三原聡一郎 レシピ:空気の芸術/慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)

身近な現象をアートに翻訳する 三原聡一郎の”空気の芸術”【慶應義塾ミュージアム・コモンズ】

2024年6月19日
三原聡一郎 レシピ:空気の芸術/慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)

慶應義塾ミュージアム・コモンズ エントランス

「三原聡一郎 レシピ:空気の芸術」展が、慶應義塾ミュージアム・コモンズで開催されています。

慶應義塾ミュージアム・コモンズは、JR田町駅から徒歩10分ほどの場所にある、慶應義塾大学三田キャンパス内に隣接するミュージアム施設。
美術、歴史、科学など、多岐にわたる分野の展示や、学生、教職員、一般の訪問者が交流できるイベントが開催されてきました。

本展は、身の回りにあるさまざまな現象について独自の方法で芸術への読みかえを行ってきたアーティスト 三原聡一郎の個展です。

アーティスト・三原聡一郎

三原聡一郎は日本の現代アーティスト。
音、泡、放射線、虹、微生物、苔、気流、土、水、電子といった、さまざまな物質や現象を取り扱い、それらを芸術として再解釈する試みを行ってきました。

また、アーティストとしての活動に加え、音響彫刻の展覧会キュレーションを行ったり、メディアアート作品の保存修復にも携わるなど、その活動は多岐にわたります。

「振動」「呼吸」「粒子」のカテゴリからなる ”空気の芸術”

本展は、三原聡一郎の近年の制作活動を一望する展覧会です。

展覧会のタイトルとなっている”空気の芸術”は、三原が自身の作品と制作の関心を整理し、「振動」「呼吸」「粒子」の3つのカテゴリを抽出したもの。
今回、3フロアにわたる会場に、私たちを取り巻く循環的な世界にさまざまな切り口から迫る「空気の芸術」の作品が展開されています。

「三原聡一郎 レシピ:空気の芸術」展 展示風景

「振動」の芸術

「振動」の芸術は、音楽や超音波など、空気を振動させる作品群。

静かな展示室の中で時折チリンと澄んだ音が聞こえてくるのは、《  鈴》という作品です。

ガラスドームの中にあるガイガー=ミュラー計数管が環境放射線を検知すると、ドームの中のガラスベルが、風鈴のように鳴ります。

《  鈴》/ 三原聡一郎 (2013)

古くから邪気を祓い、清めてくれるとされている風鈴。
それをモチーフとした本作では、人間が感知できない存在を、データとはまた違った形で認識できるように変換しています。

「粒子」の芸術

新作の《粉を挽く》は、「粒子」の作品です。

covid-19のパンデミック中にコーヒー豆を挽いた体験から、香りも空気中に飛散する物質であると認識したことに着想を得たという本作。

《粉を挽く》/ 三原聡一郎 (2024)

ガラスや半導体などのさまざまな物質がビーズミル(ビーズを使った攪拌粉砕機)、ミル、石うすで粒子化され、顔料としてシルクスクリーンのインクとなり、紙にプリントされています。

《粉を挽く》/ 三原聡一郎 (2024)

「呼吸」の芸術

「呼吸」の作品のひとつは《土をつくる》。透明な円筒状の容器の中で、葉や木片といった有機物が微生物によって分解され、堆肥化されていきます。

会場では、三原により自動化されたコンポストの装置も設置。

会場でのコンポストのようす

三原は昨年より慶應義塾中等部の生徒らとのワークショップを実施しており、コンポスト装置も昨年から慶應義塾大学の学内で稼働し続けているそうです。

「三原聡一郎 レシピ:空気の芸術」展 展示風景 右上が慶應義塾中等部 物質循環ワークショップで制作された「筆」たち

身近な現象をアートに翻訳する作品

各カテゴリの中間に位置する作品もあります。例えば《無主物》は、「粒子」と「呼吸」の中間に位置する作品。

《無主物》/ 三原聡一郎 (2020)

ペルチェ素子(電流を流すと片面が冷却され、もう片面が加熱される板状の素子)によって空気中の水蒸気が冷却されて水となり、その下に置かれた苔玉に水滴が落ちていきます。
寒い日には、冷やされた水が凍ることもあるそう。

《無主物》/ 三原聡一郎 (2020) 結露と同様な仕組みでペルチェ素子で冷やされた水蒸気が水に変化しています

地上の水が蒸発して、雲になり、雨や雪となって地上に降る水の循環を箱庭的に観察するような作品です。

また、身近な「水」という物質の物性が、気体・液体・固体と変化していく面白さを改めて体験できます。

想像力を共有するための ”レシピ”とは?

本展を構成するもう一つの重要な要素は、展覧会のタイトルにもなっている”レシピ”です。

「レシピ:空気の芸術」/ 三原聡一郎 (2024)

レシピとは材料や作り方が示されるもの。
今回は展覧会で展示された作品に対し、「概念図内の作品座標(3つの軸上の作品の位置づけ)」「スケッチ」「扱われる現象」「設計図 回路図 ハードウェア」「素材サンプル」といった、9つの観点でまとめられたレシピが展示されています。

「レシピ:空気の芸術」/ 三原聡一郎 (2024) ここで印刷に使われているインクは、作品を構成する素材から3つ選び、《粉を挽く》によって微粒子化したものから作られているそう

これらは、単なる指示書ではなく、作者がどのような興味からその作品を制作してきたのか、「想像力を共有する方法」としてのレシピです。

三原がこうしたレシピを作成するのは、生前の作品制作にも携わってきたメディアアーティスト 三上晴子の作品修復を行った経験や、サウンドアーティスト フェリックス・ヘスの作品の再展示を行う中で感じた、メディアアートの修復・再制作の難しさに由来するといいます。

三上晴子、フェリックス・ヘス作品の修復・再制作を行った際の記録映像も展示

年代によって入手できる素材やパーツ、システムが変化してしまったり、周囲の環境の影響を受けるメディアアート作品ですが、そのコアとなる思想を残すことで、時代や場所に合わせて変えて良いものと、残さなければいけないものが見えてきます。

今回展示されたレシピはその第一版。今後もアップデートされていく予定だそうです。

まとめ

「三原聡一郎 レシピ:空気の芸術」展 展示風景 テラスや階段など、会場全体を使って作品が展示されています

今回の展覧会は、三原聡一郎の近年の作品から、「振動」「呼吸」「粒子」という3つの軸上にまんべんなく分布する多様な作品を展覧できる機会となっています。

さらに、展示されている作品とあわせ、その作品のコアとなる思想や興味をレシピから想像することができる展覧会でした。

3フロアにわたる展示室や、階段、通路、屋外テラスも使った展示構成も楽しめます。

「三原聡一郎 レシピ:空気の芸術」展は、2024年8月3日まで、慶應義塾ミュージアム・コモンズで開催されています。

Exhibition Information