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2024年11月21日
江上幹幸コレクション インドネシアの絣・イカット/たばこと塩の博物館
1978年11月、たばこと塩の歴史と文化をテーマとする博物館として、渋谷区に開館した「たばこと塩の博物館」。2015年4月には、墨田区へ移転し、リニューアルオープンしました。
そんな同館では現在、「江上幹幸コレクション インドネシアの絣・イカット~クジラと塩の織りなす布の物語~」が開催中です。
本展示では、民族考古学を専門とする江上幹幸(えがみともこ)氏(元・沖縄国際大学教授)が30年以上にわたる調査で出会った、インドネシアの伝統染織文化の一つであるイカットの魅力とその背景にある島の人びとの暮らしや文化を紹介しています。
経糸(たていと)や緯糸(よこいと)の束を部分的にひもで括って防染することで染め分け、文様を描く技法・絣(かすり)。絣織物を意味する世界共通語が「イカット」です。
インドネシア語のikat(束・括り・縛り)がその語源と言われており、インドネシアは絣織物の宝庫として知られています。
イカットの産地として有名な島の一つがレンバタ島です。レンバタ島のイカットは、深い色合いの茜と藍で染められており、マンタなどの伝統的な文様が入っているのが特徴です。
レンバタ島のイカットは、糸紡ぎから括り、染め、織りに至るまで全工程を通じて手作業で作られており、日常着だけでなく結納品としても重要なものとなっています。
イカット作りのようす(撮影:江上幹幸)
これらのイカットは、他島からの移住民で、男性は伝統捕鯨、女性は製塩や石灰づくりなどをする「海の民」と、焼畑農業を営み、もともとイカットの技術を持っていたとされる先住民「山の民」の交易になしには生まれ得ないものです。
山の民との交易で得た綿から糸を紡ぎ、藍や茜などを染めてイカットを織る、海の民。藍染に不可欠な石灰を海の民との交易でまかないイカットを織る、山の民。
このように、どちらもイカットを織りますが、イカット制作に必要な材料を互いに補い合うことで、レンバタ島のイカットは成り立っているのです。
海の民が暮らすレンバタ島ラマレラ村では、染料に必要な石灰づくりや生きていくための塩づくり、重要な交易品であるクジラ肉を得るための伝統捕鯨などが行なわれています。クジラと塩を原動力とする物々交換の交易システムが、イカットを生み出しているのです。
交易システムの鍵と言われるのが、塩づくりです。塩は交易品としてだけでなく、クジラ肉を干して加工する際にも必要で、クジラ脂身の保存食「ムドゥ」づくりにも欠かせません。
このように、交易品として重要な塩ですが、インドネシア東部の製塩地では、さまざまな製塩法が存在します。主に、結晶化までを天日で行なう「天日塩」と、濃縮した海水から結晶を得る際に燃料を使う「煎熬塩(せんごうえん)」に分けられます。
レンバタ島・ラマレラ村の海の民は、天日で濃縮した海水から煎熬塩を作っています。
ラマレラ村の製塩のようす(撮影:江上幹幸)
そのほか、島の暮らしに欠かせないのがヤシです。ゲバンヤシ、ロンタールヤシ、アレカヤシ、ココヤシなど何種類ものヤシが見られ、島の人びとは用途ごとに使い分けをしています。ゲバンヤシの葉は、イカット防染用の括りひもに不可欠なほか、クジラを捕る手こぎ木造帆船の材料としても不可欠です。
ロンタールヤシは、ヤシ酒以外に、たばこの巻紙、嗜好品のキンマ容器やたばこ容器、塩や石灰づくり用のカゴにも利用されており、とても重要です。
暮らしのあらゆる場面で利用されるヤシ。イカットの島々は、ヤシの島ともいえるのです。
レンバタ島の暮らしにおいてなくてはならない存在のイカット。
本展示では、江上幹幸氏が製塩技術や巨石記念物を調査する過程で出会った、レンバタ島以外で制作されたイカットも紹介しています。巨石記念物を残す島には、必ず地域ごとに異なる染織物の文化があるのだそうです。
上の写真は、レンバタ島の南にある大きな島・ティモール島西部で制作されたイカットです。このイカットの特徴は、布の図柄と織り技法がとても豊富なこと。見た目も華やかで多様なイカットが生まれたのは、かつて島にあった公国ごとの文化の違いからだと言われています。
江上氏が収集したこれらのイカットは、1,000点にも及ぶ「江上幹幸コレクション」として、貴重なものとなっています。
イカットそのものだけでなく、その背景にある暮らしや文化まで分かるこのコレクションは、江上氏自身が「アトリエ・バレオ」と名付けた沖縄の自宅で、保管・展示をしています。
インドネシアの伝統的な絣であるイカットとその背景にある島の人びとの暮らしについて知ることができる本展覧会。
交易によって、海の民と山の民が互いに不足分を補い合いながら、今もなお、その伝統を守り続ける彼らの強さにあっと驚かされた時間でした。
また、イカット一つひとつにしても、その織り方や絣の文様が異なり、それぞれの島が歩んできた長い歴史を、イカットを通して学べる貴重な機会といえるでしょう。
たばこと塩の博物館で、普段はなかなか知ることのできない、イカットの世界に触れてみてはいかがでしょうか。