塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
Viva Video! 久保田成子展/東京都現代美術館
ヴィデオアートのパイオニアとして知られる久保田成子(くぼたしげこ、1937-2015)の大規模な個展が、東京都現代美術館にて開催中です。
展示風景
新潟で生まれ、ニューヨークを拠点に活動した久保田成子は、東京教育大学(現・筑波大学)で彫刻を学び、1964年に渡米。ニューヨークでは芸術集団であるフルクサスに参加するなど、表現の幅を広げました。ヴィデオの映像を立体的な構造物の中に取り込んだ「ヴィデオ彫刻」のシリーズが有名です。
本展は7章で構成。特に現代美術の父と称されるマルセル・デュシャンの絵画をヴィデオアートに落とし込んだ『デュシャンピアナ:階段を降りる裸体』シリーズや、日本初公開のヴィデオ彫刻となる『スケート選手』が見どころです。
※展覧会情報はこちら
ヴィデオ・アートとは、映像を使用した芸術作品のことです。視聴する動画のみならず、動画を再生する媒体(スクリーンやモニターなど)も含めてヴィデオ・アートといいます。
ナム・ジュン・パイクの個展「音楽の展覧会 エレクトロニック・テレビジョン」(1963)に展示された作品や、ヴォルフ・フォステル『あなたの頭の中の太陽』(1963)などが、ヴィデオ・アート作品の始まりとされています。
ヴィデオアートのパイオニアでもある久保田成子の展示がなぜ今まであまりなかったのでしょうか。東京都現代美術館の担当・西川美穂子学芸員によると、ヴィデオを使っている作品で、展示のための準備が必要となるところが大きいとのこと。また、女性であることやパートナーであるナム・ジュン・パイクの影に隠れてしまっていたため、知られていなかったことも理由のひとつであるとも語っていました。
70年代のヴィデオアーティストには女性が多いそうですが、歴史の編纂の中で女性アーティストが取りこぼされて消えていってしまったことも考えられるそうです。
展示風景
今回、本展を行うことで、メディア・アートの修復と保存、展示をどのように行っていくかという問題について改めて考えることができた、と西川学芸員。近年、メディア・アートの修復や保存の問題がホットな話題です。
本展を鑑賞しながら、アーティストや展示の背景にも目を向けて、メディア・アートを巡る問題について考えてみてはいかがでしょうか。
久保田成子の代表作とも言える『デュシャンピアナ』シリーズは、ヴィデオ彫刻と呼ばれるシリーズの始まりです。映像を用いた表現に、より造形的な要素を持たせたいという意図で制作されました。
展示風景より、久保田成子《デュシャンピアナ:マルセル・デュシャンの墓》1972-75/2019年
久保田成子ヴィデオ・アート財団蔵
ヴィデオ彫刻は、鑑賞者が作品の前でじっと座って観続けなければいけない作品と違い、始まりと終わりがなく、鑑賞者が自由に作品の周りを行き来し、眺めることができます。
展示風景より、久保田成子《デュシャンピアナ:階段を降りる裸体》1975-76/83年
富山県美術館蔵
デュシャンの油彩画である《階段を降りる裸体No.2》(1912年)を引用した作品、《デュシャンピアナ:階段を降りる裸体》。階段の中に、ヌードの女性が階段を降りる映像を組み込んだヴィデオ彫刻で、久保田の代表作のひとつでもあります。
展示風景より、久保田成子《デュシャンピアナ:ヴィデオ・チェス》1968-75年
久保田成子ヴィデオ・アート財団蔵
死と生の境界を意識した作品 韓国の墓
1980年代後半以降、現代美術にプロジェクターが持ち込まれると、久保田も積極的に作品に取り入れました。ヴィデオ彫刻に重ねて映像を投影したり、鏡を用いてその映像を反射させたりするなど、イメージを増幅させる効果を狙っています。
展示風景より、久保田成子《韓国の墓》1993年
久保田成子ヴィデオ・アート財団蔵
1984年にパートナーであるナム・ジュン・パイクとともに韓国に訪れた際には《韓国への旅》を撮影し、韓国の伝統的な墓を模したヴィデオ彫刻《韓国の墓》に発展させました。
雄大な自然を感じられる作品 ナイアガラの滝
ナイアガラの滝の映像を10台のモニターに映して、滝の春夏秋冬を表している《ナイアガラの滝》。大小のモニターの動きのある配置や、水と鏡、プロジェクションの重ね合わせにより、映像が複雑に重層化しています。
展示風景より、久保田成子《ナイアガラの滝》1985/2021年
保田成子ヴィデオ・アート財団蔵
日本初公開のヴィデオ彫刻 スケート選手
本展一番の見どころである、日本初公開となるヴィデオ彫刻《スケート選手》。スケート選手である伊藤みどりをモチーフにした人形が、回転するリンクの上でスピンします。リンクに貼られた鏡にプロジェクションの映像が反射し、カラフルで美しい光を周囲に投げかけます。
展示風景より、久保田成子《スケート選手》1991-92年
久保田成子ヴィデオ・アート財団蔵
インスタ映えもしそうな作品が満載の本展。テレビや街中、スマホ画面に映像があふれている今日、受動的に映像を観てしまいがちですが、「観るとはなにか?」ということを改めて考えさせてくれる展示です。
また、東京都現代美術館では、「MOTコレクション Journals 日々、記す vol.2」が久保田成子展と同時開催中です。
※詳しい情報はこちら
展示風景
久保田成子展のチケットでこちらも鑑賞可能です。この機会にぜひご覧ください。
アルナルド・ポモドーロ《太陽のジャイロスコープ》1988年