葛飾応為「吉原格子先之図」/太田記念美術館

浮世絵は肉筆画こそ面白い。版画との違いにもご注目【太田記念美術館】

2023年11月9日

『葛飾応為「吉原格子先之図」―肉筆画の魅力』太田記念美術館

江戸時代後期、葛飾応為(かつしかおうい)が描いた《吉原格子先之図》における光と影の表現は、当時の浮世絵にはあまり見られない表現だったといいます。

前回の展示から3年を経て、好評を博した本作が再び展示される機会を迎えました。

本展では浮世絵の中でも一点一点が手描きの肉筆画に着目し、北斎や歌麿など多くの絵師による、さまざまな時代の作品の魅力を伝えています。

葛飾応為とは

葛飾応為とは、浮世絵師である葛飾北斎の娘です。

晩年の北斎を手伝っていたといわれ、自身も絵師として活躍しました。

現在では世界でもわずか十数点しか作品が残っていないものの、鋭い観察眼や表現力が高く評価されています。

肉筆画の魅力

肉筆画の魅力は、絵師の技量をじかに窺える点です。

版画では絵師は下絵のみを描き、彫師や摺師によって一つの作品が仕上がりますが、肉筆画は下絵から彩色まで全てを絵師が手がける点に違いがあります。

また、版画では流行や事件なども描かれたことに対し、肉筆画は絵師が客から発注を受けて描くパターンが主流でした。

絵師のこだわりが詰まった彩色も見どころで、岩絵具などの濃い質感や鮮やかさも必見です。

『葛飾応為「吉原格子先之図」―肉筆画の魅力』の見どころ

本展では4つのテーマ別に肉筆画を展示し、絵師や時代ではなくジャンルで分類している点が特徴的です。

I 人を描く

注目すべき作品のひとつである葛飾応為《吉原格子先之図》は、光と影のコントラストが見事で、まるでレンブラントの絵画のようにも思えます。

このような西洋風の表現は当時にはあまり見られないもので、一般的な浮世絵では夜の絵でも画面を暗くしないことがほとんどです。


葛飾応為《吉原格子先之図》文政〜安政(1818〜60)頃 太田記念美術館蔵

浮世絵の肉筆画における「人」は、主に着物の女性の立ち姿であり、擬人化や武者絵で有名な国芳による美人画も展示されています。


展示風景より

美しい女性と無骨な男性の対比がユニークな《桜下短冊を結ぶ娘》や、当時の著名人を集合させた《団十郎 高尾 志道軒円窓図》など、一つひとつの個性を味わいながら観てみましょう。

さまざまな表装も美しく、絵の世界観と対応する装飾にもぜひ注目してください。


(左)二代歌川豊国《桜下短冊を結ぶ娘》文政8〜天保5年(1825〜34)頃 太田記念美術館蔵


奥村政信《団十郎 高尾 志道軒円窓図》宝暦(1751〜64)頃 太田記念美術館蔵

II 市井を描く

市井の人びとを描いた肉筆画は、「その他大勢の人たち」を観る楽しさがあるといいます。

前章の「一人立」の美人画と比べて、市井の人びとは時代における「人物はこう描くべきだ」といった観念を逸脱しているものも少なくありません。

漫画に出てきそうな表情や、なぜかこっちを見ている人の顔などユーモアがあります。


古山師重《隅田川両国橋之景》貞享〜元禄(1684〜1704)頃 太田記念美術館蔵

他には、雷門のあたりのにぎわいを描いたと考えられている《浅草寺図》や、雪の東京と桜の京都の道をゆく女性たちが視線を交わすような情緒深い《東都隅田堤(右)/京嵐山大堰川(左)》など、情趣に富んだ名品が揃っています。


作者不詳《浅草寺図》江戸時代前期(1603〜1700)頃 太田記念美術館蔵


歌川広重《東都隅田堤(右)/京嵐山大堰川(左)》嘉永2〜4年(1849〜51)頃 太田記念美術館蔵

III 風景を描く

前章の風俗とは異なり、純粋に風景を描いた肉筆画は北斎や広重が活躍した天保時代から本格化しました。

小林清親の《開化之東京両国橋之図》は、アメリカの画家ジェームズ・マクニール・ホイッスラーの《ノクターン》に似ているとも評されます。


小林清親《開化之東京両国橋之図》明治10〜15年(1877〜82)頃 太田記念美術館蔵

風景画の名手である歌川広重による、山水画のような趣でダイナミックな情景を描写した日光の滝も見事です。


歌川広重《日光山華厳ノ滝(右)/日光山霧降ノ滝(中)/日光山裏見ノ滝(左)》嘉永2〜4年(1849〜51)頃 太田記念美術館蔵

IV 物語を描く

『源氏物語』など、物語を題材にした肉筆画も数多く残っています。


展示風景より

取り上げられる作品は平安時代の古典から近世のものまでさまざまで、表現の形態も多様です。

小説や歌舞伎などが人びとに注目された江戸時代において、物語は絵師にとって興味深い画題であったことが窺えます。


(左)梅堂小国政《地獄太夫図》明治37〜明治末(1904〜1912)頃 太田記念美術館蔵

 

《吉原格子先之図》を筆頭に、さまざまなジャンルの肉筆画を観られるのが本展の魅力です。

筆を手にする絵師のまなざしや息遣いを想像しながら、味わい深い浮世絵の世界をお楽しみください。

Exhibition Information

展覧会名
葛飾応為「吉原格子先之図」 ―肉筆画の魅力
開催期間
2023年11月1日~11月26日 終了しました
会場
太田記念美術館
公式サイト
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/