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2024年11月21日
MOTコレクション 被膜虚実/Breathing めぐる呼吸/東京都現代美術館
戦後美術を中心に、近代から現代までの約5600点の作品を収蔵する東京都現代美術館。これらの収蔵作品は、コレクション展示室で「MOTコレクション」と題し、会期ごとにテーマを設け、現代美術の魅力を発信しています。
現在開催中なのは、「MOTコレクション 被膜虚実/Breating めぐる呼吸」。
1階では「被膜虚実(ひまくきょじつ)」と題し、三上晴子(1961-2015)の1990年代初めの作品を起点に「被膜」のイメージから展開した、それぞれの作家の作品を展示しています。
3階では、人の呼吸に繋がる、風や水、大気の流れやエネルギーなどを感じられる作品群で構成した展示「Breating めぐる呼吸」を開催中です。
ここでは、「被膜虚実」と「Breating めぐる呼吸」の見どころを紹介していきます。
日本におけるメディア・アートの先駆者として、約30年にわたり活動してきた三上晴子。本展のタイトルにある「被膜」は、三上が繰り返し用いていたキーワードのひとつです。
三上の作品は、鉄屑や壊れた機械などの廃材を素材に、情報社会と身体をテーマにしたオブジェや舞台装置を手掛けた1980年代と、ニューヨーク留学を経てコンピュータサイエンスを学び、知覚を接点とする作品を手掛けるようになった1990年代に分かれます。
三上晴子 《スーツケース|World Membrane:Disposal Containers-Suitcases》《[スーツケース(黄)]》1992年-1993年 東京都現代美術館蔵
今回、同館で初めて展示された、ローラーコンベアー上に並ぶ9つのビニール製スーツケースとキャリーカートに括り付けられた黄色コンテナからなる作品《スーツケース》は、その移行期である、1990年代初めに制作されたものです。
この時期の作品を多く廃棄したと言われる中で、現存する極めて貴重なものです。作品からは、移行期の三上の作家活動を垣間見ることができます。
技法やスタイルに固執せず、その時に相応しい方法で作品を制作してきたのは、石原友明(1959-)。
今回は、ヴェニス・ビエンナーレ(アペルト部門)に出品された、大作インスタレーション《約束》が15年ぶりに展示されています。
石原は、アプローチを変えながらも繰り返し、身体(人体)への関心が示された作品を数多く制作してきました。
《約束》も、幅20メートルを超える青い画面が広がる空間に、石原の身体へのイメージが、被膜に覆われた小舟のように描かれた作品です。
石原友明 《約束》1988年 東京都現代美術館蔵
「Pixel」(画素)と「Cell」(細胞、粒、器)を融合した「PixCell」という作品シリーズを制作するのは、名和晃平(1975-)です。
はく製の鹿の表面が大小さまざまな透明の球体に覆われた、見た目が特徴的な《Pixcell-Deer#17》や《PicCell-Bambi#10》などが展示されています。
名和晃平 《PixCell-Deer #17》2009 東京都現代美術館蔵
表皮だけがリアルなまま残され、内側は空虚な物体であるはく製。その形をなぞるようにして、外側に覆われた球体により、生々しい獣のリアルさを内側に閉じ込め、その存在感を抽象化し、表現した作品となっています。
その他にも、パフォーマンス行為を記録することから映像制作を始めた百瀬文(1988-)、選んだ風景の中で自身が行うシンプルな行為を定点カメラで撮影する短編映像を手掛ける潘逸舟(ハン・イシュ)など、近年活躍が著しい作家の作品も公開しています。
百瀬文《山羊を抱く/貧しき文法》2016
潘逸舟《戻る場所》2011
3階「Breathing めぐる呼吸」の入口を入ると、目の前に広がるのが、生誕100周年を迎えた、サム・フランシス(1923-1994)の大型の絵画作品です。
サム・フランシス 《無題》 1985年 寄託 アサヒビール株式会社所蔵
カリフォルニア出身のフランシスは、兵役中の飛行訓練の事故で病床生活を送ることに。寝たきりの入院生活の中でセラピーとして水彩画を描き始め、本格的に美術を学びました。
1957年の世界旅行の際に初めて来日して以来、日本と深く関わるようになりました。この頃から作風にも変化が訪れ、ヨーロッパや日本にもアトリエを残しながら、カリフォルニアの拠点で、アクリル絵具を用いて作品を制作するようになったといいます。
サム・フランシス《無題(SFP85-95)》1985 寄託(アサヒビール株式会社所蔵)
《無題》に観られる、水をたっぷりと含んだ色の滲みや絵具の飛沫などは、フランシスが描く、独特の浮遊感を表現した作品といえるでしょう。
エネルギーを感じられる作品は、その他にも。
静かに横たわり、黒光りしている大きな物体は、遠藤利克(1950-)の《泉》です。
焼成(*)による木や水、土などを使用し、スケールの大きな作品を手掛ける遠藤。その世界観を表すキーワードは「空洞」だそうです。《泉》の作品制作時の映像に、中をくり抜かれた木が、採石場に並べられ、そこで火がつけられた様子が記録として残されています。
*焼成(しょうせい)…原料を高熱で焼いて性質を変化させること。
遠藤利克《泉》1991 東京都現代美術館所蔵
煙を上げて吐き出した空洞からは、目に見えない精神や気力が表現されています。
白や黒、緑、グレー、ピンクなどのアクリル絵具を使用し、抽象絵画の可能性を追及するのは、松本陽子(1936-)です。
松本陽子《夜》1991
かつて「空気を描きたい」と語った松本は、作品の中に絶えず流動する色彩を「空気」のように鮮やかに表現し、全てを包み込むようなエネルギー溢れる作品を描いています。
本展では、松本の1990年~2000年代の代表的な絵画作品に加えて、2000年代以降の作品を併せて展示しています。
2つのテーマで構成された今回の「MOTコレクション展」。1980年代末以降の約30年間にわたる戦後美術を通して、私たちの身体的な繋がりや身近な呼吸について、改めて意識し考えさせられるような、そんな展示だと思いました。
また、同館企画展示室で開催中の「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」の観覧チケットで、本展示を観られます。
来館の際は、合わせてご覧になってみてはいかがでしょうか。