Ukiyo-e 猫百科 ごろごろまるまるネコづくし/そごう美術館

化け猫からおもちゃ絵まで~猫にまつわる浮世絵147点【そごう美術館】

2025年8月5日

化け猫からおもちゃ絵まで~猫にまつわる浮世絵120点【そごう美術館】

「Ukiyo-e 猫百科 ごろごろまるまるネコづくし」が、横浜のそごう美術館で7月19日から9月2日まで開催中です。

コンセプトは“猫に注目した浮世絵入門”。猫と人の暮らしを表情豊かに描いた浮世絵は昔の風俗がよく分かり、歴史の学習資料としても最適です。

子ども用の解説パネルや小冊子もあり、買い物ついでに親子で楽しめる内容となっています。前日の内覧会のようすをレポートします。

かわいいだけじゃニャい 真の姿は肉食のハンター


小林清親《八方白眼猫》1889年 個人蔵
本来、猫は狩猟動物なのだと気付かされる

本展は4章構成。第1章「猫の姿」では、毛繕いする姿やネズミを狙うようすなど、猫本来の野性的な姿を中心に紹介。

生き物としての猫の動きがよくわかる作品が集まっています。


入り口にある、作品をかるたにした大型パネル「猫いろは」

会場入り口に、展示作品をかるたに仕立てた大型パネルがあります。

場内には所々、1作品につき1枚で、猫にまつわるキャプションがかるたの形で表示されています。入り口のパネルで、全て札が観られるわけですね。


それぞれの作品に対応した「かるたパネル」が作品と一緒に掲示されている


「い」の解説パネル。さらに子ども用の分かりやすいキャプションも併せて掲示するなど、親子で浮世絵を楽しめる趣向が凝らされている
作品は歌川広重《名所江戸百景 浅草田園酉の町詣》1857年 渡邊木版美術画舗所蔵

今も昔も変わらない「猫あるある」な姿


鈴木春信《水仙花》1768頃 個人蔵
錦絵の祖と言われる鈴木春信の、花にちなんだ和歌を添えたシリーズの一点

写真は江戸時代中期の浮世絵師、鈴木春信の作品。男女が向き合ってこたつに入り、女性は男性の足をくすぐっています。

ふざけ合う男女の間で、猫が素知らぬ顔で丸くなっている、ユーモラスな日常の風景を描いています。

第2章「猫と暮らせば」は、本展でもっとも展示数の多い章。日常でよく見かける猫の姿を描いた作品を集めた展示です。

人と戯れたり、転がっておなかを見せたりと、おなじみの可愛らしいしぐさが観られます。

夏の怪談は国芳の化け猫で


歌川国芳《五拾三之内 岡崎の場》1835年 個人蔵
歌舞伎の怪談話「独道中五十三駅」の化け猫騒動を描いた作品


歌川国芳《猫の当字 なまづ》1842年頃 個人蔵
猫でもやっていた

第三章「猫七変化」では、怪談をイメージした化け猫や歌舞伎役者の姿をした猫など、変化をテーマにさまざまな猫が登場します。

幕末の浮世絵師、歌川国芳は無類の猫好きで知られ、常に数匹の猫を飼い、懐に子猫を抱いていたと伝えられています。

国芳といえば人間をジグソーパズルのように組み合わせた戯画が有名ですが、上写真《猫の当字 なまづ》はその猫バージョン。

猫を組み合わせて魚の名前を描いたシリーズの一つで、写真の作品は「なまづ」の文字になっています。


歌川国芳の《其まゝ地口 猫飼好五十三疋》に登場する猫を並べたパネル

歌川国芳の《其まゝ地口 猫飼好五十三疋》は、東海道五十三次、ならぬ五十三疋(ひき)。東海道五十三次各地の地名を猫で表現した作品です。

本展では作品に登場する猫55匹が1匹ずつ、場内の各所に掲示されています。


旅の起点「日本橋」は、猫が2本のかつお節を取り出す「二本だし」と洒落を効かせている


同じ猫の絵が、場内のどこかに掲示されている

「おもちゃ絵」で遊んでいた幕末の子どもたち


歌川芳藤《志ん板猫尽両めん合》1859~75年 個人蔵
絵を切り抜いて、竹の棒に貼った状態の物

最終章となる第4章は、おもちゃ絵に登場する猫たちです。

おもちゃ絵というのは、幕末から明治前前半にかけて流行した浮世絵で、紙のおもちゃとして子どもや大人も楽しんでいました。

切り貼りして遊べるものや、漫画のように絵と文字で当時の風俗を学べる版画などがあります。

写真は「両面絵」と呼ばれるおもちゃ絵を切り抜いて、竹の棒に貼ったおもちゃです。

同じ猫が左右鏡合わせに描いてあり、子どもたちが切り抜いて貼り合わせるようになっています。何だか子ども雑誌の付録のようですね。

そごう美術館の三橋学芸員は、「浮世絵というと難しい印象を受ける方もいらっしゃると思いますが、猫を探しながら、どの猫が好きかなという視点で浮世絵という芸術に親しんでもらえたら」と話します。

生き生きと描かれた猫たちの浮世絵からは、彼らが自由気ままに過ごし、人びとに愛されていたようすが伝わってきます。

おもちゃ絵に描かれた、人間そっくりな猫たちの表情には江戸っ子の洒落や遊び心が満載で、思わず吹き出してしまった作品も。

猫好きの方はもちろん、初めて浮世絵を観る方の気軽な入門にもおすすめの展覧会です。

Exhibition Information