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クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。
作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家についてたっぷり知ってもらうことを目的としています。
今回は、15世紀~16世紀に興った「ルネサンス美術」について詳しく紹介していきます。
「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。
「ルネサンス」と聞いて、いつ頃の時代かあいまいな方も多いのではないでしょうか。
ルネサンスは、15世紀のイタリア・フィレンツェを中心に、古代ギリシャ・ローマ世界の秩序を規範として「古典復興」をスローガンとした運動のことです。
レオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》や、優しい顔立ちをした聖母マリアの肖像画などは、ルネサンス期の作品です。
この頃、教会による支配への反発や経済の発展による社会の変化にともなって、人びとは自由で人間らしい生き方を求め、古代ギリシャやローマに見られる「人間を中心とした文化」を理想としていました。
ルネサンス以前は、「人生(現世)は苦しみの世界である」と考えられていたため、彫刻や絵画の中では、キリストは悲しみに顔をゆがめ、マリアは目を伏せ、使徒たちは厳しい表情を浮かべた作品ばかりでした。当時のキリスト教では、この苦しみを耐えたものだけが死後、天国へ行けるとされていました。
しかし、人びとは人間の可能性を信じ、死後の世界よりも現実世界での生活を優先するようになります。これは、キリスト教との新しい調和、伝統的なキリスト教のテーマに新しい人間的な解釈などを加えて表現しようとするものでした。
ルネサンスでは、古代ギリシャやローマをただ真似るのではなく、それ以上のものをつくりだそうとしたのです。
また、ルネサンス美術は古典と科学を土台として成り立っています。
まず、人間の肉体や人生の喜びを賛美するギリシャ・ローマの芸術に、リアルと理想のバランス性を見出し、それまでの神中心の禁欲的な世界観ではタブーとされていた、自然の美や現実の世界の価値を再認識しようとしました。
ルネサンス期に活躍した芸術家たちは、遠近図法や解剖学といった科学の分野にも関心をもち、個性や人格を尊重した人間中心の世界観を描き出しました。
西洋でルネサンス興った14世紀から16世紀、日本では豊臣秀吉による天下統一が進んだ安土桃山時代が展開されていました。
安土桃山時代は、富と権力を得た大名や町衆(*)が、創造的なエネルギーを美術の分野に注ぎ始めるようになりました。有名な美術作品だと、室町時代から続く流派である狩野派の狩野永徳が描いた《唐獅子図屏風》など、豪華な装飾が施された美術が流行します。
*町衆(まちしゅう/ちょうしゅう):室町時代から戦国時代にかけての裕福な商工業者のこと。特に京都の町衆が有名で、室町衆・三条町衆など町名を冠して町衆と呼ばれました。
狩野永徳《唐獅子図屏風》
ほかにも、茶の湯文化を作った千利休により、自然のまま何も手を加えない素朴な美しさを尊重する美意識「わび・さび」の精神に基づく芸術活動が発展しました。
また、飾り気のない茶碗本来の美しさが見出され、国内でも織部(おりべ)焼や志野焼など新しい陶器が焼かれました。
イタリアのルネサンスは、14世紀から15世紀にかけての時代を「初期ルネサンス」、15世紀末から16世紀初頭にかけての時代を「盛期ルネサンス」と2種類に分けて考えるのが一般的とされています。
盛期ルネサンスは、わずか30年と短い期間でしたが、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロの三大巨匠と呼ばれる芸術家たちが活躍した時代として有名です。
世界一有名な絵画《モナ・リザ》の作者として知られるレオナルド・ダ・ヴィンチ。画家としてだけではなく、自然科学の研究や軍事開発、また音楽などさまざまな分野の知識を持っており、「万能の人」と呼ばれています。
レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》1495~98年
ダ・ヴィンチが43歳の時に手掛けた作品《最後の晩餐》では、遠近感のある表現で描く図法「透視図法」を巧みに使い、人物それぞれの感情が動作を交えて表現されています。
レオナルド・ダ・ヴィンチについてもっと知りたい方はこちら
ミケランジェロは、フィレンツェのアカデミア美術館が所蔵する彫刻《ダヴィデ像》や、システィーナ礼拝堂の祭壇壁画《最後の審判》などの作品で知られています。
ミケランジェロ《最後の審判》
ラファエロは、ダ・ヴィンチとミケランジェロの影響を受けながらも、静かで落ち着きのある人物表現と、安定した構図で聖母像を描き、人びとに親しまれた芸術家です。
さまざまな時代の哲学者や科学者が語り合う「哲学」を表す壁画《アテネの学堂》は、ラファエロの写実的な描写技術と豊かな色彩、そして彼の高い教養によって描かれた作品です。
ラファエロ《アテネの学堂》
13世紀にはいると、それまで貴族が主体となって進行していたキリスト教が、庶民の生活の中までに広がっていき、ローマやエルサレムなどへの聖地巡礼がさかんになりました。ところが、キリスト教の聖地のひとつであるエルサレムは、イスラム教の聖地でもあり、7世紀以来イスラム勢力の支配下にありました。
1096年、キリスト教徒は、聖都エルサレムをイスラム教徒の手から奪い返すために起こした遠征軍である「十字軍」を派遣します。これにより、約2世紀にわたり7回におよぶ十字軍遠征が開始されました。
十字軍遠征により、フィレンツェでは急速に国際金融業が発達します。それを支えたのはフィレンツェの実業家たちでした。しかし、1337年からイギリス=フランス間で始まった百年戦争で、彼らに莫大な借金をしたイギリスの国王エドワード3世は、なんと自らの借金を踏み倒してしまったそう!
