!
【参考書籍】
・早坂優子『巨匠に教わる 絵画の見かた』株式会社視覚デザイン研究所 1996年
・早坂優子『鑑賞のための 西洋美術史入門』株式会社視覚デザイン研究所 2006年
・岡部昌幸 監修『西洋絵画のみかた』成美堂出版 2019年
・佐藤晃子『名画のすごさが見える 西洋絵画の鑑賞事典』株式会社長岡書店 2016年