アンリ・マティス/10分でわかるアート

10分でわかるアートとは?

10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。

作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。

今回は、フォーヴィスムのリーダー的存在の画家「アンリ・マティス」について詳しくご紹介。

「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。

アンリ・マティスとは

アンリ・マティス(1869-1954)はフランス北部のノール県出身の画家です。

マティスは父親の希望に応えるように法律家を目指し、法律事務所の書記として働いていました。

しかし、あるとき中耳炎になり入院。入院中の暇つぶしとして、母から絵を描くことをすすめられます。

これがきっかけで絵画に興味を持ち、父親が反対する中、マティスは画家の道を歩み始めました。

そしてマティスは、絵を学ぶために、パリのエコール・デ・ボザールへの入学を希望しますが、結果は不合格。

しかし、教官であったギュスターヴ・モロー(1826-1898)はマティスの熱意を評価し、特別に個人指導を受けることができました。

その後、ポスト印象派の影響を受けた後、フォーヴィスム(野獣派)のリーダー的存在と言われるようになったマティス。

自由な色彩表現を追求したマティスは、後にキュビスムなど20世紀美術の発展に大きな影響を与えました。

ここでは代表作をいくつか紹介します。

緑のすじのあるマティス夫人の肖像


《緑のすじのあるマティス夫人の肖像》 1905年 油彩 コペンハーゲン国立美術館

顔の中央に緑色の筋が入った女性の肖像画。マティスの妻アメリ―・マティス夫人を描いたものです。

「こんな人に出会ったら、私も逃げ出すだろう」とマティス自身が言うほど現実的でない色使いで、当時の批評家からの評価は良いものではありませんでした。

しかし、大胆なタッチと色使いはマティスの色彩表現の可能性を追求した作品の代表作と言えます。

赤いハーモニー


《赤いハーモニー》 1908年 油彩 エルミタージュ国立美術館

赤い植物模様の壁とテーブルクロスが印象的な本作。フォーヴィスム時代、もっとも優れた作品だと言われています。

テーブルに座って果物のセッティングをしているメイドは、色や構図を考えている時のマティス自身を表現しているそう。

堂々とした赤い壁とテーブルクロスに果物と椅子の黄色や、窓の外の景色に使用されている青や緑がはえる作品となっています。

豪奢、静寂、逸楽


《豪奢、静寂、逸楽》 1904年 油彩 オルセー美術館

マティスはゴッホやゴーガンからポスト印象派の影響を受け、その後、フォーヴィスムへとスタイルを変えてきます。

本作はそんなポスト印象派の影響を受けていたころに描かれたもの。

新印象派を代表する画家、ポール・シニャック(1863-1935)が発売したエッセイを読んで点描画を実践。

1905年、パリで開催された展覧会「アンデパンダン展」に出品しました。

「色彩」の表現、フォーヴィスムの始まり

モローから個人指導を受け、絵の勉強を始めたマティス。

1905年、もっとも自由な展覧会「アンデパンダン展」に《豪奢、静寂、逸楽》を出品しました。

その後、「秋のサロン」には全く違う系統の作品《帽子の女》を出品。

会場の第7室に展示されるのですが、この第7室にはマティスのほか、マルケ、ヴァン・ドンゲンなどの画家たちも参加していました。

展示室の真ん中にはこどもの像があり、その像を囲むように展示された彼らの作品は色彩の強い作品ばかり。

そんなようすを見た批評家が「まるで野獣の檻に入れられているような状態」と批評したのがフォーヴィスム(野獣派)の始まりです。

その後、マティスはフォーヴィスムのリーダー的存在となっていきました。

晩年にたどり着いた「切り紙絵」

フォーヴィスムは決められた理論はなく、ほとんど活動らしい活動もなかったため、メンバーは次第にそれぞれの表現を追求し始めました。

マティスは生涯をかけて線の単純化と色彩の追求。結果、マティスは絵画から離れ、切り紙絵の表現にたどり着きます。

切り紙絵は色紙をハサミでカットして制作するため、線、色彩の単純化がしやすかったのです。

晩年、マティスは南仏ヴァンスのドミニコ会修道院のロザリオ礼拝堂の装飾を手掛けることとなるのですが、その時マティスは重い病気にかかっており、入院生活が続いていました。

そのため、制作は病院内のベッドで行っていたそう。車椅子に乗り、礼拝堂の壁に長い棒の先端にコンテを付けて描いていたといいます。

おわりに

フォーヴィズムのリーダー的存在であったアンリ・マティス。

晩年は新しい表現を求め、切り紙絵を始めました。

フォーヴィズム時代の作品と晩年の切り紙絵作品と比べてみるのも楽しいかもしれませんね。

【参考書籍】
・とに~『ようこそ!西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』和光堂株式会社 2017年
・秋元雄史『武器になる知的教養 西洋美術鑑賞』大和書房 2018年