これにより、フィレンツェの有名な銀行が倒産。これをきっかけに、それまでは新興勢力のひとつにすぎなかったメディチ家が、ルネサンス期最大のパトロンとして頭角を現します。
メディチ家など、富裕な市民が芸術家や学者を保護したことで、フィレンツェではいち早くルネサンスが花開きました。
メディチ家がルネサンスのパトロンとして基礎を築いたのは、15世紀前半でした。この頃、メディチ家の納税申告金額はなんと1位だったそう!10位の申告額の10倍だったといいます。
2位と3位にもメディチ家とかかわりのあるの家が入っていることから、当時彼らがフィレンツェでかなりの権力を持っていたことがわかります。
しかし、メディチ家の人びとは政治の表舞台に立つことを注意深く避け、あくまで実業に力を注ぎ、その強大な財力をもとにパトロンとして活動を行いました。
そんなメディチ家が支えた芸術家たちは、《ヴィーナスの誕生》で知られるボッティチェリやダ・ヴィンチなど、現代でも有名な人ばかり!彼らがいなければ、ルネサンス美術はここまで発展しなかったと言えます。
ルネサンス期に活躍したのは、ダ・ヴィンチやミケランジェロ、ラファエロだけではありません。よく知られる作品とともに2人紹介します。
ジョットは、ルネサンス以前で最大の画家であり、「ルネサンスの父」と呼ばれています。また、芸術に人間的な感情を導入した点で「近代西洋絵画の父」とも呼ばれ、西洋絵画史では重要な芸術家の一人です。
それまで平面的な絵画に対して、ジョットは立体的な空間表現とともに人物を描きました。さらに、登場人物に自然で人間的な表情を与え、人間の感情を明確に表現しました。
ジョット・ディ・ボンドーネ《ユダの接吻》
新約聖書のエピソードがテーマになっている《ユダの接吻》。12人の弟子の中でキリストを裏切ったユダが、キリストをつかまえようとする大司祭たちとともにやってきて、彼を捕まえる合図としてキスをするシーンを描いています。
《春(プリマヴェーラ)》は、ローマ神話の美の女神・ヴィーナスを中心とし、花の神フローラや春の神プリマヴェーラなど、古代神話の神々を描いた絵画作品です。
サンドロ・ボッティチェッリ《春(プリマヴェーラ)》
本作のテーマについては諸説ありますが、ボッティチェリがメディチ家の一員を祝して描いた作品とも言われています。
ルネサンス期にはこの他にも、多くの有名な作品があります。興味がある方は、ぜひ自分でも調べてみてください♪
国内でもルネサンス美術が観られる美術館がたくさんあります。
東京富士美術館は、1983年11月に東京・八王子にオープンしました。
同館のコレクションは、日本や東洋、西洋の各国、各時代の絵画・版画・写真・彫刻などさまざまなジャンルの作品約30,000点を収蔵しています。
なかでもルネサンス時代からバロック・ロココのほか、印象派・現代に至る西洋絵画500年の流れを一望できる油彩画コレクションと、写真の誕生から現代までの写真史を概観できる写真コレクションが最大の特徴となっています。
大塚国際美術館は、徳島県鳴門市にある日本最大級の常設展示スペースを有する「陶板名画美術館」です。
大塚オーミ陶業株式会社の特殊技術で陶板化された《モナ・リザ》など世界の名画1000余点が、原寸大で陶板に再現され、一堂に展示されています。
15世紀のイタリア・フィレンツェを中心に興ったルネサンス美術について、たっぷりと紹介しました。
フィレンツェという名前は、古代ローマの花の女神・フローラにちなんでいるそう! この地ほど、街と芸術が融合している場所はほかにありません。
本記事で得たルネサンス美術の知識が、皆さんの美術鑑賞の助けになると嬉しいです。
次回は、琳派の祖と呼ばれている「俵屋宗達」について紹介します。お楽しみに!
【参考書籍】
・佐々木秀樹『1冊でわかる 美術史のきほん』日本文教出版k部式会社 2019年
・松浦弘明『ふくろうの本 図説 イタリア。ルネサンス美術史』河出書房新社 2015年
・池上英洋『pen BOOKS ルネサンスとは何か。』株式会社阪急コミュニケーションズ 2012年