ロココ美術/10分でわかるアート

10分でわかるアートとは?

10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。

作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。

今回は、18世紀のはじめにフランスで花開いた「ロココ美術」について詳しくご紹介。

「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。

優美な世界、ロココ美術とは

18世紀はじめのフランスで、ルイ15世のもと始まったのがロココ美術です。

「ロココ」の語源は「ロカイユ」と呼ばれる建築装飾から来ています。

人工の洞窟を作るために使用していた小石や貝がらのことを表す「ロカイユ」。始めは貝がらの優美な曲線を活かした室内装飾として流行しました。


ヴィースの巡礼教会 1745年ー1754年

ピンクやスカイブルーなどの柔らかで鮮やかな色彩と、甘美で優美な世界観が特徴とされるロココ美術。当時は女性が活躍し始めた時代ということもあり、女性が好みそうな恋愛をテーマとした作品も多いことで知られています。

代表的な「ロココ美術」の画家たち

ロココ美術を代表する画家といえば、アントワーヌ・ヴァトー、フランソワ・ブーシェ、ジャン・オノレ・フラゴナールです。それぞれ作品とともに紹介していきます。

アントワーヌ・ヴァトー(1684-1721)

ヴァトーは元々、宗教画や風俗画を描いていました。1712年に、アカデミーの入会資格を得たヴァトー。正会員になるために1717年に《シテール島の巡礼》を描きます。

本作をアカデミーに提出したところ、評論家たちからは当時アカデミーで地位を得ていた歴史画や風景画というジャンルとは違うと評価を受けます。

そこで、ヴァトーの《シテール島の巡礼》は「雅宴画(がえんが/フェート・ギャラント)」という新しいジャンルとして人びとに受け入れられました。


《シテール島の巡礼》 1717年 油彩 ルーヴル美術館

ヴァトーによって生み出された雅宴画は、貴族の優雅な生活を描いた風俗画で、ロココ美術の特徴の一つであるジャンルです。

本作に登場するシテール島は、地中海に浮かぶ実在する島で、誕生間もないヴィーナスが流れ着いたと言われています。

そのことからこの島を巡礼すると良い伴侶に巡り合えると信じられており、当時の貴族たちのあいだで流行したイベントでした。

本作では、ヴィーナス像への巡礼を終えた男女が船に乗るようすが描かれています。

フランソワ・ブーシェ(1703-1770)

刺しゅうのデザイン画や版画の下絵などを描く画家の家に生まれたブーシェ。幼いころから、絵の心得があったブーシェは20歳の時、アカデミーに作品を出品します。その作品が一等に入賞!賞品はローマ留学のはずでしたが、当時のアカデミーは財政難だったため、自費でローマ留学をしたといいます。

帰国後、《リナルドとアルミーダ》で一躍名声を得たヴァトー。アカデミー会員になると、上流階級の人びとの人気を一身に集める画家として活躍します。


《エウロペの略奪》1732年ー1735年 油彩 ルーヴル美術館

本作は「エウロペの誘拐」というギリシャ神話の一場面を描いた作品です。中央にいる女性はフェニキア王の娘エウロペ。

彼女に一目惚れしたギリシャ神話の主神ゼウスが牡牛に姿を変えてエウロペの前に現れ、牡牛の美しい姿に惹かれたエウロペは牡牛の背中に座っています。

この後、ゼウス扮するする牡牛は急に走り出してエウロペを連れ去ってしまうという話ですが、その恐ろしさを感じさせない柔らかく美しい世界がブーシェによって描かれています。

ジャン・オノレ・フラゴナール(1732-1806)

元々は歴史画を描いていましたが、需要のあるロココ美術へと方向転換をし活躍した画家、フラゴナール。フラゴナールは甘美で官能的な世界を描き、ロココ美術最後の画家と言われました。


《ぶらんこ》1768年 油彩 ウォレス・コレクション

本作はサン・ジュリアン伯爵から依頼を受けて描いたもの。

足を大きく開いて楽しそうにぶらんこに乗っている女性、女性のスカートの中を覗くような若い男性、そして女性の夫である人物がぶらんこを押しています。

若い男性はなんと、依頼主のサン・ジュリアン伯爵。本作はサン・ジュリアン伯爵とぶらんこに乗る女性との不倫愛が描かれています。

ジャン・オノレ・フラゴナールについてもっと詳しく知りたい方はこちらをチェック!

ロココ文化の中心人物・ポンパドゥール夫人

ロココ美術発展の中心にいたポンパドゥール夫人。ルイ15世の愛人で、政治に関心が薄いルイ15世に代わって政治において権勢を振るうようになります。

そして芸術愛好家でもあったポンパドゥール夫人は画家たちのパトロンとなり、ロココ美術を発展させました。


ポンパドゥール夫人(フランソワ・ブーシェ)

そんなポンパドゥール夫人は、フランス王立窯・セーヴル窯(よう)設立に尽力。

元々はパリ郊外にあったバンセンヌ窯をセーヴルに移転させ、フランス王立のセーヴル陶器製作所とし、ロココ調の高級磁器を作り出しました。

「ブリュ・ド・ロワ」という綺麗な青色に金で装飾されたものと「ポンパドゥール・ピンク」を特徴とするセーヴル窯。

「ポンパドゥール・ピンク」は、ポンパドゥール夫人の尽力を讃えて、夫人が好んだピンク色を使用したといいます。

ロココ美術の作品を所蔵する国内の美術館

徴古館

徴古館は鍋島家12代当主の直映公により1927年に創立された佐賀県内初の博物館です。鍋島家伝来の歴史資料や美術工芸品を展示する博物館でもあり、有形文化財にも登録されています。

徴古館所蔵の《釉下彩藤花文大花瓶》は1911年に製作された、コバルトブルーで描かれた花模様が特徴的なセーヴル焼きです。

この花瓶はフランス大統領から朝香宮鳩彦王へ献上されたもので対となる花瓶があるそうです。

徴古館公式サイト

 

ヤマザキマザック美術館

ヤマザキマザック美術館は2010年に愛知県名古屋市に設立された美術館です。

初代館長の山崎照幸氏がコレクションした作品たちを展示し、18世紀から20世紀に渡るまでのフランス美術作品が楽しめます。

ヴァトー、ブーシェ、フラゴナールなどのロココ美術作品を全般的に所蔵しており、ブーシェ作の《アウロラとケファロス》もご覧いただけます。

ヤマザキマザック美術館公式サイト

おわりに

18世紀はじめ、ルイ15世の愛人であるポンパドゥール夫人も愛したロココ美術について紹介しました。

ルイ15世の逝去とともにロココ美術は衰退していき、甘美で優美なロココ美術は旧体制の古い美術として批判され、代わりに「新古典主義」という厳格な歴史画が好まれる時代へと変化していきました。

ロココ美術は夢のような時代でありながら夢のように終わった時代だなと感じました。この記事で時代背景を知ってから作品を見ていただくと美しさとともにはかないロマンを感じることができるのではないかと思います。

【参考書籍】
・中川右介『すっきりわかる!超訳「芸術用語」事典』株式会社PHP文庫 2014年
・トキオ・ナレッジ『大人の西洋美術常識』株式会社宝島社 2016年
・池上英洋『いちばん親切な西洋美術史』株式会社新星出版社 2016年
・瀧澤秀保『366日の西洋美術』株式会社三才ブックス 2019年
・岡部昌幸『語れるようになる 西洋絵画のみかた』成美堂出版株式会社 2019年