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2025年7月25日
住友洋画コレクション―フランスと日本近代絵画名品選/横須賀美術館
展示風景 左・クロード・モネ《モンソー公園》1876 年、右・クロード・モネ《サン=シメオン農場の道》1864 年 いずれも泉屋博古館東京蔵
「住友洋画コレクション―フランスと日本近代絵画名品選」が横須賀美術館で7月5日から8月31日まで開催中です。
本展は住友家の美術コレクションを保存・公開する東京都港区の泉屋博古館東京が所蔵するモネやローランス、鹿子木孟郎や岸田劉生など日仏の近代洋画約80点を展示、愛媛県の新居浜市美術館と横須賀美術館の2館を巡回しています。
開催前日の内覧会のようすを、横須賀市内にある住友重機械工業の造船所跡「浦賀ドック」を紹介した、同時開催の「浦賀と住友重機械工業」展とともにご紹介します。
クロード・モネ《モンソー公園》1876 年 いずれも泉屋博古館東京蔵 トップ画像に登場した、モネの《モンソー公園》は、住友洋画コレクションを代表する作品
住友洋画コレクションは住友家の当主らが集めた美術コレクションで、泉屋博古館(せんおくはくこかん)東京が保存しています。住友家の江戸時代の屋号「泉屋」にちなんだ施設名だそうです。
15代当主・住友吉左衞門友純(春翠・しゅんすい)が収集を始め、息子の寛一、友成両名が引き継ぎました。
中でも重要な作品はモネの風景画2点です。横須賀美術館・日野原学芸員によると、第一次世界大戦前の日本に存在したモネの作品4点の内の2点に相当するそうです。
日本に持ち込まれたモネ作品では最初期の物と言えます。春翠が1897年の欧米視察旅行の時に購入し、住友洋画コレクションのきっかけとなった作品です。
当時の日本は明治政府が欧化政策を進めていた時代でした。春翠も欧米のライフスタイルを積極的に取り入れ、日本の近代化を後押しする意図を持って美術品の収集を行ったようです。
単なる個人の趣味というよりは、使命感を伴った活動だったことがうかがえます。
ジャン=ポール・ローランス《マルソー将軍の遺体の前のオーストリアの参謀たち》1877年 泉屋博古館東京蔵 210×300cmの大作
写真は、19世紀末のパリで歴史画の第一人者だったローランスの代表作です。
住友家が留学を支援していた洋画家・鹿子木孟郎の仲介で購入されました。春翠は鹿子木のパリ留学を支援する代わりに絵画の買い付けを依頼しています。
鹿子木はパリでローランスに師事した人物で、春翠の収集活動に貢献しました。
鹿子木孟郎《加茂の競馬》1913年 泉屋博古館東京寄託 こちらも150×210cmの大きな作品
こちらは鹿子木の帰国後の作品で、京都にある上賀茂神社の神事のようすを描いています。近くで観ると、白装束に反射する初夏の日射しが眩しいと感じるほどリアルで、暑い日だったことが伝わってきます。
鹿子木はローランスの下で古典的なフランス・アカデミズム絵画を学びました。
展示室1 展示風景 右手前の2点がモネの作品
展示は6章で構成、第4章には岸田劉生と交流があった、長男の寛一によるコレクション。
第5章には寛一の弟、友成の収集によるルオー、ブラマンク、シャガール、ピカソ、梅原龍三郎などの作品が観られます。
浅井忠《グレーの森》1901年 泉屋博古館東京蔵 第2章「明治美術会と太平洋画会の画家たち」より。本作品は8月3日で展示終了とのこと
前出の日野原学芸員によると、コレクションは重要な作家の作品をリアルタイムで購入し、異なる作品傾向の物をコンパクトに収めています。
住友家の須磨別邸に飾られることを想定して集められたため、比較的サイズの小さい、具象的で穏やかな作品が多いことも特徴だそうです。
「大画面の歴史画から、日本に最初期にもたらされたモネの作品など貴重な作品を展示しています。ぜひ夏休みに横須賀美術館でご覧ください」と、見どころを教えてくれました。
船の進水式で出席者に配布された記念はがき。写真は戦後に造られた船の物
続いて、同時開催の「浦賀と住友重機械工業」展です。
浦賀ドックは日本に唯一現存するレンガ造りのドライドック(船の水を抜いて作業できる施設)です。2021年に住友重機械工業株式会社から横須賀市に寄付されました。
浦賀の造船には、ペリー来港まで遡る歴史があります。本展では、浦賀ドックと造船の歴史を、進水式の絵はがきや図面、写真パネルなどの資料ととともに紹介しています。
本展の担当・中村学芸員は「歴史はもちろん、絵はがきのデザインも楽しんでいただけたら」と話します。
浮世絵のような波や外国の景色など、どれもバラエティーに富んだデザインです。エンボス加工なども施された絵はがきからは、進水式の高揚感が伝わってくるようでした。
最初期に日本に入ってきたモネの絵画4点の内、2点は冒頭で紹介した住友コレクションですが、美術商の林忠正が所蔵していた残りの2点は散逸しました。
住友洋画コレクション自体も、戦火で多数消失しています。春翠がモネの2点を購入したのは1897年ですから、住友家や団体の手で120年以上管理し続けていることになりますが、話を聞いて思いを巡らせたのは、コレクションを長期間維持する大変さについてです。
少子高齢化で景気の停滞感も漂う中、企業の文化支援を一般の私たちも積極的に支持し、作品の散逸を防ぐ必要性を感じた展覧会でした。