2022年5月9日

エリック・カールとちひろ美術館の関係を紹介。6月19日まで開催中

エリック・カールとアメリカの絵本画家たち/ちひろ美術館・東京

「子ども」をテーマにさまざまな絵画作品の残した画家、いわさきちひろ。西武新宿線「上井草駅」から徒歩7分に位置するちひろ美術館・東京は、ちひろの自宅兼アトリエ跡地に建つ世界初の絵本美術館です。

閑静な住宅街に建つ同館は、ちひろと世界の絵本画家の作品を紹介する展示室のほか、ちひろの復元アトリエや彼女が愛した草花が咲く「ちひろの庭」などがあり、子どもが人生で初めて訪れる「ファーストミュージアム」として親しみやすい工夫がなされています。

スフマート Sfumart 取材レポート エリック・カールとアメリカの絵本画家たち ちひろ美術館・東京 絵本美術館ちひろ美術館・東京では、2021年5月に亡くなった絵本画家、エリック・カールとアメリカの絵本画家たちを紹介する展覧会が開催中です。

本展では、ちひろ美術館とエリック・カールの関係を紹介しつつ、展示後半では同館のコレクションから、アメリカでもっとも優れた絵本に与えられるコールデコット賞を受賞した絵本画家たちの作品を展示します。

※展覧会詳細はこちら

絵本『はらぺこあおむし』の作者、エリック・カール

1929年、エリック・カールはニューヨーク州に移住していたドイツ人移民の両親のもとに生まれました。その後、1935年にカールは家族とともにドイツに渡り、そこで絵を学びます。

ごく短い期間でしたが、カールはアメリカの小学校にも通っていたようで、アメリカの小学校については、太陽の光にあふれた明るい部屋で、色とりどりの絵の具と自由でカラフルな印象であるのに対し、ドイツの学校は狭い部屋と固いえんぴつ、厳しい指導であったとそれぞれの学校を比較する言葉を残しています。

スフマート Sfumart 取材レポート エリック・カールとアメリカの絵本画家たち ちひろ美術館・東京 絵本美術館
展示風景

アメリカで幼少期を過ごし育まれた感性は、その後色彩豊かな絵本作品を数多く生み出したカールに影響を与えたと考えられています。

本展では、惜しくも2021年5月に91歳で亡くなったカールの人生を振り返るとともに、ちひろ美術館とカールの関係についても紹介します。

スフマート Sfumart 取材レポート エリック・カールとアメリカの絵本画家たち ちひろ美術館・東京 絵本美術館
展示風景より右 エリック・カール「おんどり」1985年 ちひろ美術館蔵 Eric Carle, Rooster. Collection of The Chihiro Art Museum.
© 1985 by Penguin Random House LLC.

「おんどり」は、ちひろ美術館世界の絵本画家コレクション第1号の作品です。

1985年、カールは日本を初めて訪れました。その時、ちひろの一人息子である松本猛氏から、絵本を芸術表現の1つのジャンルと位置づけ、絵本原画を美術作品として収集、保存、研究、公開する場であるちひろ美術館のビジョンを聞きます。

松本氏の考えを聞いたカールは「それは素晴らしい、ぼくの作品を寄贈しよう」と言い、数日後に「ちひろ美術館へ愛をこめて」というメッセージとともに本作が美術館に届いたのだそうです。

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(左)エリック・カール『できるかな? あたまからつまさきまで』(習作)1996年 ちひろ美術館蔵、Eric Carle, Study for From Head to Toe. Collection of The Chihiro Art Museum. ©by Penguin Random House LLC.
(右)エリック・カール『おほしさまかいて!』より 1992年 エリック・カール絵本美術館蔵、Illustration for Draw Me a Star. Collection of Eric and Barbara Carle, courtesy of The Eric Carle Museum of Picture Book Art. © 1992 Penguin Random House.

