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クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。
作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。
今回は、18世紀から19世紀にかけて、ヨーロッパを中心に興った芸術上の思想である「ロマン主義」について、詳しくご紹介。
「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。
フランス革命と産業革命という2つの革命があった19世紀のフランス。それまでとは違った社会環境の中で、芸術分野も展開していきます。
1789年に勃発したフランス革命によって、当時フランスを支配していたブルボン王朝が倒されます。それにより王政は廃止され、共和制の革命政権が設立しました。
この大事件は、フランスの美術界にも大きな影響を与えます。まず、これまで王侯貴族が支援していた王立絵画彫刻アカデミーが1793年に解体されました。その2年後に絵画彫刻アカデミーとして再編されます。
これにより、宮廷で好まれていたバロック美術やロココの女性的でかわいらしい美術が旧体制だと否定され、代わりに新古典主義が台頭し始めました。
フランスの美術界の動きと、18世紀の前半から続く古代遺跡の発掘の影響により、19世紀のヨーロッパでは再び古代ギリシャやローマといった「古典」へのあこがれが高まり始めます。
そんななか、ドイツの美術史家・ヴィンケルマンの著書『ギリシア芸術模倣論』が、当時のヨーロッパ全土で大反響を呼び、多くの画家が古典を理想とする彼の考えに共鳴しました。
新古典主義を代表する画家であるジャック=ルイ・ダヴィッド(1748-1825)は、イタリア・ローマで古代美術やラファエロに触れ、自身の様式(新しい歴史画)を確立します。
ジャック=ルイ・ダヴィッド《皇帝ナポレオン一世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠式》1808年-1822年
ダヴィッドはフランス革命後、ナポレオンの宮廷画家として歴史の教科書でもおなじみの《皇帝ナポレオン一世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠式》など、彼の立派な姿を数多く描きました。
しかし、ナポレオン戦争(1796-1815)におけるワーテルローの会戦でナポレオンが敗北すると、新古典主義も衰退の道をたどり始めます。
新古典主義が衰え始めると、人びとは遠い異国へのあこがれや、中世の空想的な物語、自然の神秘な光景などに興味を持ち、より自由な表現の美術を目指すようになります。そして新古典主義と入れ替わるように「ロマン主義」が誕生しました。
ロマン主義は、古代ギリシャ美術が唯一の美の基準であるという新古典主義の考えに対し、個性や感性が育む、多様な美しさがあることを主張します。
そのため、ロマン主義の作品は激動感のあるドラマチックな表現がしばしば用いられ、題材には聖書の代わりに時事的な事件や小説のエピソード、またオリエント風などの異国趣味のものが選ばれています。
若い頃からナポレオン軍の英雄たちを描いていたジェリコー。《突撃する近衛士官》などの作品を残しました。そんなジェリコーの代表作は《メデューズ号の筏》です。
テオドール・ジェリコー《メデューズ号の筏》1819年
フランスの軍艦が西アフリカ海岸で沈没した実話を題材とした本作。運命の荒波にのみ込まれながらも、勇ましくそれに立ち向かう人びとを描き出して、ロマン主義絵画の幕開けを告げる作品となりました。
ジェリコーの友人であったドラクロワは、ギリシャ独立戦争に取材した《キオス島の虐殺》をはじめとしたドラマチックな構図を、美しい色彩で描きました。
ウジェーヌ・ドラクロワ《民衆を導く自由の女神》1830年
知らない人はいないほど有名な《民衆を導く自由の女神》は、フランス国王シャルル10世を打倒した1830年の「7月革命」を記念して描かれたものです。
画面中央の自由の女神は、革命の戦闘で弟を亡くし、その仇を討とうと奮闘したアンヌ・シャルロットの伝説をモデルにしたといわれています。
ブルジョワジーから都市労働者まで、さまざまな社会階級の人たちから構成さている本作は、政治的メッセージの強い作品でもあります。
そのため、ロマン主義の時代の始まりと同時に、啓蒙時代や宮廷文化の終わりを表現したものだと考えられています。
イギリスのロマン主義は風景画に現れました。19世紀のイギリスを代表する風景画家であるターナーは、生涯を通じて歴史や宗教など、さまざまなテーマを持つ風景画を描き続けました。
ターナーは感情のおもむくままに、大気と光、水などの流動的な自然を描く独特な画風で《戦艦テメレール号》をはじめとする数多くの名作を生み出しました。
ウィリアム・ターナー《戦艦テメレール号》1839年
本作に描かれている「テレメール号」は、ナポレオンのイギリス上陸を阻止したトラファルガーの海戦で活躍した戦艦です。ターナーはこの輝かしい歴史を持つ戦艦が、解体のために蒸気船のタグボードにひかれていく姿を描きました。
画面左の青白い船と画面右の夕日の赤とのコントラストが美しい本作。ただの海洋画というだけではなく、歴史のある戦艦の最期の寂しさのある雰囲気までも描写した見事な作品です。
※ウィリアム・ターナーについて詳しく知りたい方はこちら
松方コレクションが核となって1959年に設立した、西洋の美術作品を専門とする国立西洋美術館。同館では、ドラクロワの《聖母の教育》が所蔵されています。
《聖母の教育》は1842年、ドラクロワが当時ノアンにあった女流作家ジョルジュ・サンドの邸に招かれた際、彼女に仕えていた農婦とその娘をモデルにして描いたものです。
※館内施設整備のため、2022年4月8日まで休館中。
1983年に設立した東京富士美術館は、日本・東洋・西洋の各国、各時代の絵画・版画・写真・彫刻・陶磁・漆工・武具・刀剣・メダルなど、さまざまなジャンルの作品約30,000点を収蔵する総合的な美術館です。
豊富なコレクションを持つ同館は、ロマン主義の風景画家・ターナーの《嵐の近づく海景》などを所蔵しています。
19世紀の大きな美術の流れのひとつである「ロマン主義」について、ご紹介しました。いかがでしたか。
当時の人びとを騒がせたニュースを、ドラマチックに伝えたロマン主義画家たちの作品。当時の人びとは彼らの描いた作品を、現代のマスメディアのような感覚で観ていたのかもしれませんね。
次回は、ロマン主義の伝統を受け継ぐ19世紀のイギリスの画家「ジョン・コンスタブル」について詳しくご紹介します。お楽しみに!
【参考書籍】
・早坂優子『巨匠に教わる 絵画の見かた』株式会社視覚デザイン研究所 1996年
・早坂優子『鑑賞のための 西洋美術史入門』株式会社視覚デザイン研究所 2006年
・岡部昌幸 監修『西洋絵画のみかた』成美堂出版 2019年
・佐藤晃子『名画のすごさが見える 西洋絵画の鑑賞事典』株式会社長岡書店 2016年