お雇い外国人/10分でわかるアート

10分でわかるアートとは?

10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。

作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。

今回は、幕末から明治時代にかけて活躍した「お雇い外国人」について、詳しくご紹介。

「この作品を作った画家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。

お雇い外国人とは


歌川国輝(2世)「東京銀座要路煉瓦石造真図」1873年 9月
https://archive.library.metro.tokyo.lg.jp/da/detail?tilcod=0000000003-00055004(参照 2024-03-7)

お雇い外国人とは、幕末から明治時代にかけて、日本政府や各府県などによって雇用された外国人のことです。

江戸時代末期、日本は欧米列強との差を痛感し、殖産興業と富国強兵を目指していました。

そのため、欧米の技術・学問・制度を導入する必要がありましたが、当時の日本にはこれらの知識や経験を持つ人材が不足していました。

そこで日本政府は欧米から専門家を招聘(しょうへい/礼を尽くして人を招くこと)することを決断しました。これが、お雇い外国人の始まりです。

職業としては、教師や教授、指導者、設計士、建築士、学者などが挙げられます。

著名的なお雇い外国人について

当時の日本政府より招かれた数百人にもおよぶお雇い外国人。ここでは、代表的なお雇い外国人を紹介していきます。

ジョサイア・コンドル (イギリス)

ジョサイア・コンドルは、明治時代初期に活躍したイギリス人建築家です。

日本における近代建築の父とも呼ばれ、数多くの重要文化財を設計しました。

彼が手がけた代表的な建築は、東京大学、鹿鳴館、新橋駅などが挙げられます。


三菱一号館美術館

こちらは、ジョサイア・コンドルが設計した東京都千代田区にある「三菱一号館美術館」です。

コンドルの得意とする赤レンガ造りの建物となっており、国の重要文化財にも指定されています。

同館は、近代美術を楽しむ企画展も開催しています。

建物だけでなく国内外のコレクションに触れる機会もあったりと、アート好きにもおすすめの場所です。


ニコライ堂

東京都千代田区にある日本ハリストス正教会東京復活大聖堂の通称である「ニコライ堂」。

ここは、日本に正教を広めたロシア人宣教師の聖ニコライに由来して名前がつけられました。

その特徴はなんといっても、半球形のドームにあります。

ビザンチン建築という建築様式が用いられており、古代ローマ建築、ギリシャ建築、オリエント建築などの要素を融合させた独特なスタイルとなっています。

エドワード・モース (アメリカ)

エドワード・シルヴェスター・モースは、19世紀後半に活躍したアメリカ人動物学者です。

お雇い外国人として動物学標本採集のために来日したモースは、1879年に大森貝塚を発掘し、「日本の近代考古学の父」と称されるようになりました。


大森貝塚遺跡庭園(東京都品川区大井6-21-6)

東京帝国大学初代動物学教授として、ダーウィンの進化論を日本に初めて紹介するなど、日本の生物学の発展にも貢献しています。

日本文化に深い愛情を抱き、多くの日本人と交流した彼は、著書『日本その日その日』を執筆し、明治時代の日本人の生活を知る上で貴重な資料となっています。

日本を愛したモースは、以下のような言葉を残しています。

“日本人は、世界で最も勤勉で、最も礼儀正しく、最も清潔な国民である。”

日本の近代化に貢献しただけでなく、日本文化を世界に紹介した人物としても評価されています。

ル・コルビュジェ

ル・コルビュジェは、20世紀を代表するスイス生まれの建築家であり、モダニズム建築の三大巨匠の一人として知られています。

彼は、鉄筋コンクリートを活用した「ドミノ・システム」や高密現代都市構想「輝く都市」、建築寸法の黄金比「モデュロール」などを提唱し、建築界に大きな影響を与えました。

ル・コルビュジエによって設計された国立西洋美術館。
西洋美術に関する作品を広く公衆の観覧に供する機関として、1959年に開館しました。

彼の特徴である機能性を重視した白壁の箱型フォルムや、ピロティ、屋上庭園、自由な平面構成などが大きく反映されています。

また、ル・コルビュジエは建築家としての活動だけでなく、画家や都市計画家、家具デザイナーなど多才な人物としても知られています。

2016年には、彼の17作品が世界文化遺産に登録され、その文化的価値が世界に認められるなど日本はもちろん、世界においてもなくてはならない存在でした。

日本の近代化を支えた「富岡製糸場」


一曜斎国輝『上州富岡製糸場』,和泉屋市兵衛,明治5. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1312610 (参照 2024-01-15)

群馬県富岡市にある「富岡製糸場」は、フランス人技術者ポール・ブリュナをはじめとするお雇い外国人によって設立されました。

ブリュナは、フランスから最新式の製糸機械を輸入し機械の設置、製糸技術の指導など、富岡製糸場の全てに関与した日本の近代化に大きく貢献した人物です。

なかでもフランス式の製糸技術は、従来の日本式製糸技術よりも効率的で高品質な生糸を生産することができ、製糸産業の発展を促進しました。


一曜斎国輝『上州富岡製糸場之図』,大黒屋平吉. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1305876 (参照 2024-01-15)

2014年には、「絹産業遺産群」として世界遺産に登録された富岡製糸場。

現在では当時の施設を見学できるだけでなく、映像展示やガイドツアーなども行われており、多くの人々が訪れています。

富岡製糸場公式サイト:https://www.tomioka-silk.jp/tomioka-silk-mill/

おわりに

今回はお雇い外国人について紹介しました。

建築や軍事などの産業における活躍のほかにも、画家や近代美術を発展させたお雇い外国人も多くいます。

本記事をきっかけに、明治日本の近代化を支えたお雇い外国人に、興味を持ってもらえたら嬉しいです。

ぜひ、調べてみてくださいね。

【参考書籍】
・石本祐吉『わが国時刻表の父 お雇い外国人 ページ先生の生涯』22世紀アート 2022年
・天野瀬捺『世界が憧れた日本人の生き方 日本を見初めた外国人36人の言葉』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2016年
・アーネスト・フェノロサ 『現代語訳 フェノロサ 美術真説』近代芸術研究会 2019年
・ラフカディオ・ハーン『怪談』光文社 2018年
・河田純男『千載の軛 お雇い外国人医師、アルブレヒト・フォン・ローレツ』文芸社 2021年