塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]/東京都現代美術館
音楽とアートをつなぐアーティスト、クリスチャン・マークレー(1955-)。国内初となる大規模個展が、東京都現代美術館で開催中です。
クリスチャン・マークレー《フェイス(恐れ)》2020年
本展では、コンセプチュアル・アートやパンク・ミュージックに影響を受けた初期作品から、イメージと音の情報のサンプルを組み立てた大規模なインスタレーションなどを展示。
さらには現代社会にまん延する不安を映し出した最新作まで、その多岐にわたる活動の全貌を紹介します。
※展覧会詳細はこちら
クリスチャン・マークレーは、1955年アメリカ・カリフォルニア州に生まれ、スイス・ジュネーヴで育ちました。
スイスとアメリカという異なる言語・文化圏を行き来しながら成長し、その経験から言葉に頼らないアートや音楽に興味を持ち、アーティストになるという決断したマークレー。
1979年に、レコードをのせる回転盤「ターンテーブル」を使ったパフォーマンスで音の実験を始めて以来、前衛的な音楽シーンの重要人物として活躍してきました。
クリスチャン・マークレー「リサイクルされたレコード」シリーズ 1979-1986年
1979年から1986年まで断続的に制作されていた「リサイクルされたレコード」シリーズは、自身のパフォーマンスに使用されたものです。
初期のマークレーは、ターンテーブル奏者として、複数のターンテーブルを使いレコードを即興演奏し、多くのミュージシャンと共演してきました。
演奏中は音を見つけやすくするために、レコードに直接マーカーや印をつけていたそう。それだけではなく、レコード盤を切断し、その断片をコラージュすることで、予測不可能な音を再生するこの世に1枚しかないレコードにしました。
クリスチャン・マークレー「リサイクルされたレコード」シリーズ 1979-1986年
音楽とアートのみならず、マンガや映画、街のグラフィティなど、マークレーはそれらの既存の世界にあるものを、サンプリングやコラージュという手法で世の中に発表してきました。
日本のマンガにあらわれる、音や動き、感情を文字に変換したオノマトペ(擬音)は、非言語的なコミュニケーションを重んじる日本ならではの表現だといえますが、マークレーはこれにインスピレーションを与えられたといいます。
クリスチャン・マークレー《マンガ・スクロール》2010年
《マンガ・スクロール》は、アメリカのマーケット向けに翻訳された日本のマンガのなかのオノマトペを切り抜き、絵巻のように音をつなげたコラージュ作品です。
本作をはじめとする、英語に翻訳された日本のマンガから流用したオノマトペに着目した作品も、多数紹介します。
「音を見る/イメージを聴く」という未知の体験へと鑑賞者を導く、マークレーの大規模なインスタレーション。
古今東西の映画から、音にまつわるシーンを集めた《ビデオ・カルテット》は、マークレーの代表作のひとつです。
クリスチャン・マークレー《ビデオ・カルテット》2002年
本作は、ロックやオペラ、ミュージカル、また誰もが知っているスターの姿や映画の断片などのさまざまなシーンを上手くコラージュし、まったく新しいバランスをもったひとつの曲として作曲(構成)したものです。
また、マンガのオノマトペを引用した没入型の無音の映像インスタレーション《サラウンド・サウンズ》も展示。
クリスチャン・マークレー《サラウンド・サウンズ》2014-2015年
本作では、例えば「SLAM(ビシャリ)」は叩きつけられるように、「POP(ポン)」は弾けるようになど、その文字から連想できる音がアニメーションとなって、鑑賞者の四方を囲む映像作品となっています。
無音空間のため、視覚情報のみで音を感知するという不思議な体験ができますよ。
世界中がコロナ禍に見舞われた2020年は、さまざまな国や地域の人びとの行動が制限されていました。現在でもまだその制限は続いています。
そうした孤立した生活のなかでマークレーが作り続けたのは、コミックを切り抜いた小さなコラージュでした。
クリスチャン・マークレー「フェイス」シリーズ 2020年
叫ぶ人の顔をイメージした「フェイス」シリーズは、マークレーが視覚と聴覚をリンクさせる主題として長く追究してきた作品。しかし、ここでは、オノマトペによってあらわされた不協和音やノイズで、叫ぶ人の顔が表現されています。
新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックは、人種差別などの社会問題をはじめ、世界にまん延する怒りや不安を可視化するきっかけとなりました。
そうした人びとの声や感情は今、マスクの下に隠されています。マークレーのコラージュでは、マスクに隠されてしまったそれらに対する共感を呼び起こすものなのでしょう。こうした現代社会の問題に触れた最新作にも注目です。
「音について、それがどう聞こえるかということだけではなく、どう見えるかということにも興味がある(*)」と語る、マークレー。
*クリスチャン・マークレー インタビューより THE WIRE, Issue 195, May 2000
美術という表現手段のなかで、マークレーが独自で作り上げた音や音楽を、鑑賞できる貴重な展覧会です。
また、同展のほかにも東京都現代美術館では、「ユージーン・スタジオ 新しい海 After the rainbow」と「Viva Video! 久保田成子展」も開催中。チケットの詳しい情報については、美術館公式サイトをご確認ください。
※画像はすべて展示風景
※参考:クリスチャン・マークレー展 作品解説