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熊谷亜莉沙|天国泥棒
熊谷亜莉沙の作品制作は、遊郭街の裏で生まれた自身の生い立ちや家族史を出発点としています。家業のブティックで扱っていたイタリアンハイブランドのシャツを纏う祖父の姿や、玉石混交の煌びやかなジュエリーを身につけた母親や女性たちの手、孤独死した父親へ手向けられた花など、きわめてパーソナルな経験に基づくモチーフを捉えながらも、そこに富裕と貧困、生と死など、誰もが日常の中で直面しうるテーマを映し出し、個人的な背景を乗り越えた普遍的な作品へと昇華させてきました。そのドラマティックな描写は、観る者の記憶や経験に訴えかけ、各々のライフストーリーとの共感性を呼び覚ますことでしょう。
近年、熊谷はカトリック教会で学び、ニューヨークやパリ滞在中に目にした異国の信仰のかたちへ関心を深める一方で、日本における祈りに関するモチーフも描くようになりました。また絵画と自身が綴った詩を組み合わせるなど、新しい表現のフェーズに移行し始めています。
本展覧会のタイトルである「天国泥棒」という、一度耳にしたら忘れ難い強烈なワードは、キリスト教にまつわるもので、死の間際に洗礼を受ける者のことを時にこう呼ぶ人がいるのだそうです。
天国は、信仰者たちの魂が神と共に永遠の安らぎを得る場所です。本来は、どんな行いをしたかで天国行きが決まるのではなく、イエス・キリストを信じるすべての人にその道が開かれているはずですが、長年神に仕えた者からすれば、「天国泥棒」は瀕死に際して都合よく救いを求めているかのようにみえ、思わず「卑怯だ」とか「ずるい」などという言葉が出てしまうのかもしれません。そのどうしようもなく人間らしい感情に、熊谷は自分の心のありようを重ね合わせていると言います。それは、愛と憎しみは相反するものながら一体にあり、人間の最も根源的な感情だからなのかもしれません。
ギャラリー小柳での個展は、2019年「Single bed」、2022年「私はお前に生まれたかった」、2023 年「神はお許しになられるらしい」に続き、2年ぶり4回目です。
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- ギャラリー小柳