風刺画/10分でわかるアート
2023年3月29日
雰囲気のかたち/うらわ美術館
うらわ美術館にて、「雰囲気のかたち―見えないもの、形のないもの、そしてここにあるもの」が、2023年1月15日まで開催中です。
展示風景
本展では、国内の近現代の絵画や彫刻、ドローイング、映像、写真などから、はっきりと見えないもの、時間の経過とともに変わる不定形なものなどを表現した作品を紹介します。
各ジャンルの美術家たちが「見えないもの」に対して、どのような視線を向け、そしてそれをどのように表現したのか探る展覧会です。
「雰囲気」と聞いて、皆さんはどのようなものを思い浮かべますか?その場の空気感や人との関係性、または空間そのものを雰囲気と表現するかと思います。
本展はそうしたはっきりと目で捉えることのできないもの、時間の移り変わりとともに消えたり、現れたりする不定形のものなどを、さまざまなジャンルの美術家たちの視点から迫る展覧会です。
若林奮《犬から出る水蒸気》1968年 神奈川県立近代美術館蔵
この展覧会開催の経緯について、副担当学芸員に聞いてみました。
うらわ美術館では2015年から2016年にかけて、戦後日本を代表する彫刻家の若林奮の展覧会「若林奮 飛葉と振動」を開催しました。
鉄などを使った重厚な作品を多く制作する作家として知られていた若林。この展覧会では、ドローイングや本展のメインビジュアルにも使用されている《雰囲気》など、新たな若林の一面を紹介する作品が展示されました。
若林奮《雰囲気》1980-2000年 WAKABAYASHI STUDIO
この展覧会は、若林のそれらの作品がきっかけのひとつとなっています。そして、他のいくつかのきっかけがあり、国内の近現代の絵画や彫刻、映像、写真、インスタレーション作品などの多種多様な作品から美術の本質に迫る展覧会である「雰囲気のかたち」の開催が計画されました。
展示風景
美術家たちの豊かな感性と創造力で「かたち」となった雰囲気に注目する本展。明治期の日本画、大正期の写真から現代のインスタレーション作品まで、本展のテーマのもとに幅広い世代の多様なジャンルが一堂に揃う貴重な展覧会です。
本展副担当学芸員に、オススメの作品を聞いてみました!それがこちらの横山大観《菜の花歌意》です。
(写真右)横山大観《菜の花歌意》1900年 個人蔵
横山大観《菜の花歌意》1900年 個人蔵
横山大観・菱田春草らが明治後半期に試みた日本画の技法である朦朧体(もうろうたい)。
東京藝術大学の創始者として知られる岡倉天心が発した「空気を描く方法はないだろうか」という問いを応える形で、大観たちが生み出した日本画の新しい表現です。
本作は上方唄の「菜の葉」を題材に描いた大観による朦朧体の初期作です。菜の花を芸者に、画面右の白い蝶を芸者が恋心を寄せる人に見立てています。
恋しい人を待つ芸者の思いを、柔らかな光と穏やかな空気に包まれた春の景色に託している本作は、上方唄「菜の葉」の雰囲気とピッタリなのだそう。YouTubeなどで「菜の葉」を視聴して本作を改めて観ると、作品の雰囲気もがらりと変わってみえますよ◎
本展では、河口龍夫と福田尚代の未発表の新作も展示します。
河口龍夫《行方不明の時間》シリーズ 2022年 作家蔵
(手前)福田尚代《本の粒子》2021-2022年/(奥)福田尚代《本の微粒子》2021-2022年 いずれも、作家蔵
現在、美術家として活躍する福田尚代は消しゴムやえんぴつ、原稿用紙、本、ハンカチといった身近にあるものを素材として制作を行っています。
本展初公開となる新作《本の粒子》《本の微粒子》は、文庫本のページをちぎり、溶かして小さく丸めた作品と、文庫本をおろし金ですりおろした作品です。
どちらも作家が長い間大切にした本を作品に使用しているのだそう。言葉を載せていた本が、作家の手によって小さな粒になっていく・・・本として二度と読むことができないのに、粒子となった本からまた新しい物語が見えてくるような不思議な作品です。
幅広い世代、多様なジャンルで「雰囲気」のかたちを紹介する本展。本展では、自分が共感する作品を1点だけ撮影することが可能です(撮影禁止作品は除く)。
編集部は、こちらの作品をチョイス。
井出傅次郎《(朝もやの中の人々)》1920年 東京都写真美術館蔵
一見すると、絵画のようにも見えますが本作は写真作品です。会場内で観た時は水彩画のような繊細な滲みを感じていたのですが・・・こうして写真に撮ってみるとまた雰囲気が変わります。
作品を観る場所や媒体によっても雰囲気が変わるものも、本展を二度楽しめる要素なのかもしれません。
皆さんも、自分が思う「雰囲気のかたち」に近い作品を1点選び、展示を楽しんでみては?
なお、撮影の際は係の方の指示に従って周りの方にも迷惑にならないようご注意ください。