ウィリアム・ターナー/10分でわかるアート
2022年2月2日
“Strike Gold” Art for “No Concept”-作為なき表現者たち/GYRE GALLERY

こんにちは!
美術館巡りが趣味のかおりです。
私たちが気軽に使う「アート」という言葉。
「アート」とは何か?という問いは、長年論考が問い続けられているものであり、きっと答えがなく、人によって答えが違ってくるものではないかと思います。
そんななかで、今回訪れた「“Strike Gold” Art for “No Concept”-作為なき表現者たち」展。
現代アートを「作者のコンセプトを表現したもの」であるとするならば、「No Concept」を掲げるこの展覧会で展示される作品たちは、その外に存在するものです。
ただ、「アート」を「人間が作り出す、人間の心を動かすもの」と広義に捉えると、圧倒的な光を放ったアート作品であることにまちがいありません。
アート作品を見るときにはさまざまな観点があります。
コンセプト、時代性、技術、技法、構成。
そのどれもを取り払って、作品と対面するとき、どんな印象を受けるのか。
そんな楽しみをもってこの展覧会を鑑賞しました。

展覧会全体を通して感じたのは、溢れ出すプラスのエネルギー。
普段いろいろなアート作品を見ていると、なかにはマイナスな感情を受け取るものもあります。
それが悪いというわけではなく、プラス、マイナス、さまざまな感情が表現されているのが、芸術作品のいいところです。
そのうえで、今回の展示作品から受けたのは、マイナスよりも、圧倒的にプラスのエネルギーだったのです。
それは、作品をみる方々の滞在時間が長い、子どもたちがとてもよく見てくれる、ということにもつながっているのだと思います。
ここからは、展示されていた数々の作品のなかで、特に私が強く印象に残った作品をご紹介します。

私がいちばん強い印象を受けたのは、中武卓さんの作品。
大画面の作品で、あざやかな色づかいと力強いタッチで大輪の花が描かれています。ぱっと気持ちが明るくなるような、目の覚めるような作品です。
これらの作品を見ると、さぞかし立派な花束を準備して描いたのだろうと思いますよね。けれど、実はアトリエの周りに咲いている草花を花瓶に生けているだけなのだそうです。
それが、中武さんの手にかかるとこのとおり!
エネルギッシュでパワーあふれる作品へ変貌を遂げるのです。
作者の中武さんの感性と表現力がなせる技です。

続いて、水玉みりさんの作品。
正面からの写真を出しても良かったのですが、この作品の立体感をみていただきたくて、少し斜めから撮った写真を載せました。
丸が膨らんでいるのがお分かりいただけるでしょうか?
ぷっくりしてかわいいですよね。実物をご覧いただくと、よりはっきりとふくらみがわかります。
カラフルで、つややか。真ん中に斜めに描かれているものは花が咲いているように、その周りにある小さな丸は、つぼみのようにも見えます。
規則性があるようでパターンには治らない円の配置、ゆらぎがある手作業のなかに、丁寧に絵の具が盛られたようす。
テキスタイルのようでもあり、不思議と心躍ります。

そして、こちらも色鮮やかな作品!
飯塚月さんによるものです。
ガザニアの花が浮かぶ水の中をゆったりと泳ぐアロワナ。今にもぶるんと身じろぎしそうです。
ガザニアの花のとりどりの色と陰影、アロワナの魚の、青から黄色へのグラデーション、光の当たり方によって白に薄桃色に、きらめく鱗。華やかで細かい描写が目を惹きます。
こちらの作品、なんと色えんびつで描かれているんですよ!
その観察眼と表現力に目が釘付けになります。

そしてこちらも色鉛筆で描かれた作品。
作者は水野貴男さんです。
強い筆圧で何度も塗り重ねて描かれているそうで、とても色鉛筆とは思えないくっきりした発色と艶がでていて、見入ってしまいます。
力強い線と塗り。
鮮やかな色使いと迷いのないくっきりとした線に、なんだかワクワクしてきます!
背景が色で区切られているのも、作者にとって意味があるそうで、いったいどんな意味が隠されているのだろうと、想像してみるのも楽しいです。

ところで、これらの作品を描いているのは、なんらかの障がいのある方々です。
障がいがあることで、思うように動けなかったり、自分の意思表示が難しかったり。その状況はどれほどのストレスでしょうか。
どう表現したらいいのかわからない歯痒さ、伝わらないもどかしさ、自分の内にあるものを表出できない閉塞感、苛立ち。
今回展示されている作品は、それぞれの作家さんがさまざまな経験を経て掴んだ自己表現の方法で制作されたものです。
ただ展示されている作品を見たとき、その作者が健常者であるか障がい者であるかといったことを、やすやすと乗り越えていく力強さや、柔軟さ、言葉にできない魅力を感じました。
年末年始の慌ただしい時期、つい視野が狭くなってしまい、自分で自分の枠を作って、そこに閉じ込もってしまいがちになります。そんな知らないうちにつくりあげてしまった枠を取り払うパワーをもらえる展示でした。
ぜひ会場に足を運んで作品と向き合ってみていただきたいです。
それでは愉しいアートライフを!