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2024年11月1日
特別展 超絶技巧、未来へ!/三井記念美術館
こんにちは。
趣味で美術館巡りを楽しんでいる、Sfumart読者レビュアーのかおりです。
今回は2023年11月26日まで三井記念美術館で開催の「超絶技巧、依頼へ! 明治工芸とそのDNA」展へうかがってきました!
「超絶技巧」と言われるとワクワクせずにはいられない。
そんな魅惑のワードを掲げた、17人の現代作家が繰り出す超絶技巧の作品と明治工芸の逸品が一堂に会した展覧会。そこには想像以上に眼を疑う作品の数々との出会いがありました。
独断と偏見と好みにより厳選した7つの作品を紹介します。絶対自分の目でみてほしい!
どの子を見てこようかな?という目星をつけるのにお役立ていただければと思います。
それではどうぞ〜!
まず入り口でお出迎えしてくれるのが、リアルすぎるカラスの彫像!
素材は鉄。
薄く伸ばされた羽の先はとても鉄でできているとは思えないですし、今にも動き出しそうな生命の躍動感を感じます。
実はこれ、形がリアルなだけではないのです。
CTスキャンすると、その骨格や筋肉まで現れるという、内部まで再現したこだわりのカラスなのです!さらに、餌と間違って飲み込んだ銀の異物が胃の部分に埋め込まれているそう。
こちらは鉄鍛金家の本郷真也さんの作品で、作品名は「Visible01 境界」といいます。
内部と外部、自然と人工、見えるものと見えないもの。
さまざまな対比関係の境界が内包された作品といえるのではないでしょうか。
展覧会のポスターにも掲載されていた作品のひとつがこの作品、福田亨さんの「吸水」という作品です。
この作品は、なんとすべて木でできているのです!
息を吹きかければぷるんとふるえそうな水滴の表現も、水滴以外の部分を掘り下げて、水滴の部分を磨き上げてツヤをだしているのだそう。
蝶の部分ももちろん木なのですが、驚くべきはそれだけではありません。なんと、着色していないんです! 黄色い羽の部分も、肉眼で見るとわかる、羽の青や赤の部分も、すべて木自体の色で、色の違う木を組み合わせて1匹の蝶を作っているのです。
さらに細かい足や触覚の造形…。
何度間近で見ても木とは思えない作品です。
こちらは稲崎栄利子さんの作品「Amrita」。
これをみて、陶器の作品だと思う人が何人いるでしょうか。
毛糸でもなく、ビーズでもなく、陶器なのですよ…!!
数ヶ月練習したあとに、本格的な制作に入るそうです。
ひとつひとつの小さな粘土の粒を慎重に根気よくちぎってつなげたあとは、一発で焼き上げるんだそうです。焼き上げで失敗することはないとのこと。
神業としかいいようがありません。
ポスターのメインビジュアルとなっているこちらの作品は、大竹亮峯さんの《月光》。
モチーフの花は月下美人。1年に1度だけ、夜に花を咲かせるサボテンです。
花の部分は鹿の角とのこと。鹿の角ってこんなに薄くなるの…?!
さらに驚くことに、この花、しぼんだり閉じたりするんです!
会場では写真のように花が開いた状態で展示されているのですが、通常、花は閉じており、花器に水を注ぐとゆっくりと花開く仕掛けになっているのです。
その仕掛けは企業秘密とのこと。
精巧なだけじゃない、「動」の妙技がここにあります。
もう、スルメにしか見えない。
これは前原冬樹さんの木彫の作品です。
スルメの乾いた質感、しかし噛むとたしかに感じる弾力を思い起こさせ、口の中に広がる旨みを彷彿させる、表面の白い粉。そのかたわらには半分に割れた茶碗が転がっています。リアルな実感を持たせるスルメに、打ち捨てられた茶碗。かつて存在したかもしれない過去の記憶を想起させます。
さらに、この作品の驚くべきところは、本物にしか見えないその造形だけではありません。
このするめはなんと、1本の木から掘り出したというのです…!
脱帽。
なんとも私の目を惹きつけたのが、この紙袋。
素材は銅。
そう言われるとそうなのですが、紙感が半端ない。
あぁ、紙袋の、この感じ…! ふちのギザギザ、取っ手に入った溝と折り目、ちょっとふにゃっと曲がった感じ、袋の畳まれた跡、少しへこんだ側面。
すごく見覚えがある。我が家の紙袋コーナーに眠っている、あの袋そのものです。使いこまずに、いざというときにさりげなく出そうとしている、あの紙袋たち。新品に近い紙袋の佇まいを見事に表現しています。
この作品を作ったのは、長谷川清吉さん。本業は茶道具制作を行っている金工師の4代目だそう。
本業を全うしたうえで、こんなにもついクスリと笑みがもれてしまう、楽しい作品の数々を生み出しているのです。たまりません。
本物そっくり。
しかも、八百屋さんに盛られている綺麗な柿ではなく、実家の庭の柿の木になっている、あの柿の風情。
この作品は、岩崎努さんの「嘉来(柿)」です。
岩崎さんは、欄間などで知られる井波彫刻という伝統工芸を生業とする家系の生まれで、この作品も木彫で表現されています。さらに、1本の木から彫りあげた一木造り。信じられない。
なお、彩色は日本画家である平井千香子さんによって行われています。
得意分野を持ち寄りひとつのものを作り上げる姿勢に職人気質も感じられます。
岩崎努さんの作品は、明治から昭和にかけて活躍した写実的な彫刻を得意とした牙彫師である安藤緑山の作品と並べて展示されています。
牙彫と木彫という違いはあれど、ここに超絶技巧のDNAを感じずにはいられません。
現代の超絶技巧のDNAをたどると、そこには明治時代の逸品があります。
展示室には、明治工芸の品々がたっぷりあります。
ぜひ現代作家の作品と比較しながら鑑賞して、お気に入りを見つけてみてください。
素材への愛、制作に向き合う真摯な姿勢、時代も年齢も超えたライバルとの切磋琢磨。そのすべての上にある自信。そしてふとのぞかせるユーモア。
そういったものが凝縮された本展の超絶技巧の作品群は、きっと日常のなかで無意識に固まったあなたの頭を中をかき回し、心に好奇心の火をともさせるにちがいありません。
三井記念美術館の、歴史を感じさせる重厚なエレベーターの向こうに待っている、超絶技巧の世界をのぞいていってみませんか?