
ハプスブルク家/10分でわかるアート
2024年12月18日
特別展「ミュシャ 謎の絵画」/堺 アルフォンス・ミュシャ館
アルフォンス・ミュシャ 《ジスモンダ》1895年 堺 アルフォンス・ミュシャ館蔵
19世紀末のアール・ヌーヴォー様式を代表する芸術家、アルフォンス・ミュシャ。
その作品は細部まで緻密に描かれた繊細な線と、美しい色彩が特徴です。
そんなミュシャ作品専門の美術館が大阪・堺にあります。
JR堺市駅からデッキ直結で徒歩3分の堺 アルフォンス・ミュシャ館にて、特別展「ミュシャ 謎の絵画」が開催されています。
堺 アルフォンス・ミュシャ館 ギャラリー外観
今、世間の注目を集める大阪・関西万博。
チェコ共和国のパビリオンでは、チェコ出身のミュシャが制作した彫刻が展示されていることも話題となっています。
万博でミュシャの作品が展示されるのは初めてではありません。遡ること125年前、1900年に開催されたパリ万博でも、ミュシャは数多くの作品を手掛けました。
ミュシャ館では、1900年パリ万博の関連作品も多数展示されています。
展示室は博覧会のパビリオンに見立てて飾られています
パリ万博でオーストリア館に展示されたリトグラフでは、「オーストリア」が頭に被るベールを、「パリ」がめくり上げる瞬間を描いています。
華々しい万博の幕開けを告げる、象徴的な作品です。
アルフォンス・ミュシャ 《1900年パリ万博 オーストリア館》1899年 OGATAコレクション蔵
今、大阪でミュシャを鑑賞できるのは万博会場だけではありません。
実は大阪・堺にある堺 アルフォンス・ミュシャ館は、世界有数のミュシャ・コレクションをもつ美術館なのです。
世界遺産にも指定される日本最大の古墳、仁徳天皇陵でも有名な堺。なぜこの地に、ミュシャを専門に扱う美術館が誕生したのでしょうか。
堺 アルフォンス・ミュシャ館 3階展示室エントランス
ミュシャ館の所蔵品の多くは、元は「カメラのドイ」として有名な株式会社ドイを創業した故・土井君雄氏が収集したコレクションでした。
約500点にのぼる氏のコレクションには油彩画の大作や下絵も含まれ、そのラインナップはミュシャの故郷チェコでも観られない貴重なものです。
アルフォンス・ミュシャ 《ハーモニー》1908年 堺 アルフォンス・ミュシャ館(堺市)蔵
コレクションは氏の没後、遺族によって、土居夫妻が新婚時代を過ごした地、堺市に寄贈(一部購入)されました。
こうして堺にアルフォンス・ミュシャ館が誕生したのです。
アルフォンス・ミュシャ 《女占い師》1917年 堺 アルフォンス・ミュシャ館(堺市)蔵
ミュシャ館では土居氏から受け継いだコレクションを中心として年に3回、テーマを変えながら企画展を開催しています。
現在開催されているのは、特別展「ミュシャ 謎の絵画」。
テーマとなる謎の絵画《クオ・ヴァディス》は1903年頃に描かれたもので、縦横とも2メートルを超える壮麗な油彩画の大作です。
アルフォンス・ミュシャ 《クオ・ヴァディス》1903-1904年(1920年加筆) 堺 アルフォンス・ミュシャ館(堺市)蔵
《クオ・ヴァディス》のモチーフとなったのは、ノーベル文学賞を受賞した作家ヘンリク・シェンキェヴィチによる同名の小説です。
ローマ帝国によって迫害された初期キリスト教徒について綴った重厚な歴史小説で、当時のパリでは舞台版も大ヒットをおさめました。
口づける少女を見つめる謎の男
この絵でミュシャが描いたのは、奴隷の少女エウニケが、密かに思いを寄せる主人ペトロニウスの石像に口づけるワンシーンでした。
原作の数ある名シーンからなぜこの場面を切り取ったのか。そして少女エウニケを背後から見つめる、原作小説には一切登場しない謎の男はいったい誰なのか。
《クオ・ヴァディス》制作当時のミュシャの手記や裁判記録も紐解く他、光学的分析なども使い、大作が残した謎にさまざまな角度から迫ります。
本展の目玉のひとつが、ミュシャ館がある堺の伝統技術、堺緞通(さかいだんつう)で再現された《クオ・ヴァディス》です。
実は115年前、《クオ・ヴァディス》を原画として絨毯を制作する話が持ち上がり、ミュシャも賛同しましたが、計画は頓挫してしまいます。その計画を現代で実現しようという試みです。
大阪刑務所 《堺緞通「クオ・ヴァディス」》2022-2024年 堺 アルフォンス・ミュシャ館蔵
堺緞通は、縦糸に横糸を結びつけて織り上げる手織りの敷物です。
江戸時代から始まって、隆盛のピークを迎えた明治時代には90もの業者が工場を営んだ、堺の花形産業でした。
緞通を制作したのは、同じ堺市にある大阪刑務所の受刑者たち。職業訓練の一環として、担い手の少なくなった堺緞通の技術を今に受け継いでいます。
堺緞通織機 大阪刑務所蔵
本展で初公開となる堺緞通の新作タペストリー。
細部まで緻密に描き込まれたミュシャの名画を、手織りの絨毯で再現する技術は圧巻です。
2名の織手によって丹念に織り上げられた緞通
展示を観終えた後はフォトスポットで写真撮影を楽しめます。
特におすすめは《クオ・ヴァディス》の登場人物になりきって写真が撮れるスポットです。
《クオ・ヴァディス》のフォトスポット
また、ミュージアムショップではミュシャの美しい作品をモチーフにしたオリジナルの文具や雑貨が販売されています。
自分用にはもちろん、贈り物にするにもピッタリです。
ミュージアムショップ風景
大阪・関西万博をきっかけに、遠方から足を運ぶ方も多いこの時期には、少し足をのばしてミュシャ館を訪れるのもいかがでしょうか。