
ルネサンス美術/10分でわかるアート
2021年11月2日
横尾忠則の肉体派宣言展/横尾忠則現代美術館
「横尾忠則の肉体派宣言展」が、横尾忠則現代美術館で開催中です。
今回の展覧会は、横尾忠則が表現する「肉体」に焦点を当てたもの。
理性や思考を手放し、体の赴くままに筆をふるう横尾作品を通して、あらゆる角度から肉体と向き合う構成となっています。
最終章の「肉体を超えて」いく世界には、いったい何が待ち受けているのか―。頭で難しく考えるのはやめて、横尾の自由な創造の世界を体感しましょう!
「横尾忠則の肉体派宣言展」展示風景
“肉体が赴くままに” 創造することを重視する横尾。
本展は、そんな横尾の身体性を大きく反映した表現主義的な技法や、横尾流朦朧体を用いた作品などが制作年を問わずランダムに展示されています。
横尾忠則《Lisa Lyon in Izukogen, March 23, 1984(No.2)》1984年 横尾忠則現代美術館
本展の鮮やかなポスターは、グラフィックデザイナーでもある横尾自身が、作品を大胆にトリミングしたものを使用しているそう。
横尾と数多くのコラボ作品を生み出しているアメリカ出身のボディビルダー、リサ・ライオンの性別を超えた肉体美が目を引きます。
「横尾忠則の肉体派宣言展」展示風景
幼少期、「ターザン」に憧れていたという横尾。その体験が、肉体美を追求し続ける創造の源泉となっているのかもしれませんね。
「横尾忠則の肉体派宣言展」展示風景
本展は、会場2Fの第1章「描く肉体」からスタート。足を踏み入れると、四方八方からアップテンポな音楽が聴こえてきます。
オリビア・ニュートン=ジョンの「Physical」や、運動会を連想させる「天国と地獄」、「ラジオ体操第二」といった楽曲が混ざり合い、まさにカオスな空間が完成。
チカチカと発光する電飾や布などのアイテムを取り入れた作品は、どれも横尾の体の動きが伝わってくるものばかりです。
「横尾忠則の肉体派宣言展」展示風景
本章では、公開制作時の動画とその作品もあわせて展示されています。横尾がどんな風に体を使って描いているのかがよく分かりますよ。
そのほか、大胆な筆の動きや、背丈よりも大きなカンヴァスと格闘したような痕跡が残るものも。
光と音が交錯する空間で、ぜひ「体で作品を観る」感覚を楽しんでみてくださいね。
「横尾忠則の肉体派宣言展」展示風景
横尾は「画家宣言」以降、体当たりで制作に取り組んできました。その中で、難聴や腱鞘炎で思うように筆がふるえなくなったこともあったそう。
コロナ禍の2021年に制作した《三人の愚者》は、そうした逆境も前向きに受け入れて生まれた、横尾流朦朧体の技法が生き生きと表れています。
「横尾忠則の肉体派宣言展」展示風景
続く第2章「描かれる肉体」では、ぐるりと囲まれるように並んだ大作たちがお出迎え。注目したいのは、作品の中の“描かれる側” の肉体です。
さまざまな登場人物が集う中、ポスター作品のモデルでもあるリサ・ライオンの「理想的な人体」は、横尾にとって重要な被写体だったのでしょう。
「横尾忠則の肉体派宣言展」展示風景
《バリ島奇譚》(1995年)や《水+火=血》(1992年)では、体があるからこその痛みや苦しみに着目。一方で、湯屋のようすを描いた浮世絵風の《和楽》(2004年)といった楽しげな作品も。
ユニークな切り口で描かれる被写体としての肉体にも注目です。
「横尾忠則の肉体派宣言展」展示風景
本展は建物の2Fから順に、3F、4Fへと章が進みます。“裏テーマ” として横尾が好きなダンテの「神曲」にたとえるなら、カオスに満ちた第1章が「地獄」。
本章は、霊魂が浄化され、天国へと向かう前の審判を待つ「煉獄」に相当するのでしょうか。
「横尾忠則の肉体派宣言展」展示風景
最終章のテーマは、「肉体を超えて」。
横尾のY字路シリーズの中でもとくに異彩を放つ《黒いY字路》の作品が、黒一色に包まれた空間の中で、まるで浮かび上がるように展示されています。
「横尾忠則の肉体派宣言展」展示風景
カオスな地獄と煉獄をたどり、ここへ来て突如として消えた肉体。最上階に位置するこの場所は、肉体が消えた先の「天国」なのでしょうか。
それまでの混沌さから一変し、なんだか心細いような、不思議な感覚に包まれます。
「横尾忠則の肉体派宣言展」展示風景
唯一存在するのは、自分自身の体だけ。「描く肉体」「描かれる肉体」を経て、ここで初めて、鑑賞者の意識は自らの肉体へと向かうのかもしれません。
そんな最終章で体感する肉体への意識変化にも、ぜひ注目してください。
筆のゆらぎ、体の衝動、そしてカオスな展示空間。最初から最後まで、横尾流・肉体派アートの世界観に浸ることができました。
本展は「瀬戸芸美術館連携」プロジェクトの一環として開催されています。
大阪・関西万博の会期と重なる今だからこそ、言語を超えて伝わる“肉体感覚”の魅力を、ぜひ会場で体感してみてはいかがでしょうか。