竹久夢二/10分でわかるアート

10分でわかるアートとは?

10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。

作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。

今回は、センチメンタルな画風の女性像「夢二式美人画」で知られる画家、「竹久夢二」について詳しくご紹介。

「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。

画家、竹久夢二とは

センチメンタルな画風で女性絵「夢二式美人画」で広く知られる画家、竹久夢二(1884-1934)。日本画や水墨画、油彩画、木版画、さらにはデザインの分野など多彩な作品を残す一方、童謡や詩、童話の創作などにも才能を発揮して詩と絵画を融合した芸術を開花させた人物でもあります。

若いころ夢二は、新聞や雑誌に絵や詩を投稿して生活をしていました。1905年、夢二が22歳の時に『中学世界』にコマ絵「筒井筒(つついづつ)」が第一賞に入選。以来、夢二は大正ロマンを代表する画家として大衆から支持されるようになります。

1909年、『夢二画集 春の巻』が洛陽堂(らくようどう)から出版されます。これは、社会主義系の新聞や青少年・少女向けの雑誌などに掲載された夢二のコマ絵の版木を譲り受け、彼の詩歌、散文などをおさめて編さんされたもので、当時の若者の心を掴み、シリーズ化されて8巻まで出版されました。


竹久夢二『夢二画集 春の巻』明治43(1910)年 国立国会図書館ウェブサイトから転載

1914年10月に、夢二は日本橋区呉服町(現・中央区八重洲一丁目)に「港屋絵草子店」を、夢二が正式に結婚した唯一の女性である岸たまきと一緒にオープンします。ここで夢二は、自身がデザインした千代紙、便せん、封筒などを販売。また、詩と版画の同人誌『月映』を創刊した恩地孝四郎や田中恭吉など若い芸術家たちが集い、作品を発表するギャラリーでもありました。

この時期「夢二式美人画」のスタイルが確立されたほか、絵葉書、雑誌の表紙や挿絵、本の装幀など、多方面にわたり夢二は活動を展開させます。彼の活動を支え、愛された3人の女性について紹介していきます。

夢二が愛した3人の女性


夢二が描く女性像は「大正ロマン」を象徴しています。センチメンタルな表情にすらりと華奢な体つき、そして退廃的な雰囲気に満ちた夢二の女性像は「夢二式美人画」として、大正期の青年と少女の心捉えました。

彼は「夢二式美人画」の制作を通じて、自身にとっての永遠の女性像を描き続け、また同時に実生活においても自分にとっての女神ともいえる女性を探し、恋多き波乱に満ちた人生を送りました。中でも唯一、戸籍上の妻となった女性「岸たまき」、夢二の愛人である「笠井彦乃(かさいひこの)」「お葉(およう/佐々木カ子ヨ)」この3人の女性は、夢二にとって「創作の女神」とも呼べる大切な存在でした。

この3人の中でも、彦乃は夢二の心に残る女性だったのだそう。当時2歳上のたまきと結婚していた夢二ですが、なんと約2年で彼女と離婚してしまいます。しかし、同棲と別居をくり返し、3人の男児を授かるという不思議な生活を続けていました。

たまきと切れない関係の中、夢二は女子美術学校への編入を目前とする12歳年下の彦乃と出会います。夢二と彦乃は芸術と恋を貫く決意から、まるで駆け落ちするように京都で同棲を始めます。しかし、幸せなときは長く続かず、1918年に彦乃は結核を患い23歳という若さでこの世を去ります。

最愛の女性を失った傷心を絵筆に託し描かれたのが、夢二の最高傑作といわれる《黒船》でした。


竹久夢二《黒船》1919年

失意の中にいた夢二は、その後モデルとして彼の元に訪ねて来た女性・お葉に彦乃への恋心を重ね合わせます。同棲し、夫婦のように生活をしていましたが、二人の気持ちはすれ違い、半年後に別離。その後お葉は別の男性と結婚して穏やかな生活を送ったそうです。

美人画だけじゃない!子どものための絵

竹久夢二といえば「美人画」が有名ですが、子どものための絵画や童話、童謡、詩、児童劇などでも業績を残しています。

1905年、早稲田実業校での苦学生時代に『中学世界』の夏季増刊号に投稿した「筒井筒」が第一賞に入選し、画家デビューを果たした夢二。翌年には早稲田文学社の『少年文庫』の挿絵を担当、その後『日本少年』『少女の友』『子供之友』『幼年の友』など、さまざまな児童向けの雑誌の表紙や口絵、挿絵を担当しました。

また夢二は子ども向けの本として、高嶋平三郎の本や、大手八郎の詩集に挿絵をつける仕事もしつつ、絵だけではなく『さよなら』では物語をつづるなど、画文とも両方に携わる子ども向けの著作を多く手がけています。中でも『どんたく絵本』は、文字がなく絵だけで成立する珍しい絵本で、夢二の豊かな才能を示す作品として知られています。

また、子ども向けの仕事をしていた明治末期頃、夢二の息子が学齢期になっており、子ども特有のしぐさや物の見方を身近で感じながら制作に向き合うことができたのだそう。子どもに向けた平易な文章と太めでシンプルな線による単色の絵が、大衆の支持を得たと考えられています。

おわりに

大正ロマンを代表する画家、竹久夢二について詳しく紹介しました。

センチメンタルな画風の女性絵「夢二式美人画」で広く名が知られる夢二。女性の心情や内面性を見事に描いたものが多いです。夢二の優れた洞察力によって描き出された作品は、同時代の女性たちから支持されました。

また、画家自らの感情を表現した少女のためのイラストレーションである「抒情画」の原型を作った画家でもあります。

次回は、「モーリス・ユトリロ」について詳しくご紹介します。お楽しみに!

【参考書籍】
・石川桂子編『大正ロマン手帖―ノスタルジック&モダンな世界―』河出書房新社 2009年
・『千代田区×東京ステーションギャラリー「夢二繚乱」展図録』千代田区/東京ステーションギャラリー/株式会社キュレイターズ 2018年