塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
泉屋ビエンナーレ2023/泉屋博古館
エントランス
中国本国以外では世界最大級とされる古代中国青銅器コレクションで有名な、京都・泉屋博古館。
その古代中国青銅器の殿堂で、現代の新進気鋭の鋳金作家10名が3000年前の青銅器からインスパイアされた作品を披露する興味深い展覧会が開催されています。
「泉屋ビエンナーレ」は2021年に続く2回目の開催です。
青銅器館展示風景
ビエンナーレ会場に入る前に、まずは企画の原点である青銅器館「中国青銅器の時代」を観賞。
古代から脈々と受け継がれた青銅器が一堂に会する展示室は、静かな存在感に満ちています。
《虎鏄》西周前期(紀元前11~10世紀)
泉屋博古館は、住友の青銅器コレクションを保存・研究する目的で開設されたミュージアム。実は住友と「銅」には深い関わりがあります。
住友は江戸時代に創業し、後に銅山の経営と銅精錬業で世界的企業に発展しました。
そんな背景を受け、泉屋博古館は代々受け継がれてきた「銅の文化」「金属の可能性」を伝え、広めるという目的を持って活動しているのです。
《虎卣(こゆう)》殷後期(紀元前11世紀)
青銅器は、溶かした金属を鋳型に流し込んで造形する「鋳金(ちゅうきん)」という方法でつくられます。東アジア、特に中国で3000年前に発達しました。
鋳金の基礎は既に3000年前に確立していたといわれ、青銅器館ではその素晴らしい技術を間近に観ることができます。
この歴史ある高度な鋳金技術を現代に伝えようと企画されたのが「泉屋ビエンナーレ」です。
泉屋博古館が現代の新進気鋭鋳金作家10名に、中国古代青銅器からインスピレーションを受けて表現した作品の制作を依頼。
作家それぞれの感性を落とし込んだ、個性豊かな新作が並ぶ展覧会となりました。
梶浦聖子《地上から私が消えても、青銅》
埼玉県で工房を開く梶浦聖子さんは、3000年という時の流れに思いを馳せました。
金属を入れて溶かす容器「坩堝(るつぼ)」から、花や人などさまざまな形が飛び出してきています。
梶浦さんにとって坩堝は過去と未来をつなぐ装置。
3000年前の青銅器と対話しながら作品を創っている自分、そして3000年後にこの作品と対話するかもしれない誰かへ。そんな思いを込めたといいます。
《地上から私が消えても、青銅》より涙を流す邪鬼
坩堝の足元には涙を流す邪鬼。手に握られた棒には「人は戦争をしている」の文字が。
いつの世も無くなることのない戦争。
「人は戦争をしていろ」にも見えるという邪鬼のメッセージは、過去への、そして未来への哀しいアンチテーゼでしょうか。
《円渦文敦》戦国前期(紀元前5世紀)
こちらは2500年前に作られた穀物を盛る器です。ふたを取って逆さにしても置けるよう、ふたにも足がついています。
「宇宙観があって、なんだか動き出しそう」そう語り、この造形に魅了されたのが久野彩子さん。
「円渦文敦(えんかもんたい)」をモチーフに作られたのがこの作品です。
久野彩子《time capsule》
「2500年前の器の存在自体が、現代に残されたタイムカプセルのよう」そんな思いに駆られながら制作した作品。
《time capsule》部分
「円渦文敦」を汲んだフォルムに電子基板のような文様が複雑に絡み合ったさまは、SF映画を見てるような楽しさです。
柴田早穂《空白の肖像 古代青銅器と人々》 台座部分拡大
小豆島で制作活動を続ける柴田早穂さんは、歴史の中に埋もれた古代の人びとに焦点を当てました。
先祖に供える供物の煮炊きをしたり、器に酒を注いだり。青銅器と共にあった人びとを想い描きました。
脚部には、調理の炎や骨付き肉まで刻んであって、ちょっとほっこりします。
作品の表面が少しざらざらしているのが見えるでしょうか。
溶かした金属を流し込む鋳型に、地元小豆島の4000万年前の地層の砂が使われているそう。
この小さな作品にも、時空の旅がありました。
《饕餮文鼎》殷後期(紀元前12世紀)《亜丙爵》殷後期(紀元前12世紀)《戈祁盉》西周前期(紀元前11世紀)
柴田さんの作品のモチーフになっている人びとが手にしているのは、こちらの青銅器です。
平戸香菜《こぼれ落ちる祈り》
青銅器に刻まれた“文様”にインスピレーションを受けたという、平戸香菜さんの作品。
影も含めてひとつの作品になるよう意図して造形したといいます。
観る向きによって影の表情が変わるので、いろんな印象を楽しめます。
佐治真理子《よりしろ》
古代中国の青銅器には、虎、象、ふくろうなど、さまざまな動物がかたどられています。
佐治真理子さんは、それらの動物にお面をつけたユニークな作品を制作しました。
霊力を持つとされた動物たち。仮面は、古代の人びとの信仰のよりしろを意味するそうです。
古代青銅器をどう捉え、どう表現するか。10名の作家の感性はまさに「十人十色」。
ここではすべてを紹介しきれませんが、このほか石川将士さん、上田剛さん、杉原木三さん、三矢直矢さん、本山ひろ子さんのオリジナリティあふれる作品がならびます。
ぜひ会場で、古代中国の青銅器と現代鋳金作家のコラボレーションをお楽しみください。
同時開催「青銅器になった動物たち」
青銅器館「中国青銅器の時代」第3室では、特集展示「青銅器になった動物たち」が同時開催中。
泉屋博古館のご近所にある京都市動物園は今年120周年を迎えました。同館では京都市動物園とコラボした企画「青銅器になった動物たち」が楽しめます。
『動物学×考古学』という新しい視点から、古代の人びとが動物をどのように見つめてきたかに迫る展示となっています。
《金銀錯獣形尊》北宋(10~12世紀)
動物たちの凛々しい姿を写した器が多い中、目を惹かれたのがこちら。
羊のようなロバのような?親子の器です。何の動物かはわからないですが、後ろ姿がとてもかわいいんですよ。
スタンプを集めて遊べる企画「デジタルスタンプラリー」では、泉屋博古館と京都市動物園両方をまわってスタンプをためるとARフォトフレームがもらえます!
「青銅器になった動物たち」のマスコットキャラクター
(左:鴟鴞尊(しきょうそん)レプリカ右:館員私物 2022年全国4会場で開催の特別展「ポンペイ」グッズ))
古代の青銅器の声を聞き、現代、そして未来が共鳴(resonation)し合って、時空を超えた新たな作品が生まれる。
企画タイトルの「Re-sonationひびきあう聲」は、作家と美術館スタッフのそんな思いが込められています。
同時開催の企画もあって、見どころやお楽しみもたくさん。
秋のひととき、ぜひお出かけになってはいかがでしょうか。