岩佐又兵衛/10分でわかるアート

10分でわかるアートとは?

10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。

作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。

今回は、江戸時代初期に活躍した絵師「岩佐又兵衛」について詳しくご紹介。

「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。

絵師、岩佐又兵衛とは

岩佐又兵衛(いわさまたべえ、1578-1650)は、戦国武将の荒木村重(あらきむらしげ、1535-1586)の息子として摂津(現在の兵庫県)に生まれました。

父の村重は織田信長(1534-1582)に仕えていていましたが、反旗を翻します。しかし、反逆は失敗におわり、荒木一族のほとんどが惨殺。

乳母に救い出された又兵衛は、敵方であった信長の息子の織田信雄(1558-1630)に仕え京都で暮らし始めました。

その後、狩野内膳(かのうないぜん、1570-1616)に師事したのち、絵師として独立し、京都に工房を構えることに。

その工房で又兵衛は、やまと絵や水墨画、狩野派、土佐派などの流派を独自に取り入れた作品で風俗画に新しい風を起こします。

そんな又兵衛の作風は「浮世絵の元祖」とも言われています。

岩佐又兵衛の代表作

山中常盤物語絵巻


《山中常盤物語絵巻》17世紀前半

本作は人形浄瑠璃を絵巻化した作品で、全12巻の全て合わせて150mにもなる大作です。

源義経の伝説に基づく御伽草子(おとぎぞうし)系の物語である『山中常盤物語(やまなかときわものがたり)』

この物語は、奥州へ下った牛若を追って、都を旅立った母・常盤御前が、山中の宿で盗賊に殺されてしまい、牛若がその仇を討つというあらすじです。

元は武士の子であった又兵衛の描く、争いの描写などは実にリアルです。

《山中常盤物語》は、熱海市にあるMOA美術館が所蔵しています。運が良ければ、本作を観る機ことができるかもしれません。

洛中洛外図屏風 舟木本


《洛中洛外図屏風 舟木本》17世紀

洛中洛外図屛風は、京都の市街(洛中)を中心にその周辺(洛外)の当時の景観や文化を描いた屏風絵で、さまざまな作家により描かれています。

国立歴史民俗博物館が所蔵する「歴博甲本」や、米沢市上杉博物館所蔵の「上杉本」など、国宝2点、重要文化財5点とある美術史的にも、歴史的にも非常に価値のある作品です。

又兵衛が描いた「舟木本」は、人物が生き生きと描かれているのが特徴です。

右側には大きく描かれた広寺大仏殿があり、中央には五条大橋。清水寺や八坂神社、祇園祭のようすも描かれ、京都の中心部を南側から描かれています。

数奇な運命を背負う武士の子、又兵衛は絵師へ!

時の天下人・織田信長に仕えた武将・荒木村重の息子であった又兵衛。武士の息子であった彼が、武士の道を捨てて、絵筆を握るようになったのは、父・村重による信長への謀反がきっかけでした。

信長により一族は滅ぼされましたが、又兵衛は奇跡的に救い出されます。

そして、命からがら京都へ逃げ落ち、父の家臣の子どもで、京都で絵師として活躍していた狩野内膳の弟子となります。

以降、又兵衛は、母の姓である「岩佐」を名乗り、画業に専念するようになりました。

大阪の陣の後、松平忠直(1595-1650)に招かれた又兵衛は福井に移住し、松平家のための作品を多数制作。

この時、又兵衛の代表作は多数生まれ、「浄瑠璃」の世界観を描き出した絵巻《浄瑠璃物語絵巻》も描かれました。

やまと絵や狩野派を独自に取り入れた又兵衛の作品は、のちの浮世絵師たちへと影響を与えていきます。

福井で20年過ごしたのち、徳川家にも招待され、晩年の20年は江戸で活躍しました。

近松門左衛門もあこがれた?又兵衛の生涯

「浄瑠璃」の世界をテーマにした絵巻《浄瑠璃物語絵巻》を描いた又兵衛。

江戸前期の浄瑠璃・歌舞伎の作者である近松門左衛門(ちかまつもんざえもん、1653-1724)も又兵衛をモデルにした舞台を書きました。

主人公の絵師「吃の又平(どもりのまたへい)」のモデルとされたのが又兵衛です。

1708年に初公演された、近松門左衛門による浄瑠璃「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」。

本作は、現代でも演じられ、大変人気のある演目です。

現代まで何度も上演されている「傾城反魂香」をきっかけに、又兵衛の名は広く知れ渡るようになりました。

おわりに

武士の家に生まれ、波乱万丈な人生を歩みながら、生き残った先の人生で絵師となった又兵衛。

そんな人生を生きた又兵衛にしか描けないものがあったのでしょう。

この記事を読んで、あらためて作品を見ると、何か感じることがあるかもしれませんね。

【参考文献】
・安村敏信『絵師別 江戸絵画入門』株式会社東京美術  2005年
・山下裕二『やさしい日本絵画』株式会社朝日新聞出版 2020年