同館のほかにも、日本各地の絵本美術館を視察したカール。2002年、アメリカ・マサチューセッツ州にエリック・カール絵本美術館を創設しました。本展では同館所蔵作品の複製画もあわせて展示しています。

同館のコレクションからアメリカ人絵本画家の作品も展示

エリック・カールの展示のとなりでは、コールデコット賞を受賞したアメリカ人絵本画家たちの作品を紹介しています。

コールデコット賞とは、アメリカで出版されたもっとも優れた子ども向けの絵本に与えられる賞で、1938年アメリカ図書館協会が創設しました。賞の名前は19世紀のイギリスの挿絵画家ランドルフ・コールデコットにちなみ付けられたといいます。

アメリカの絵本賞の名前にイギリス人の画家? と思う方も多いのではないでしょうか。少しコールデコットについてもご紹介します。

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ランドルフ・コールデコット《自画像》

26歳で本格的に挿絵画家として活躍し始めたコールデコットは、トイブックという19世紀後半にイギリスで大量に出版された、木口木版(*)で印刷された絵本の制作を開始します。その絵本は、19世紀末には87万部近く売られ、国際的にも名前が知られるようになりました。

彼の絵本は20世紀初頭のアメリカにも輸入されます。当時の子どもたちは、コールデコットのマザーグースの絵本などを読んで育ったのだとか! 彼のように優れた画家の輩出を応援するために、アメリカでコールデコットの名前を冠した賞が創設されたのです。

*木口木版(こぐちもくはん):木を輪切りに切り出し、その硬い表面を版木として使用する木版画技法のひとつ。18世紀の終わりにイギリスで生まれた技法で、西洋木版とも呼ばれています。

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展示風景より左 アーノルド・ローベル『ふたりはいっしょ』のイメージ 1981年 ちひろ美術館蔵

ここでは、コールデコット賞を受賞したアメリカの絵本を代表する画家たちの作品を展示。日本でもよく知られているアーノルド・ローベル『ふたりはいっしょ』や、絵本『かいじゅうたちのいるところ』の作者モーリス・センダックの初期作品など、個性豊かな作品を紹介しています。

スフマート Sfumart 取材レポート エリック・カールとアメリカの絵本画家たち ちひろ美術館・東京 絵本美術館
(左から)モーリス・センダック「うさぎさんてつだってほしいの」(習作)1962年頃/モーリス・センダック「シャーロットとしろいうま」(習作)1955年頃 いずれも、ちひろ美術館蔵

ちひろの幼い日の思い出をテーマとした展示も同時開催中

展示室1・3・4では、「幼い日に見た夢 いわさきちひろ展」も開催中です。

ここでは、ちひろの幼少期に焦点をあて、彼女が子ども時代に親しんだ童画とそこから受けた影響、さらにちひろの幼い日の思い出をテーマとした絵本を紹介します。

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展示風景

日本の伝統的な水墨画の技法にも通じる、にじみやぼかしを生かしたちひろ特有の水彩画の作品が並ぶなか、ひときわ目を引くのは、20世紀前半のフランスで活躍した女性画家マリー・ローランサンの作品です。

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マリー・ローランサン《ブリジット・スールデルの肖像》1923年頃 ちひろ美術館蔵

1936年、詩人・フランス文学者の堀口大學による『マリイ・ロオランサン詩畫集』(昭森社)が刊行されます。ちひろはこのとき女学校を卒業したばかりの17歳。「朱葉会女子洋画展」に最年少で入選し、画家になる夢をふくらませ、絵を学んでいたころでした。

ちひろは堀口の『マリイ・ロオランサン詩畫集』も手に取り、愛読していたのではないでしょうか。ローランサンのやわらかな画風はもちろん、まだ女性の社会進出が難しい時代に女性画家として自立していた彼女自身に、ちひろは強いあこがれを持っていたと考えられています。

ちひろにとってあこがれの女性であったローランサン。戦災で焼失した中野の自宅にには、ローランサンの複製画が飾られていた記録もあります。

展示室1・3・4にて開催中の本展も、「エリック・カールとアメリカの絵本画家たち」展とあわせてお楽しみください。

 

ちひろ美術館・東京で、6月19日まで開催中の2つの展覧会の見どころについてご紹介しました。

館内には図書室もあり、展示されている絵本を実際に手に取って読むこともできますよ。

スフマート Sfumart 取材レポート エリック・カールとアメリカの絵本画家たち ちひろ美術館・東京 絵本美術館

暖かい日も続きお出かけしやすくなったこの季節に、世界の絵本に会える同館へ家族で訪れてみてはいかがでしょうか。

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