サンドロ・ボッティチェリ/10分でわかるアート

10分でわかるアートとは?

「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。

作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。

今回は、1400年代に活躍した画家であるサンドロ・ボッティチェリについて、詳しくご紹介。

「この作品を作った画家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。

サンドロ・ボッティチェリとは

サンドロ・ボッティチェリ(1445-1510)は、イタリア・ルネサンス期に活躍した画家です。

1445年にフィレンツェの皮なめし職人の末子として生まれ、15歳で当時もっとも名高い画家フィリッポ・リッピ工房の徒弟となりました。

生粋のフィレンツェ画家で、名が知れて成功しても住む土地を離れませんでした。

また、本名はアレッサンドロ・ディ・マリアーノ・フィリペーピで、ボッティチェッリは兄が太っていたことから付いた「小さな樽」という意味のあだ名だそうです。

陽気な性格で冗談やイタズラなどで周囲の人を笑わせるような存在であったこと、としても知られています。

知識欲も旺盛な彼は、メディチ家に集まった知識人とも交流が深く神話や哲学、詩の朗読などに夢中になっていたそう。

そんな彼の性格も作品にはよく現れているように感じます。

ボッティチェリの作品と特徴

サンドロ・ボッティチェッリ 「東方三博士の礼拝」 (1478-482)

数多くの名画を残したボッティチェリ。

《ヴィーナスの誕生》をはじめ、《プリマヴェーラ》、《東方三博士の礼拝》、《神秘の降誕》など作品を挙げるとキリがないほどです。

彼の作品には、独特の線の美しさと優雅なフォルムが特徴で、特に人物の表現性が高いと評価されています。

《東方三博士の礼拝》では、イエス・キリストが誕生したのち、遠方から賢者が訪れて敬意を示すシーンが描かれています。

旅路を表す描写や手を合わせ拝める描写など細部まで繊細に描かれているこの作品からも、彼自身の性格やこだわりなどが感じられます。

また《東方三博士の礼拝》には、ボッティチェリの自画像が描かれているのも遊び心をくすぐられます。

サンドロ・ボッティチェッリ 「東方三博士の礼拝」(部分) 1478-482

こちらを向いている人物がボッティチェリ本人と言われている

ルネサンス幕開けを告げた作品
《ヴィーナスの誕生》


サンドロ・ボッティチェッリ 「ヴィーナスの誕生」 (1483-1485)

中世のヨーロッパは、千年以上もキリスト教の支配下にあり、ミロのヴィーナスのような裸体は禁断とされていました。

そのような束縛から解放する空気に変わった15世紀フィレンツェで生まれたのが《ヴィーナスの誕生》。

官能的な美しさを秘めており、彼の特徴である繊細で優雅な曲線が随所に使われている、まさにボッティチェリを、ルネサンスを代表する作品となっています。

この《ヴィーナスの誕生》は、女神ヴィーナスが海から現れたギリシャ神話の一節が描かれていますが、ボッティチェリはキリスト教ではなくそれ以前の神話をテーマに作品を描く画家として名が知れていました。

女性の美しさを最大限に表現する線の達人


サンドロ・ボッティチェッリ 「春 (プリマヴェーラ)」(1482)

彼の作品の中でも《プリマヴェーラ》は、人間の美しさが表現された作品で女性のしなやかなフォルムはもちろん、華やかな衣装やヴェールからも気品溢れるものを感じます。

《ヴィーナスの誕生》よりも3年ほど早く誕生したこの作品は、当時禁じられていた女神の裸体を堂々と描かれている作品で、多くの批判を買ったそうです。

しかしこの作品を機に多くのヴィーナスという名目で女性のヌードが描かれた作品が数多く制作されるようになりました。


サンドロ・ボッティチェッリ 「聖母子 (書物の聖母)」(1479)

女性や赤子を主体にした彼の作品からは、女性の美しさが最大限に引き出され、赤子の愛おしいフォルムには思わず見惚れてしまいます。

光と陰ではなく明確な輪郭線を用いて形取る人物像も彼の特徴ならではで、美しさを際立たせる技術が隠されています。

 

そんな彼の作品に登場する女性は、当時絶世の美女と呼ばれたシモネッタ・ヴェスプッチという女性がモデルとなっています。

残念ながら22歳という若さでこの世を去ってしまいましたが、形に残るものとしてボッティチェリが彼女の美しさを描いた作品の数々は生涯にわたって語り継がれることとなりました。


サンドロ・ボッティチェッリ 「若い女性の肖像 (シモネッタ・ヴェスプッチ)」(1480-1485)

日本では、丸紅ミュージアムが唯一ボッティチェリの作品を所蔵しています。運が良ければ、丸紅ミュージアムで《美しきシモネッタ》を観ることができるかもしれません。

おわりに

今回は、サンドロ・ボッティチェリについて紹介しました。

彼の作品を観ていると繊細さが光るゆえに顔を近づけるとどこか作品の中に吸い込まれていきそうな感覚となり、人の心も体も奪う才能があったと感じます。

彼自身が男性であるからこそ、女性の魅力を最大限に引き出せる知識とスキルが光る数々の名作が誕生しました。

作品に触れれば触れるほど彼の性格や個性、作品に対する想いなど複雑な感情を味わうことができます。

本記事を通して彼の魅力が伝わり、少しでも興味を持っていただけるきっかけとなれば幸いです。

【参考書籍】
・『西洋歴史画絵画解説』秀英未来出版 2023年
・世界の名画シリーズ編集部『西洋絵画の巨匠100人:①ルネサンス誕生』楽しく読む名作出版会 2020年