風刺画/10分でわかるアート
2023年3月29日
ミロ展―日本を夢みて/Bunkamura ザ・ミュージアム
スペインを代表する芸術家、ジュアン・ミロ(1893-1983)。ミロは、パブロ・ピカソと並ぶ現代スペインの巨匠として日本でも広くその名は知られていますが、彼の創作活動の裏側には豊富な日本文化の知識があったことは意外と知られていません。
ミロ展―日本を夢見て 展示風景より
そんなミロと日本の関係について紹介する展覧会「ミロ展―日本を夢みて」が、Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中です。
本展では、日本への憧れを象徴する初期作品から代表作、そして日本で初めて展示されたミロ作品を展示。さらに本人のアトリエにあった日本の民芸品や批評家の瀧口修造との交流を示す資料など、約130点の展示品でミロについて新たな角度から紹介します。
※展覧会詳細はこちら
1893年、スペインのカタルーニャ地方の都市バルセロナに生まれたミロ。彼が生まれたときのヨーロッパは、1888年に開かれた万国博覧会によるジャポニスム・ブーム真っ只中でした。
ミロの生家の近くにも日本美術の輸入販売店があり、彼が初めて個展を開いたダルマウ画廊でも日本美術の展覧会がたびたび開催されていたといいます。
そうした環境で育ったミロは、早くから日本文化へあこがれや興味を示していたそうです。
(左から)ジュアン・ミロ《アンリク・クリストフル・リカルの肖像》1917年 ニューヨーク美術館蔵/作者不詳《ちりめん絵》制作不詳 サビーン・アルマンゴル氏、アルマンゴル=ジュニェン・コレクション
ミロの日本好きがわかる作品のひとつである《アンリク・クリストフル・リカルの肖像》は、画家で日本美術のコレクターでもあった友人リカルを描いたものです。肖像の背景にある浮世絵は、実物を切ってコラージュしているのだそう!
本作は、ミロと日本とのつながりを示す作品としても知られています。本展では、こうした日本への興味をうかがわせるミロの初期作品も多数展示されています。
ミロは美術学校で学んだのち、カタルーニャ地方の小さな村モンロッチとバルセロナを行き来しながら、画家としての人生を歩み始めました。
故郷の風土に根差した生命力あふれる作品を制作する一方で、さらなる飛躍を目指し、1920年に芸術の都パリに出て、独自の表現を模索します。
パリでミロは、一般的には画材として使用しない素材を効果的に使うなど「素材との対話」を深める一方、絵を「描くこと」と文字を「書くこと」を同じようにとらえるようになります。そして、絵画と文字の融合を追求し始めました。
(左から)ジュアン・ミロ《ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子》1945年 福岡市美術館/ジュアン・ミロ《絵画(カタツムリ、女、花、星)》1934年 国立ソフィア王妃芸術センター
《絵画(カタツムリ、女、花、星)》(写真右)は、ミロの絵画と文字による独自の表現の代表作として知られています。
絵の中には、カタツムリ(escargot)、女(femme)、花(fleur)、星(étoile)の4つのフランス語が隠れています。どれもミロがよく描いたモチーフなのだそう。会場で4つのフランス語を探してみてはいかがでしょうか。
本作は、56年ぶりに来日を果たした貴重な作品です。お見逃しなく!
1940年の夏以来、スペインの独裁者であったフランシスコ・フランコの政権の監視下から逃れるために、妻の故郷であるマジョルカ島パルマでひっそりと生活をしていたミロ。彼が故郷のバルセロナに戻ってきたのは、1942年の秋でした。
その年のバルセロナでは、美術学校時代の旧友である陶芸家ジュゼップ・リュレンス・イ・アルティガスのやきもの展が、開催されていました。
早くから中国や日本のやきものに深い関心を寄せ、1920年代にはすでに陶芸家として活躍していたアルティガス。
ミロはそんな旧友の仕事に魅了され、彼にやきものづくりの相談を持ち掛けるようになります。そして2人は共同制作として、やきものづくりを始めました。
(左から)ジュゼップ・リュレンス・イ・アルティガス、ジュアン・ミロ《花瓶》1946年/ジュゼップ・リュレンス・イ・アルティガス、ジュアン・ミロ《花瓶》1963年 いずれも、個人蔵
当初は、アルティガスのやきものにミロが絵付けをするだけでしたが、やがて2人の共同作業は互いの持ち味を引き出しあう唯一無二の作品へと進化しました。
《花瓶》(写真右)は、ミロの絵画を思わせる人物や鳥のモチーフはなく、代わりに複数の釉薬(ゆうやく)が偶然生み出す色の変化や、落ち葉などの自然物を作品に転写する実験のようすが観られます。
本展では、ミロとアルティガスが共同制作した陶器4点も展示します。
ミロ展―日本を夢見て 展示風景より
ミロのアトリエには、さまざまな日本の民芸品などが飾られていたそうです。
ミロが制作時に使っていた刷毛(はけ)やたわしなどから、彼が日本のことを深く愛していた姿が想像できます。
こうしたミロ旧蔵の日本コレクションが、本展では数十年ぶりに里帰り! 没後初めての公開となります。
スペインを代表する画家ジュアン・ミロと、日本の関係性をひも解く本展。
展示作品のいたるところに、日本をイメージさせるモチーフが描かれているのを観ると、改めて彼が本当に日本を愛していたことがよくわかりました。
ぜひ会場に足を運び、作品からミロの日本に対する想いを感じ取ってみてください。
なお、会期中すべての土日祝および4月11日~17日は、事前にオンラインによる入場日時予約が必要です。詳しくは展覧会公式サイトをご確認ください。