塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
谷崎潤一郎をめぐる人々と着物 /弥生美術館
『痴人の愛』や『細雪』などで知られる、大正から昭和にかけて活躍した小説家・谷崎潤一郎(1886-1965)。その作品に登場する魅力的な人物たちは、実在した人びとをモデルに作られました。
そんな谷崎文学のモデルに焦点を当てる展覧会が、弥生美術館で開催中です。
展示風景
これまでの作品や登場人物、挿絵はもちろん、彼らが実際に着用した着物や装飾品なども紹介します。また、谷崎によって創作された作品の登場人物の装いを、アンティーク着物で再現。文学好きだけでなく、着物好きにもおすすめの展覧会となっています。
なお、展示される衣裳はコレクターの田中翼さんが提供する、アンティーク着物です!
本記事では、スフマート編集部が注目する作品とその衣裳を紹介します。
※展覧会情報はこちら
谷崎は、1885(明治19)年、東京で生まれました。
展示風景
文壇デビューをしたのは24歳のこと。美を追求した作風は「悪魔主義」とも呼ばれました。関東大震災後は関西に移住し、日本文化に根差した作品を多く執筆。『刺青』『蓼食ふ虫』など、多くの代表作を残しました。
その美しい文章や語り口、そして独特の感性をあらわにした作品は、現在でも多くの人びとを魅了しています。
大阪に暮らす蒔岡家の四姉妹、鶴子・幸子・雪子・妙子の日常を描いた作品『細雪』。三女・雪子の縁談をめぐるエピソードで物語は展開していきます。
本作のモデルは、3番目の妻・松子とその姉妹がモデルになっています。
展示風景
『細雪』の四姉妹をイメージした着物もズラリと並びます!
鶴子は本家の奥様らしい品の良い散歩着、ファッションを好んだ妙子は個性的な着物と、四姉妹のために考えられたコーディネートは、華やかで豊かだった戦前を感じさせます。
本作は、贅沢な戦前の描写が時代に合わないとして、戦中は掲載や配布を禁止されました。
谷崎は昭和2年、松子に出会い惹かれていきましたが、当時松子は大阪の老舗商店の妻。さらには2児の母親であったため、諦めます。また、谷崎も1番目の妻・千代とまだ結婚していた身でした。
その後、千代と離婚し2番目の妻・丁未子(とみこ)と暮らし始めましたが、昭和7年に松子から店が傾いたことを手紙で知らされ、2人は急接近します。
松子との交際が始まると同時に、谷崎は古典を題材にした傑作をどんどん発表するようになります。
やがて谷崎は丁未子と別れ、正式に松子と結婚。
『細雪』や『鍵』など、松子は多くの谷崎文学にインスピレーションを与えました。
展示風景
『鍵』は高齢者の性を題材とした先駆けで知られる作品です。本作のヒロイン・郁子は複数の女性をイメージして作られたものの、松子の面影が色濃く感じられます。
昭和30年代頃の着物は、洋服が普及していく中で着物もコンパクトになっており、袖が短いのが特徴です。作中の色気のある雰囲気に合わせて、着物もシックに。抽象絵画のような柄にも注目です!
谷崎は着物の着こなしに、洋装のアクセサリーや、メリンス(絹に比べて安価な毛織物)生地を取り入れることを提案しました。
豪華で優美なイメージのある谷崎ですが、彼が重視したのは「独創性」でした。
随筆『縮緬(ちりめん)とメリンス』では、ハイカラなデザインは、高級な絹地・縮緬よりもメリンス(モスリン)の方が嫌味っぽくない、と表現しています。
誰にも真似することができない文学を創造し続けた谷崎。おしゃれ好きでもあったため、着物においてもユニークな柄や着こなしを求めたのでしょうか?
展示風景
写真左は、『本牧夜話』(ほんもくやわ)に登場する日本人とポルトガル人の間に生まれた少女・弥生をイメージした着物で、メリンスが使われています。
本作は谷崎家の横浜本牧時代をベースにした作品で、日本人と異国の人びとが織りなす愛憎劇となっています。
作中に出てくる着物の記述をもとに、メリンスの着物とアクセサリーを組み合わせたコーディネートは今見てもハイカラに感じます。最新のカジュアル素材として人気だったメリンス。絹と比べて安価に生産できたため、実験的な柄の着物が多く作られました。
本展では谷崎の生涯を書いた、小説家・中河與一の『探美の夜』の挿絵も挿絵原画も数十点紹介。
作中では、谷崎は谷口という名前で登場し、ほかの人物も名前が変えられています。挿絵原画は田代光が担当しており、今回は69点の挿絵が出品されます。
展示される作品や衣装とともに、挿絵をまじえて谷崎の半生を知ることができます。
展示風景
裕福な少年時代から始まり、3度の結婚、スキャンダラスな小田原事件や、多数の発禁処分など、谷崎の激動の人生を垣間見ることができます。
出品される挿絵はすべて初公開です、この機会をお見逃しなく!
ノーベル文学賞も間近だったといわれ、いまだ世界的に高い評価を受ける谷崎潤一郎。
固定観念にとらわれず、自分の世界を追求し続けたその作品世界を、味わってみてはいかがでしょうか?
なお、本展は着物で来られる方も多いそうです!アンティーク着物を堪能したあとは、歴史ある根津の街を散策するのも楽しそうですね♪
コラボや公式書籍など、盛りだくさんの展覧会です。詳しくは公式ホームページをご確認ください。
※事前予約制