蜷川実花展 ─虚構と現実の間に─/上野の森美術館

多彩な活動をするアーティスト・蜷川実花。集大成の展覧会が東京へ

2021年9月25日

蜷川実花展―虚構と現実の間に―/上野の森美術館

写真家という枠を超え、映画やデザイン、ファッションなどの分野でも多彩な活動を行う蜷川実花(にながわ みか)。

2018年、熊本市現代美術館を皮切りに巡回している展覧会「蜷川実花展―虚構と現実の間―」が、上野の森美術館で開催中です。全国10会場を巡回し、東京会場が集大成となります。

スフマート Sfumart 取材レポート 上野の森美術館 蜷川実花展―虚構と現実の間に―
「Chaos Room」展示風景より

東京会場では、これまでの展示作品を半数ほど入れ替えるほか、蜷川の書斎を再現したインスタレーションや映像作品も追加で展示します。

さらに、2021年に撮影した桜や藤の写真《光の庭》や、女性やパラスポーツ選手たちのポートレートなども加わり、蜷川の本質に迫る展覧会となっています。

多ジャンルで活躍する、蜷川実花

東京で生まれた蜷川実花。木村伊兵衛写真賞(*)のほか、数多くの賞を受賞しています。

蜷川は、写真家としての活躍にとどまらず、『さくらん』(2007)や『人間失格 太宰治と3人の女たち』(2019)などの映画作品も監督。自身のディレクションするブランド「エム / ミカニナガワ(M / mika ninagawa)」を手がけるなど、活躍の幅を広げ続けています。

*木村伊兵衛写真賞:朝日出版社から刊行されていた『アサヒカメラ』誌で活躍していた写真家・木村伊兵衛(いへい)の業績を記念して、1975年に朝日新聞社が創立した写真賞。

蜷川の写真作品の魅力といえば、鮮やかな花を映した作品ではないでしょうか。

スフマート Sfumart 取材レポート 上野の森美術館 蜷川実花展―虚構と現実の間に―
蜷川実花展―虚構と現実の間に― 展示風景より

蜷川が撮影する色鮮やかで美しい花の多くは、自然の中であるがままに咲いている花ではなく、誰かにむけてするために育てられた花だといいます。

彼女はその時、その瞬間の自身の感情をもとに、人びとに寄りそってきた花たちの姿を写しています。

スフマート Sfumart 取材レポート 上野の森美術館 蜷川実花展―虚構と現実の間に―
earthly flowers, heavenly colors(2017) © mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery)

Imaginary Gardenは造花だけではなく、造花やカラーリングフラワー(*)、自然な組み合わせでは生まれない組み合わせで撮影したものを展示した部屋。

その中の増加のほとんどは墓地で撮影されたものです。

墓地の造花には、亡くなった方への記憶や思い出が色あせないようと、願いが込められていると蜷川は考えています。

*カラーリングフラワー:インクの色水を花に吸わせて作る多彩な色をもつ花のこと。

スフマート Sfumart 取材レポート 上野の森美術館 蜷川実花展―虚構と現実の間に―
Self-Image

本展では、これまで蜷川が撮影してきた約400点の写真を紹介。

花たちを映した蜷川の代名詞とも言える作品のほか、ポートレートも多数展示されます。

東京展オリジナルの展示

本展の集大成となる東京会場は、今年撮影されたポラロイド作品《TOKYO》などを追加で展示。いままでの展覧会よりも、大幅にスケールアップした展覧会になっています。

《TOKYO》は、蜷川が生まれ育った場所である東京を「写ルンです」を通し、半径1₋2メートルの世界を切り取った作品です。

スフマート Sfumart 取材レポート 上野の森美術館 蜷川実花展―虚構と現実の間に―
「TOKYO」展示風景より

新型コロナウイルスが世界中で流行し、東京の街から賑わいが引いていくなかで、彼女の目に浮かび上がってきたのは都市を形成する骨格でした。

アスファルトやコンクリート、ネオンサイン、そしてそれらが切り取る空など。時間や天候の変化の中でさまざまな表情を映し出す東京に、蜷川は新たな美しさを見出しました。

本作は、私たちに自分たちと都市のつながりについて考えるきっかけをくれるような作品です。

スフマート Sfumart 取材レポート 上野の森美術館 蜷川実花展―虚構と現実の間に―「うつくしい日々」展示風景より

本展中盤で登場するシリーズ《うつくしい日々》は、父・蜷川幸雄が病に倒れ、ゆっくりと死に向かう1年半の日常を撮影した作品です。

同時期にデビューした女性写真家の多くが日常を撮影し、作品として発表していたため混合されることが多いですが、蜷川が自身の日常を作品として撮影したのは《うつくしい日々》が初めてでした。

蜷川が「逝く人の目で撮った写真」と表現するように一点ずつ、家族や親しい友人、そして世界と別れゆく父の視線と、それに寄りそう娘の視線のすべてが重なっています。

蜷川実花の世界観を再現したインスタレーション!

東京展最大の見どころは、蜷川の書斎を再現したインスタレーションです。この空間は、彼女の自室にある私物を中心に構成。これまでの映像作品も新たに編集され上映されています。

スフマート Sfumart 取材レポート 上野の森美術館 蜷川実花展―虚構と現実の間に―
「Chaos Room」展示風景より

何気なく置かれている小物にも注目です。部屋にまぎれるソファーは、映画『ヘルタースケルター』に登場していたそう。インスタレーションは、蜷川の頭の中を覗き込むようなユニークな空間になっています。

こちらは来場者も撮影OK! 蜷川実花の世界観でお気に入りの1枚を撮影してみてはいかがでしょうか。

会場限定のオリジナルグッズにも注目!

スフマート Sfumart 取材レポート 上野の森美術館 蜷川実花展―虚構と現実の間に― オリジナルグッズ

会場内のミュージアムショップでは、本展のオリジナルグッズが販売されています。

日常のちょっとしたメッセージを添える色とりどりのポストカードをはじめ、作品が持ち手にプリントされたユニークなハイ・マッキーなど。こちらも展示室と同じように、気分が明るくなる色鮮やかな空間になっています。

 

本展開催に向け、蜷川は「久しぶりに東京で開催される大規模な個展です。これまでの私の作品をまとめて見てもらえるとともに、インスタレーションなど、体験型の展示内容になっていますので、ぜひ見ていただきたいです」と語りました。

表現のジャンルを限定することなく、時代の先端を鮮烈に作品として示し続ける蜷川実花。

蜷川の集大成を、間近で鑑賞してみてください。

 

なお、本展は平日は日付を、土日は日時を指定する【事前予約制】を導入しています。詳しいチケット情報は展覧会公式サイトをご確認ください。

蜷川実花展―虚構と現実の間に―
《Chaos Room》

蜷川実花展―虚構と現実の間に―
プロローグ

蜷川実花展―虚構と現実の間に―
展示風景より

蜷川実花展―虚構と現実の間に―
展示風景より

蜷川実花展―虚構と現実の間に―
《Imaginary Garten》

蜷川実花展―虚構と現実の間に―
《光の庭》

Exhibition Information

展覧会名
蜷川実花展 ─虚構と現実の間に─
開催期間
2021年9月16日~11月14日 終了しました
会場
上野の森美術館 本館1F、本館2F、ギャラリー
公式サイト
https://ninagawa-exh.com/
注意事項

ご来館を予定されている皆様へ (必ずお読みください)