喜多川歌麿/10分でわかるアート

今回の「10分でわかるアート」では、江戸時代中期に美人画の浮世絵師として活躍した喜多川歌麿を紹介します。

美人画の名手!喜多川歌麿とは?

喜多川歌麿は1753年頃に生まれたとされています。

幼少期から絵画に触れ、狩野派の画家の元で学んだのち、浮世絵師として独立しました。

江戸時代中期は役者絵と美人画が人気で、歌麿が20代の頃は芝居を題材にした役者絵や風俗画を描いていました。

蔦屋重三郎に見出されたことをきっかけに、美人画の浮世絵師として活動します。

江戸時代後期に主導された寛政の改革の影響で娯楽への規制が厳しくなり、歌麿の美人画家としての活動も徐々に縮小していきました。

ここからは、歌麿の代表作をご紹介します。

《「寛政三美人」 歌麿画》

「寛政三美人」 歌麿画

寛政年間に絶世の美女とされた「富本豊ひな」と「難波屋のおきた」、「高島屋の看板娘おひさ」をの3人を描いた作品です。

一見すると同じ顔に見えますが、各人の表情や顔立ちは微妙に違います。

この作品をとおして、歌麿の繊細で優雅な描写を堪能できます。

《ビードロを吹く女》

ビードロを吹く女

赤い市松模様の着物が可愛らしい女性が目を惹く美人画。当時人気だった町娘を描いています。

女性がどんな気持ちでビードロを吹いているのかを想像しながら鑑賞してみるのも面白いのではないでしょうか。

喜多川歌麿《土蔵相模月下遊宴図・品川の月》

喜多川歌麿《土蔵相模月下遊宴図・品川の月》

歌麿の最高傑作である「雪月花」三部作の一つ。アメリカのフリーア美術館に所蔵されています。

三部作の中で一番初めに描かれたとされており、海に面した開放的な空間で遊女や芸者がくつろいでいるようすを描いています。

「大首絵」を通して女性の美しさを最大限表現した喜多川歌麿

江戸時代に活躍した美人画の絵師としては鈴木春信や鳥居清長などがいますが、喜多川歌麿が最も有名です。その理由の一つが歌麿独自の手法「大首絵」の確立です。

喜多川歌麿 「名所腰掛八景 鏡」

歌麿以前は女性の全身を描き、女性特有の美しさを表現した構図が主流でしたが、歌麿は女性の上半身のみを描く「大首絵」と呼ばれる構図を生み出しました。

それにより、女性の表情やしぐさをより鮮明に表現することができるようになりました。

大首絵の構図自体は役者絵で使われていた手法ではあったものの、美人画に大首絵を用いたのは歌麿が初めてでした。

大首絵を用いて描いた美人画は、当時の江戸の人びとに大ヒット。歌麿は一気に人気絵師に躍り出ます。

歌麿は髪の毛一本一本まで丁寧に描いたり、小物や着物の柄にもこだわるなど細部まで美を追究した作品を残しています。

また、歌麿は色彩感覚に優れ、特に紅と藍色の色使いは格別でした。

歌麿独自の鮮やかな色彩で描かれた浮世絵などの日本の美術作品がヨーロッパに伝わると、当時の印象派の画家らに影響を与えたと言われています。

吉原で生きる遊女たちを描いた「青楼の画家」

歌麿の運命を変えたのは蔦屋重三郎です。
蔦屋重三郎は腕利きのプロデューサーとして、東洲斎写楽や葛飾北斎など数々の才能ある浮世絵師を発掘し、浮世絵の黄金期を築いた人物です。

吉原で生まれ育った蔦屋重三郎は、落ち目だった吉原を立て直した功績を認められ、吉原の人びとから厚く信頼されていました。
そんな蔦屋重三郎に見出された浮世絵師の一人が喜多川歌麿です。

歌麿は蔦屋重三郎の厚意で吉原に住み着くようになります。その中で、日常的に吉原の遊女のようすを観察し絵にしていきました。

最初は嫌がっていた遊女たちも歌麿の熱心さに打たれ、次第に心を許していきます。

吉原は江戸で唯一となる官許の遊里でしたが、料金が高額で遊びの作法も敷居が高く、一般大衆にとっては憧れの地でした。

遊女たちの日常を描いた歌麿の美人画は、江戸庶民の心を躍らせたことでしょう。

喜多川歌麿の作品が観られる美術館

岡田美術館

箱根にある美術館で、日本・中国・韓国の美術品を所蔵しており、東洋の美が集結しています。

歌麿の「雪月花」三部作の一つである《深川の雪》という作品が所蔵されています。

三部作を構成する他の2作品は米国にわたってしまいましたが、唯一国内で鑑賞できるのが《深川の雪》。

浮世絵史上最大の大きさを誇っており、迫力のある作品です。

公式サイト:https://www.okada-museum.com/

千葉市美術館

千葉市美術館

JR千葉駅から徒歩15分程度のところにある美術館です。

近現代の日本美術や千葉市を中心とした郷土にゆかりのある作品を所蔵しています。

歌麿に関係する作品として、《納涼美人図》を所蔵しています。本作は、歌麿の最盛期とも言える1794年〜1795年ごろに制作されました。

艶やかでしっとりとした佇まいの女性が魅力的に描かれています。

公式サイト:https://www.ccma-net.jp/

おわりに

江戸の人びとの理想的な女性像を描き、彼らの心を捉えた歌麿。
当時の美人画は今でいうアイドルのブロマイドあるいはポスターのようなものだったことでしょう。

また、小物と着物の柄の組み合わせへのこだわりはファッション雑誌のような役割も果たしていました。

あまり浮世絵を観たことがないという方でも、本記事を機に浮世絵の世界に没頭していただけたら幸いです。

10分でわかるアートとは?

「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。

作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。

「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。

【参考書籍】
・田辺昌子『もっと知りたい 喜多川歌麿 生涯と作品』東京美術 2024年