風刺画/10分でわかるアート
2023年3月29日
ICC アニュアル 2024 とても近い遠さ/NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
NTT東日本が運営する文化施設「NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]」にて、「ICC アニュアル 2024 とても近い遠さ」が、11月10日まで開催されています。
ICCは「コミュニケーション」というテーマを軸に、オープン以来、現代のメディア環境における実験的な試みや新しい表現を紹介してきました。
今年3回目となる「ICCアニュアル」では、現代の情報環境における「遠さ」と「近さ」に着目。
特にコロナ禍以降の私たちの意識の変化を考える作品が展示されています。
通信技術は遠くにあるものを近づけるものとして構想されてきましたが、ソーシャル・ディスタンスのように物理的に「近い」からこそ、適切な「遠さ」が求められる時期を経た私たちにとっては、「近づけなさ」につながるものになっているかもしれません。
今回の展示では、このような情報環境と日常の変化を踏まえて、国内外で活躍する9名(組)のアーティストの作品によって、さまざまな視点から現在の「遠さ」と「近さ」について考えます。
青柳菜摘と細井美裕は、今回初めての共同作品として、東京湾の人工島(埋立地)での記録をもとにした映像インスタレーションを制作しました。
この作品では青柳が映像、細井が音を担当しました。
実際の記録をもとに制作された映像で、東京湾岸のゴルフ場、ゴミ収集車などが登場します。
しかし、どこか非現実的な「見たことがあるようで、見たことがない」ような風景が拡がっていて、現在から東京湾が埋め立てられるはるか前や、逆に未来を想像させるような不思議な世界が展開します。
木藤遼太は、ラヴェルによる「ボレロ」の81種類の異なる演奏音源を、小節ごとに分割して組み合わせ、それを同時に再生することで、本来存在しない実演を空間に出現させました。
これは東京藝術大学で彫刻を学んだ木藤による、音による彫刻ともいえることでしょう。
本作は、ICC内の無響室で展示するために再構成された新バージョンの作品です。
音の反響がなく、外部の音から遮断された、無響室という特殊な空間ならではの音をぜひ体感してみてください。
本作は、中国最大のSNSのひとつであるウェイボーの投稿から、検閲で削除された投稿を抽出・分解し、3つの作品として構成した作品です。
壁面に投影されている文字は、インターネットで削除された「つぶやき」。それが投稿されてから削除されるまでの期間と同じだけ表示されています。
とても多くのことばが日々検閲、削除されていることを淡々と物語っています。
「ハイパー神社」は現代アーティストのたかくらかずきが、JPGやPNGなどの15種類の拡張子をカミに見立ててキャラクター化したプロジェクトです。
今回展示されている《ハイパー神社(蛇)》は、このシリーズの中のひとつ。
プレイヤーは海蛇のカミとなって、画面上のひらがなを紡いで5・7・5の「うた」を作ることが求められ、「うた」が完成すると神社に奉納されます。
この作品は、東京・有楽町のSusHi Tech Squareで9月23日まで開催中の 「人間×自然×技術=未来展」 で展示されている《ハイパー神社(鬼)》と連動していて、それぞれが相互に影響を及ぼし合っています。
日本では、古くから山、 海、石などの自然にカミを見出し、恐れてきました。
たかくらは、そうした自然崇拝は、現代の噂話やインターネットの炎上などの見えない 「空気」 への反応と共通するものがあるといいます。
そして「これら目に見えない価値観との付き合い方こそ、平安時代から現代まで共通する大きなテーマではないか」と語っています。
本作は千葉県南房総の海岸で、波と岩の風景を長時間にわたって同じ位置で撮影した映像をもとに、空間と時間軸の表示方法をさまざまに操作した映像インスタレーションです。
古澤龍は、趣味のサーフィンで海上で水平線を見ながら波を待つときに、地上との距離感や時間感覚が失われ、 波と一体化するような時間、空間の経験のようなものを感じたそうです。
そして波の砕ける形を、デジタル技術を使って従来の時間の概念をちょっと外したところから見るとどうなるかと思ったことが、本作のきっかけだったといいます。
躍動感のある波や変化する岩の形は、まるで俵屋宗達の《松島図屏風》(ワシントン・フリーア美術館蔵)を映像で見ているよう。
画面の中の時間の流れに自然と引きずり込まれるような不思議な感覚が体感できます。
米澤柊は、アニメーションにおいて「オバケ」と呼ばれる、早い動きなどを表現するための残像表現技法に着目して、作品を制作してきました。
アニメーションは、魂や生命を意味するラテン語”アニマ”が語源で、生命のないものに命を与えて動かすことを意味します。
米澤は、新キャラクターの「オバケ」や、会場に流れる音の表現などをたよりに「はっきりととらえることができないアニマの存在や気配を、展示空間で感じてもらえれば」と語っています。
4階シアターでは、台北を拠点に活動するアーティスト、リー・イーファンと、フランス人アーティスト、ユーゴ・ドゥヴェルシェールによる映像が上映されています。
上映時間が30分を超える作品もあるので、全部の作品を見る場合は、時間に余裕を持って訪れることをおすすめします。
また5階ロビーには、NTTの研究所によるさまざまな最先端技術が無料で体験できるエリアもあるので、こちらもぜひ立ち寄ってみてください。
会場には、多彩なアーティストが、異なるアプローチで「遠さ」と「近さ」を探求した作品が並んでいます。
それぞれのアーティストの目を通して日常生活や情報環境の変化を見つめることで、普段は意識しない日常の中の非日常や、自分によって心地よいと思える”距離”に気づくヒントが得られることでしょう。
ぜひ自分なりの感じ方で作品を見て、考えて、楽しんでみてください。
月曜日が祝日もしくは振替休日の場合、翌日を休館日とします。休館日以外においても、開館時間の変更および臨時休館の可能性がございます。最新情報はICCウェブサイト(https://www.ntticc.or.jp/)などでお知らせします。